学生王座戦2023振り返り(桑原)
金沢大学1年の桑原です。
金沢大学将棋部は、2023年12月26日~28日に行われた全日本学生将棋王座戦に出場しました。
夏のトリプルアイズ杯では、私は事実上の当て馬枠での出場で1勝2敗でしたが、7人制の学生王座戦では端に近い十三将を務め、初のフル出場となりました。遅ればせながら、大会への準備、実況の様子なども交えつつ、全9局を振り返っていきたいと思います。
※一部敬称略
※記憶を頼りに棋譜の再現を行っていますが、一部手順が前後している可能性があります。あらかじめご了承ください。
※外向きの文章では、原則として身内に敬称を使わないらしいですが、気にしないでください。
※長いので、読みたいところだけ読むことを推奨します。
大会に向けての準備
トリプルアイズ杯では3位を獲得した金沢大学チーム。私はチームの勝利に絡む活躍はできませんでしたが、5人制のトリプルアイズ杯とは違い、学生王座戦は7人制ですから、私の選出機会も増えるだろうという期待がありました。
とりあえず、明確な目標があった方が燃えるだろうということで、将棋ウォーズ10秒六段昇段という目標を自分に課し、10月からほぼ毎晩特訓しつつ、その様子をミラティブで配信していました。日に20局近く指すこともあり、我ながらかなり打ち込んでいたと思います。また、部室でもエースの先輩方に教えてもらったり、青森出身の強豪・蛯澤君の胸を借りたりと、連日ビシバシやっていました。
結局、昇段はかなわなかったのですが、部室で、あるいはウォーズで、格上に一発かましたり、格下に手痛い一撃をもらったりする中で、自分の弱みがだんだんと見えてきました。
定跡力、研究力
高校までは、定跡いらず研究いらず(?)の右玉党というのを建前に、手将棋大歓迎の力戦派、居飛車メインのオールラウンダーとして指していました。研究勝負を回避しつつ、序中盤の相手のミスを拾ってポイントを積み重ねていくスタイルで、まずまず戦えていた印象です。
しかしながら、金大将棋部に来て、先輩方や、同じ一年生の蛯澤君たちと指すうちに、自身の定跡力の無さを痛感することになります。
金大将棋部の主力としてやっていくには、そろそろ力戦派という言い訳をやめ、きちんと研究を入れるべきだと感じ、短期間ではあるものの、ソフト研究に力を入れました。
中終盤のセンス
将棋ウォーズで負け譜を量産する中で見えてきたのは、序盤・中盤で優勢にした将棋で逆転負けすることが多い――つまり、まくられやすいということでした。長く定跡無視でやってきたおかげか、中盤の立ち回りにはそこそこ自信があるのですが、そこからの決定力がなく、いつも中途半端に受けようとして逆に傷口を広げてしまいます。これについては、私的に研究会を開催し、ソフトでの検討も交えつつ弱点を洗い出していきました。我が部のエース、國井先輩には本当にお世話になりました。
さて、今回のオーダー表で私は(選手登録上)十三将として戦うことになりました。
前主将の磯崎先輩からも説明があると思いますが、今回のオーダーのひとつの狙いは「端の武田・桑原で稼ぐ」というものでした。私は十三将という位置の都合上、オーダー上の可動域は狭くなりますし、他大学の狙い撃ちはほぼ回避できません。実際、今大会では小倉先輩が選出された大阪大学戦以外は、私はすべて七将として戦っています。
このコンセプトについては大会前から伝えられていたので、全試合に出るつもりで、気合をもって臨みました。
1日目(12/26)
初日は名古屋大学・大阪大学・東北大学との対戦。
余談ですが、会場に到着してから、糖分補給用の「明治ミルクチョコレート スティックパック」をホテルの冷蔵庫に置いてきてしまったことに気付きました。作戦負け。
巷ではカルピス原液なるものが流行っているようですが、私は大会ではよく「サントリー天然水 きりっと果実」を持ち込みます。また、カルピスウォーターもしばしば。コーヒーが好物なのですが、大会の時は消化不良になりがちなので、胃に悪い(と思っている)コーヒーやカフェオレはなるべく避けています。
春日先輩に今大会の目標を訊かれ、「9戦全勝目指します」。そう答えた手前、ここでつまずくわけにはいきません。
なにせ、2日目は早稲田大学・立命館大学・東京大学という「鬼門」が待ち構えているのですから……。
1回戦:名古屋大学戦
難敵・静岡大学を退け、中部代表の座を勝ち取った名古屋大学。お相手は津田氏。
雁木調vs居飛車ですが、後手の右銀が5三に素早く展開されているのが特徴。ここで津田氏は△3四歩。以下▲4六角~▲3八飛で3四の歩をかすめ取ることに成功。1歩得で局面を落ち着かせて先手有利です。
しかし……
1歩得したはいいものの、ここからの方針が難しい。放っておくと△6二角と据えられ、△3三銀or桂から△4五歩と盛り上がり、大駒を圧迫されてしまいます。ここは、ひとまず▲6五歩△5三銀と銀を下げさせてから、戦線をずらす▲2六飛。
その後、こちらが1、2筋で開戦し、端を詰めた次図。
ここで▲4五桂が取られそうな小駒をさばく気持ちのいい一手……と、対局中は気分がよかったのですが、よく見たらコレ▲7三歩が通りますね(△同角には2六の銀がタダ)。対局中は全然気が付かなかった。反省です。
その後は飛車を成り込むことに成功し、寄せ切って勝利。1歩得に気をよくしていましたが、お相手の圧迫にかなり焦らされました。
対戦ありがとうございました。
チームは6-1で勝利。良いスタートです。
2回戦:東北大学戦
山形大学との代表争いの末、王座戦の舞台へとやってきた東北大学との戦い。私は上遠野氏と対戦。
相雁木の先後同型となりました。AIなら千日手を推奨する局面ですが、仕掛けてもほぼ互角なのを知っていたので、ここは迷わず仕掛けました。
本譜は先手よしの変化。とはいえ、同型は同型。相手からの反撃にきちんと対処しないと一瞬で悪くなります。
お相手は、仕掛けの辺りからかなり時間を使っていたので、持ち時間のアドバンテージを得ることに成功。攻め合いに突入しますが、こっちのペースだ、という自信がありました。
今大会は持ち時間30分・切れたら一手60秒という、長い持ち時間が一つの特徴です。ネット将棋や部内戦では初手から30秒、あるいは10秒将棋など、持ち時間の短い将棋を数こなすのが主なだけに、こうした状況では普段と感覚が違ってきます。例えるなら、長距離走みたいなものでしょうか。ペース配分が重要になってくるのです。
残り時間で優位を保つことで、精神的な余裕が生まれます。時間を使わせる狙いで、意図的に手渡しする場面も結構ありました。次図はまさにその局面。
AI最善はここで▲3五桂。
一応、浮かびはしました(言い訳タイム)△同歩には▲4五歩で角を殺そうという狙いですが、そこに桂を使うのはなんだか勿体ないし、別に△1七角成もそっぽだから怖くないし相手も指しづらそう、△6五歩を見てから▲4五歩で角をどかしても遅くないのでは?と踏んで、堂々と香を回収する▲1一と。
善悪はさておき、「さあ、どうするんだ!」という一手です。
安直な△6五歩には前述の▲4五歩で指せそう。ゆっくりしていると▲4八香などでこれも手が続きそう。単純に駒得だし悪い要素がそもそもない……。そういった要素の兼ね合いで選んだ一手でした。
もっとも、好手ではない以上、あまり褒められたものではないですが……実戦的に有力な手段ではないかと思います。
ここで▲8六角としましたが、これが実は危険でした。▲2一と~▲4四歩と攻め合うべきだったようです。本譜は△1八馬から飛車を追う手を優先されたので助かりましたが、先に△8八歩を決められると先手は▲7九玉と寄るほかないですが(9八に逃げると端攻めが厳しい)この形が飛車を渡すと一手詰めなので、飛車を追われた際に後述する飛車切りの決め手が指せなくなってしまいます。
ここで▲4三飛成!△同金に▲4四桂が期待の一手。△同金には▲3三銀が厳しく、また有効な受けも難しい。この辺りで、勝利を確信しました。
感想戦では、先手の端攻めを通したのはまずかったのではないかという話が出ました。相雁木に関しては、正直私も付け焼刃なところがあるので、まだまだ課題です。
対戦ありがとうございました。
チームは5ー2で東北大学に勝利。
P.S. アハ体験ってなんやねん。ちゃんと実況してくれ……
3回戦:大阪大学戦
3回戦は大阪大学との対戦。小路氏や松村氏を擁する強豪です。
十四将の小倉先輩を起用するオーダーにより、この対戦のみ私は六将として戦うことになりました。
私は福田氏と対戦。
雁木の私に対し、福田氏は右四間飛車左美濃を採用。破壊力抜群の戦法ですが、こちらもある程度は経験のある形なので、慎重に駒組みを進めます。
ここで福田氏は▲4五歩から開戦。代えて▲6六歩なら、相雁木のゆっくりした将棋になりますが、後手も△7三桂が入るとカウンターの構えが整ってしまうので、仕掛けるならこれが最後のチャンスでしょう。
角銀を交換して次図。
後手はこの時点でまだ右桂を跳ねていません。保留するメリットもあるので立ち遅れではないものの、ここは▲8五飛へのうまい対応を考える必要があります。
ここで私は△8六歩の突き捨てから▲同歩に△4四歩、▲8五飛に△8四銀。予定ではありませんが、好手順だったようです。
先手は当然後手の飛車を攻めますが、進んで下図で△7五歩。
以下▲8一銀不成△7六歩▲7三馬△7七歩成▲同銀△6五桂(下図)。
この時点で私は銀損、かつ馬を作られている状況。あまり自信はありませんでしたが、この攻めを通す(または5五角とかで3七の桂を手順に取るとか……)しかありません。後でAIで検討したところ、上図の時点で約-1000点で後手優勢でした。
本譜は▲9五馬に△7六歩!▲同銀△7七角と進み、馬を作って攻めが切れない形に。そのまま寄せ切って勝つことができました。
対戦ありがとうございました。
2日目(12/27)
早稲田大学・立命館大学・東京大学との対戦。すべて今大会の優勝候補であり、ここを乗り越えないことには金沢大学の入賞は望めません。
今日はきちんとミルクチョコを携えて会場入りです。
4回戦:早稲田大学戦
関東最強格・早稲田大学。
アマ将棋界隈に詳しくない私でも知っている名前ばかりで、中には懐かしい名前もあったりと、対戦を心待ちにしていた大学のひとつです。
私はオーダー表で十三将の位置なので、想定オーダーではだいたい十将以下との対戦が予想されますが、そもそも十一将以下はみな私は同格かそれ以上なので、「勝負当たり」は回避できません。覚悟を持って会場入りです。
私は佐伯氏との対戦。元奨励会員の強豪です。
初日は雁木3連続採用で3連勝。2日目の初戦――3連勝同士の重要な一戦は、やはり雁木に託すことに。隣の藤原ー糸田戦も相雁木になっていました。
序盤の駆け引きの末、佐伯氏は菊水矢倉の構えを見せます。この辺りは作戦の岐路で、菊水矢倉を想定する場合、急ピッチで態勢を整えて4筋を狙って仕掛けたいところですが、なにせ菊水は頑丈なので成立するか怪しい。ただ、仕掛けを見送ってゆっくりと駒組みしても、結局△4二飛などと備えられてはこちらの打開策が乏しく千日手模様。初戦から先手番で千日手はさすがに避けたいと思い、ここは無理気味でも仕掛けることに。
仕掛ける以上、ここからの数手はほぼ必然。△7三角▲4八飛△3三桂に▲3八金とし、▲4五歩からの開戦に向けて備えます。
次に△4二飛と回られるといよいよ仕掛けられなくなると考え、ここで満を持して▲4五歩。ただ結論から言うと、この仕掛けは無理筋でした。(▲4五歩と突いた局面、AI評価値は-500で後手有利)
ここで佐伯氏は△4二飛。私もこれが本筋だと思っていたのですが、後日AIで検討した結果、これはどうやら疑問手で、△同桂が勝ったようです。▲同桂△同歩▲同銀△4四歩の局面で、▲同銀が成立するかどうか考えて無理なら引いても悪くはないだろう、と踏んでの仕掛けだったのですが、同銀は全然成立していないし、銀引きには△2六桂が見た目以上に(?)激痛で後手優勢でした。
本譜は△4二飛に▲4四歩△同金(同銀は▲同角~▲5三銀が激痛)▲6四歩△同歩(同角は▲6五銀が厄介)に、▲3五歩と強打。△同金は金がそっぽな上、飛車交換から先手で飛車を打ち込める。△同歩には、角切りから▲3四歩でかなり手が続くと読みました。
この辺りは先手好調という自信があったのですが、実際には捌いた後にいろいろな切り返しがあり、やはり正確に指されればこちらが悪かったようです。
私は△4五歩を本筋として読んでいましたが、ここで佐伯氏△4六歩。
なるほどの一手で、▲同飛には△4五歩が飛車取りになってしまうのでこれは取れません。意表を突かれて焦りましたが、継続手段は角切り以外に見当たらず、▲4四角。
少し進んで下図。
この時点でAI評価値は-600ほどで後手有利。ここで△5六歩がやはり痛打で、逃げるようではひどい利かされ。こういうのは取るもんだろうと強く同銀。追加の△5五歩にも▲同銀。痛打△5六歩(同玉には△6五角)には▲6七玉とよろけて、怖いながらも王手がかかりづらい恰好で十分戦えると思っていました。ただ、そこでは△6五歩と突く手が幸便で後手優勢だったようです。
本譜は▲5五同銀に△4七銀。ここで▲5三銀としていれば形勢逆転だったようですが、さすがに60秒では踏み込めず▲同金。(というか、そもそも▲3四歩から絡む順しか読んでいない。)以下、飛車を吊り上げられてから下図△3五角が間接王手飛車。
ここで期待の▲3四歩。以下△4四銀▲同銀△同飛に▲3三銀。金と迷いましたが、なんとなく飛車にも当たる銀を選択。この選択が実は致命的で、△4六角▲同玉△6五歩▲5五歩△同角!▲同玉△5四飛打!▲4六玉△3五銀!▲同玉(下図)△3四飛……と進み、以下△3三金と払う手が詰めろになって先手敗勢だったようです。まさに「将棋・次の一手 天国と地獄」(将棋世界編)。
本譜は▲3三銀に△3四飛としたため、即詰みに討ち取って勝利。
攻め倒しての勝利で気分がよかったのですが、ここまで悪かったとは……。
対戦ありがとうございました。
5回戦:立命館大学戦
一難去ってまた一難、立命館大学との対戦です。
首脳陣の読みでは橋本or本田or亀山……というか層が厚すぎて誰でも来うるという話なのですが、vs橋本氏(=橋本以下を出さない)はおそらく無いし、夏のトリプルアイズ杯で私は亀山氏に勝利しているので、敢えて当てては来ないだろう――とすると、消去法で本田氏が濃厚だろうという読みでした。
(誰が来たところで苦戦は必至なのですが……)
して、私の勝手な予想は外れ……
亀山氏との再戦です。
例の裏芸はさすがに使えないし、何より今大会、私は雁木(調)で4戦4勝しているので、本局も雁木調の出だしで進めていきました。
(これか……)
最近よく指されている(らしい)早期の▲4六角。こちらは当然桂跳ねですが、この形、角がいるために△6四歩とすぐ突けず、結構厄介なのです。
ため息を吐きながら△7三桂。
少し進んで次図。
△4二角や△5二金あたりが妥当ですが、本譜は△7二金を選択。中住まいは囲いとも言えないような囲いですが、バランスの良さで対抗しようという魂胆です。
亀山氏は小考を重ね、土井矢倉の形に。対右玉のセオリーです。
次の▲7五歩が気になります。△6三金と雁木右玉の形にすれば防げますが、金はできれば7二に置いておきたい。雁木右玉は右金が上ずっているために横からの攻めに極めて弱く、いい思い出がありません。ここは桂を渡した後の▲6四桂を緩和する意味で△6二玉。
ここで△6三金と反発する手も考えましたが、さすがに筋が悪いと思い、予定通り△同歩。以下▲7四歩△6五桂!▲同歩△同歩▲4七銀△6三金で下図。
一瞬だけ7四の歩が嫌味ですが、ここで金を出動させ、嫌味の歩を迅速に回収しつつこちらの3枚の位の歩を支えにいきます。現状、桂と歩2枚の交換ですが、先手は歩切れで、かつ玉頭に大きな傷を抱えており、安易に駒を渡せない状況です。無事に歩を回収できれば、次は△7六歩が楽しみで後手有望、そんな気がします。
大変申し訳ないのですが、ここから記憶が曖昧で手順前後が沢山あるかもしれません。ご了承ください。
二連続の突き捨てから▲7三桂!
予想だにしない強襲です。無難に△8二飛は、▲4一角や▲6一角が気になります。横に逃げる△2一飛もやはり▲6一角で、次の▲8三角成と、銀取りからの▲3二銀を見せられ対処が難しい。どうせ△5二角と打てば受かるだろう――それなら話は早いのですが、3四にキズがあるので、いつでも▲1五香からの▲3四歩の筋があり簡単ではありません。
長考の末、△8四飛を選択。
以下▲1五香△同香▲3四歩△同銀▲6一桂成△5二玉(同玉は▲4一角で終わり)▲7三角!△7四飛▲5一角成△4三玉(次図)。
かろうじて耐えていますが、生きた心地がしません。ただAIによると-1000点くらいで後手優勢です。
ここから▲4一馬△5二角▲5一馬△2四香▲7九飛と進み、ようやく先手の飛車を追いやることに成功。これでようやく入玉が現実味を帯びてきました。
以下後手勝ち――ならよかったのですが、ここから先手玉を仕留め損ない、またこちらの玉も危なくなって形勢が二転三転……。最終的に先手玉が9一の地点にいる状況でようやくカタをつけました。
致命的な逸機はおそらくこの局面。
ここで私はノータイムで△同角成と飛車を取って△7九飛と打ち込んだのですが、これが先手の粘りを許す大悪手。代えて△7三桂▲同歩成△8六飛▲同歩△7六桂で寄り形でした(▲6七玉と逃げると△7七角成から即詰み)。
本譜は以下▲7八金△9九飛成▲7五金とされ、先手の上部が手厚く、もはや8四の飛車を生かすこともできず仕方なく△8六飛。
もっとも、これでも後手の入玉模様に変わりはないので後手有利ですが、この後の大苦戦を考えると、やはりここで決めておくべきでした。
勝ちはしたものの、自分の弱さに悲しくなる将棋でした。秒読み以降、ずっとため息を吐いていたのは、度重なる逸機に嫌気が差したために他なりません。
12時40分頃に対局開始だったと思いますが、気づけば15時半。当然これが5回戦最後の対局です。途中からギャラリーが増えてきましたが、部員の姿はあまり見なかったので、(負けたか……)と悟りました。チームは3-4で敗北です。
対戦ありがとうございました。
6回戦:東京大学戦
回復する暇もなく、東大戦です。東京大学はここまで6-1、6-1、6-1、6-1、7-0で5連勝。個人的には、小学生の頃から地元群馬のライバルだった新藤氏と、大学将棋の舞台で再び相まみえることとなったのもあり、対戦をとても楽しみにしていました。
余談ですが、執筆の際、東大将棋部Xのメンバー紹介のところで新藤氏「昨年度は麻雀に明け暮れたようだが」を目にして大爆笑です。
さて、私の相手は金澤氏。戦型は角換わりになりました。こちらの戦型分析に「角換わり」と書かれていた気がしますが、ああ、そういうことか、と……。
3手目▲2二角成で、ここまで絶好調の雁木は速やかに否定され、もう、げんなりです。(口悪い)
さて、とりあえずノロノロ運転で駒組を進め次図。角換わりを本業にしている(であろう)方に対し、真っ向勝負で挑むつもりはありません。速やかに右玉に構え、出方を窺います。
以下、順当に進み、飛車先交換から次図。
先手は一手損角換わり。そして1筋を詰めている。右銀はまだ4七にいる――。
右玉党としては、なにかアクションを起こしたい局面です。
ここで、スッと△5五銀と上がり、私は席を立ちました。
(当時本当に疲れていたので、気分転換のつもりだったのですが、後で新主将に詰められました。負け)
指した直後、大丈夫だろうと思っていた▲3四飛がやっぱり気になりだして(△3三角が勝ったか……?)という気もしましたが、まぁそれも含めてお相手に時間を使わせるってことで一つ。そう自分に言い聞かせ、しばしの休憩です。
何もしなかったら△6六銀▲同銀△3三角▲3四飛△2三金などで勝負。▲5六歩には黙って△4四銀としておいて「突かせ得」を主張。その他、相手の出方次第では△6五歩の筋もあり、とにかく5五の銀に全力で暴れてもらおうという狙いです。今見返すと、だいぶふざけた手ですが……。
本譜は▲2七飛。すかさず△6五歩と突き、▲同歩(▲5六歩は△同銀▲同銀△3八角)△同桂で桂が参戦。かなり心もとないですが、どうやら攻めは繋がった――という読みでした。▲8八銀に対し、自画自賛ですが△2六歩がミソ。▲同飛△6六銀に▲6七歩なら、△5七桂成▲同金に△5九角(参考図)が、歩を叩いた効果で王手飛車に。▲同玉の一手に△5七銀成で、一気に決めてしまおうという狙いです。
残念ながらその狙いはあっさり見抜かれ(当たり前)手堅く▲4八角。このままでは銀桂が孤立状態なので、ひとまず△6七歩。ここで玉を引かれたら△8五歩から△8四角と設置して持ちこたえる予定でした。本譜は▲同金だったので、以下△4四角と設置して金桂と角の交換までは一直線。△4四角では△6九角も見えましたが、▲5八銀打でよくわからないので断念しました。
さて、問題の局面。
そう、問題はそこなのです。
予定は△6六角打。玉引きに△8八角成から二枚替えして馬を作り、若干の駒得でかつ桂香取りが掛かっており、これで悪い道理はありません。しかしながら私は右玉党、右玉は手がかかれば非常に脆いことをよく(?)知っています。二枚替え後の局面、相手の持ち駒は角金銀桂歩4と潤沢。すぐにでも▲6四歩~▲5六桂の筋で猛攻してきそうです。相手の飛車も自陣まで貫通しており、迂闊な手を指すとすぐに潰れてしまいそうで怖い……。
これ、もしかして逆転されるのでは?
そんな不安が頭をよぎります。
では安全策はないのか。そこで見えたのが△3九角。
本譜はこれを選択しました。
▲4八合には△6六角でゲームセット。よって真っすぐ引く一手ですが、そこで期待を込めて△6六角上。(次図)
これで受けが難しいだろうと考えたのです。
改めて見ても首を傾げる、ひどすぎる見落としです。代えて△8八角成から畳みかければ優勢~勝勢でした。
当然▲3八金。これが盤上この一手の受け。この手で、後手有利が互角かそれ以下にまで戻ってしまいました。当然角2枚では攻めを継続できません。指し手が一気に難しくなりました。
こういう、決めるべき局面で決め手を逃す悪い癖があるのです。
以下、なんとか角を捌き、迎えた次図。金澤氏のこの桂跳ねも好手でした。
素直に△6九馬としたいところですが、6筋に歩が利くようになってしまう上、先手玉は飛車や右桂が動くとかなり深くなるので簡単には寄りません。そこで、私は相手の飛車の利きを遮断しつつ、あわよくば飛車の転回から逆襲を試みようと△2五歩。しかしこれが疑問手で、△8九馬と小駒を回収しに行く手が勝りました。
実のところ、△2五歩と打って飛車を転回しても、うまく逆襲できないのです。
以下▲7五歩が急所。△同歩▲8六銀△2一飛(たぶん大悪手)に▲2四歩。△同飛とすると、のちの▲4六角があまりにも厳しいので、実質的にこれは取れません。
仕方なく△6九馬としますが、以下、受け間違いや判断ミスが続き、結局△6八歩成を入れることができないまま、自玉はずるずると敗走。最後はしっかり詰まされて投了。対戦ありがとうございました。
全勝の夢は儚く散りました。チームは3-4で敗北。
私の悪癖が出てしまった手痛い敗戦です。結果的に、私のこの1敗は極めて致命的なものとなりました。
3日目(12/28)
とにかく、気を取り直して3日目。
私は位置が位置なので、地方大相手でも「勝負当たり」の連続です。気が抜けません。それに、3日目開始時点ではまだ金沢大学の優勝の可能性はゼロではありません。少しでも順位を上げるために、ここからの3連戦ではチーム勝利は勿論のこと、勝ち星数も重要になってきます。
7回戦:北海道大学戦
北海道大学との対戦。相手は私と同じ1年生の米沼氏。
私が先手で、戦型は相雁木になりました。よって序盤は省略。
この局面では後手微有利と思われます。後手が端を突き越しているからです。ただ、今回は研究勝負を回避して中盤で競り勝とうと考えたので、敢えて放置しました。後手の右金はまだ5二におり、飛車も引いていません。この2点のアドバンテージを、端歩のディスアドバンテージよりも大きくすることができれば、おのずと優勢に近づきます。(なんかかっこよさげに書いてみただけ)
角を打ち合って次図。
この歩をもっと早く突いておくべきだった、と後悔しました。後手の左桂はすでに3三に逃げているので、端攻めの脅威はやや緩和されています。これを無視して攻め合ってくるかもしれない。お相手も同じ考えだったようで、ここで△7五歩。端歩の成否が勝敗を左右する、そんな予感がありました。
▲4四角とするのが勝ったようですが、違いが分からず黙って▲1四歩。
以下、少し進んで下図。
この辺りはかなり手が広く、時間を浪費していた気がします。ここで少し手を緩めて▲3五歩とし、相手の出方を伺いましたが、これがそこそこ重大な逸機……というか、知識不足が出た場面。代えて▲4四角△同銀▲6六角と重ねて再設置、△4三金を強要してから▲4六歩が地味な好手で、角銀桂の攻めに対し後手は広がった陣形を支えきれず、先手有利でした。これは覚えておきたい手順です。
本譜は、▲3五歩以下、△6六角▲同銀△4四角と、逆に相手に再設置されてしまいました。とはいえ一応読み筋で、ここで▲5五角!と強打。無難な▲6七金直では、相手にターンが渡って面白くないという思想です。△同銀▲同銀左に△3五角が見えますが、これには▲3六歩以下、角銀交換後こちらの手番になるので悪くなさそうです。よって△同角▲同銀は必然に見えます。(実は△6七歩▲同金直△6六歩!▲同金△3五角という離れ業があったらしいですが流石に見えません…)
迫真の実況です。
以下、角を下ろされ馬を作られましたが、これを押し返して次図。ここでははっきり先手優勢になっています。
ここで▲2三銀と打ちましたが、▲4三銀が勝りました。▲4三銀なら、放っておくと▲2三角と打ってほぼ寄りで、受けても一手一手。しかし本譜の▲2三銀では、手抜いて△7五桂!と絡む手があり、手抜いて▲3四銀成とする予定だったと思いますが、以下後手の猛攻を食らって危険だったようです。
本譜は△2五歩。これも結構焦る手です。▲4六飛△4五歩▲同銀△3五金▲3三歩と進み、ここで△4二玉なら後手玉が(後手から見て)右辺に逃げてもう一勝負という流れでしたが△4二金。感想戦でも検討しましたが、やはり△4二玉▲3二歩成△5一玉▲2四角と進むと、手順に金を回収されて敗色濃厚、と見ての判断だったようです。本譜は△4二金以下▲4三歩成△同金▲3二歩成△同飛▲同銀成△同玉に▲3三歩△同金▲5五銀左で寄り形に。
終始攻めていた将棋でしたが、ところどころ危ない場面がありました。反省です。
対戦ありがとうございました。
8回戦:九州大学戦
7回戦はそこそこ早く終局したので、昼食休憩も含めてしっかり休めた記憶があります。
お相手は久保(翔)氏。今大会では初めて飛車を振られました。しかも四間飛車穴熊。……群馬にいたときのトラウマが蘇るようです。
この場面で私は少考。はて、右四間飛車に対して一直線に穴熊組めるものだったか……?
速攻を狙うなら▲3七桂などがありますが、ここは自重、▲1六歩と様子見。その後、結局こちらも穴熊に潜り、戦型は四間飛車穴熊vs右四間飛車穴熊という、我慢比べ(?)の戦型になりました。
本局の実況も戸取君。
次図は仕掛けから。
ここで△6五銀。この銀ぶつけは、対穴熊に限らずよく用いられる振り飛車側の常套手段ですが、感想戦ではこの銀ぶつけがどうやらまずかった、という結論に至りました。というのも、のちの▲5一銀の割り打ちがあまりにも痛いのです。
以下▲同銀△同歩▲7五角が後手の飛車を睨んで味が良い。△7四歩▲8六角△8五銀に▲5一銀。△4三飛▲6二銀成△同金▲6四角△7三銀▲同角成で、やや負担だった角もさばき、取った銀をそのまま▲3二銀。ここでは先に▲3四歩が勝りましたが、誤差としてもよいかなというところ。以下、銀を角と交換し、その角を飛車と交換し、有利を拡大。後手の最後の猛攻もいなし、勝つことができました。
対戦ありがとうございました。
チームも全勝で勝利。
9回戦:山口大学戦
最終戦の相手は山口大学。山村氏・財津氏・柳田氏などを擁する難敵です。
私の相手はその柳田氏。初手合いです。蛯澤君曰く「つえーよ」。学名出場経験もある実力者です。しかし最後は勝って終わりたい!
さて、戦型は……
初手▲7八銀に面食らったのはともかくとして、
雁木かと思いきや中飛車だったのもともかくとして、
……Was ist das(なにこれ)?
対中飛車かぁ、そンならとりあえず対振り右玉の構えで……と、のんびり考えていたのですが、これは何という戦法なのでしょうか。雁木……中飛車?
こういう、独創性に溢れた実況者泣かせの(?)序盤は惹かれるものがありますね。一発勝負の大会で轢かれるのだけは、勘弁してほしいものです。本当に。
(阪田流向かい飛車を団体戦ですでに2回行使している私が言う台詞じゃないのかもしれませんが)
序盤から少考の連続で、すでに相手のペースだなぁという自覚はあったのですが、とりあえず相手に合わせて組むことにして、こちらも中飛車に(次図)。
ここで▲3八飛。
右玉党の私は、風車っぽい構想で飛車を回ったので、ひとまず△6二玉とすることしか頭になかったし、本譜もそう指したのですが、これが苦戦の原因となった一手。代えて、あやまたず△4四銀と上がっておけば、先後似たような形になりますが、3筋を交換される手が実質的に緩和され、安全でした。
ひとまず玉形は安定したものの、先手の飛車がこちらの3二の金を睨んでいて、あまりにも気持ち悪い。形勢に差はありませんが、早くも駒組の自由度に大きな差をつけられており、苦戦は必至です。
こういう展開は慣れたくもないのに慣れている節があるので、しばらくは辛抱の駒組を続けます。
さて、問題の局面。
いつでも▲7七歩成などで攻めてきそうで非常に怖い恰好。とはいえ、飛車と玉の位置関係などを考慮すると、こちらも首尾よく反撃できれば結構やれそうな気もします。が、ここからの数手で、大きく形勢を損ねてしまいました。
とりあえず形重視で△5一飛としたのですが、これが軽率。代えて△4五歩を急ぐべきで、次に△6五歩から仕掛けられます。本譜は、以下▲7七桂△4五歩▲7九玉と進みますが、ここで△8五歩と後の突き捨てや飛車再転回からの歩交換を狙いますが、これはどう見ても疑問手。ここはもう、覚悟を決めて△5六歩と突くしかないところです(参考図)。これは感想戦でも検討した手。先手はこれを取ると後手の攻めが加速するので取れませんが、以下、右辺から玉頭に圧をかけていき、いい勝負でした。
本譜は△8五歩に▲2五桂。次の▲3三歩成や▲1五歩がわかっていても受からない。苦心の末、△3一歩と金にヒモをつけて辛抱を試みますが、▲1五歩△同歩▲1三歩△5六歩▲1五香△6五歩▲3三歩成以下、こちらの角はついに活用できず死んでしまいます。
敗勢の局面。ここで▲3四銀にえいやっと△同金。これが悪手で、まだしも△5三金と辛抱すべきです。銀を取ってしまうと、先手の飛車が動きやすくなり攻めが加速します。▲同飛に△6六桂としたいのですが、▲同銀△同銀に▲6四飛があるという始末。秒に追われて指した△5三銀が大ポカで、▲3三角で悶絶。以下、しっかり詰まされて試合終了です。
勝負当たりと期待されていたのに、柳田氏の持ち時間を削りきることすら叶わず大敗を喫するという、ひどい将棋でした。
ここでは1勝がとてつもなく大事な場面だっただけに、意気消沈です。小松君が励ましてくれたのがどうしようもなく有難かったのを思い出します。
中盤の逸機が悪いというよりも、それまでの組み立てや、時間の使い過ぎが敗因だったと思います。
これで山口大学戦では個人2連敗ですが……次こそは……。
チームの方々の奮闘のおかげで、5-2で勝利。
対戦ありがとうございました。
大会を振り返って
まず、9月のトリプルアイズ杯(5人制)では9戦中3戦の出番だった私が、今大会(7人制)でフル出場となったたこと。そして、チーム一丸となって戦った結果、総合3位という歴代最高順位を記録できたことを、とても嬉しく思っています。
同期の4人、そして支えてくださった先輩方、OBの方々、研究会に参戦してくれた方々には、感謝してもしきれません。
個人成績も7勝2敗となり、トリプルアイズ杯からの3カ月の準備に、結果がついてきたと言ってよいのではないかと思います。しかし、2つの敗戦はいずれも勿体ない負け方をしていて、正直、悔しさの方が勝る結果です。
それでも、学生王座戦は私にとって、とても楽しい体験になりました。
正月のスポーツといえばニューイヤー駅伝、そして箱根駅伝ですが、今大会では、大学将棋の団体戦の楽しさを改めて実感しました。この楽しさは、とても言語化が難しいです。一致団結、激熱展開、責任重大……。振り返り記事では、将棋を指さない人にも団体戦の面白さが伝わるように、と思っていたのですが、結局将棋の解説ばっかりになってしまいました。
高校では後輩への指導にいそしみ、大学では団体戦のメンバーとして戦う。形は違えど、学生将棋には「責任」がつきもののようです。
この悔しさを糧に、2024年も頑張ります。
大会に携わったすべての方々に御礼申し上げます。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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