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浮き雲

「すっかり春よね~」

「そうねえ~~・・・ぶっわっくしょ~~ん!!」

「あら、風邪??」

「花粉、花粉!!」

「ああ、ねえ~~~」

「今年は、ほんっとに!!!」

「可愛そうに。
じゃあ、季節が巡って、少しでも優しい気持ちになって欲しい、
そう、今日はそんな貴方に届けたい映画のお話しよ。
まずは、御挨拶。」

「おかずです。」

「ずーこです。」

「2人揃って」

「映画にブクブク~~♪」

「さて、今回取り上げる
フィンランドのアキ・カウリスマキ監督の映画は、
どの作品も、皆リズムがとても好きなんだけれど、
あたしが特に好きなのが、この「浮き雲」。」

「浮雲?」

「そう。アキ・カウリスマキ監督ってね、他の作品観て思うことだけれど
とても、観客を信頼している監督だと思うのよ。」

「ふ~ん。」

「極端に台詞は少ないんだけれど、
「言葉で説明される事のできない気持ち」
が確かにスクリーンに焼き付けられていてね。」

「最近流行りの、やたら詰め込んで、最後に台詞で説明して終わりってタイプの映画とは、真逆って訳ね。」

「あら、どの映画の事?」

「そこを追及しちゃうと、あれこれ支障があるんだから、続けて、続けて!」

「・・・大人になれば成るほど、
それは苦味や痛みを知るという事なんだけれども、
主人公の気持ちが「判る」作品だと思うの。」

「オコチャマには判らないって訳ね」

「・・・う~~ん。そうね。
全く判らないってことはないと思うけど
若い時に観て、年を重ねて観て・・・きっと後になればなるほど
「感じる」事が違ってくるタイプの作品だと思う。

私なんか、スクリーンの中に同化してしまうもの。」

「え?ついに、その域に??怖い~~~」

「・・・」

「妖怪スクリーン女~~」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・ごめんなさい」

「コホン。

言葉が少ない=退屈ではないの。
むしろ、饒舌なんだよね。

この映画には、失業した妻と夫が出てきて
ちっともうまくいかない残酷な現実が描かれているの。」

「え~~~、それって、なんか重くて面白くなさそう~~」

「って、思うわよね。オコチャマは。
重いだの、軽いだのって、そういう事でセレクトするのは勿体ないわよ。

世の中には、重くても軽い・・・そんな映画だってあるんだから。」

「重くても軽い??
そんな事あったら、あたしの日課の体重測定はミラクルタイムだわよ。」

「・・・・・・はああああああああ~~」

「あ、バカにしてる。」

「・・・まあ、今日は、あーた花粉でどうにかなっちゃってるんだと思う事にするわ。

これはね、過酷な現実の中で、何が指標になるのかを描いた映画。

誰だって
「何とかしたい」
と思って生きている。

「何とかなるだろう」
とあがいてもいる。

でもね~。
この映画の中、事態はちっともうまく転がらないの。
ハリウッド的ハッピーエンドは訪れない。
ただただ、非情に時間は過ぎてゆく。

でもね、そこには体温があって。

状況に挑戦する・・・妻も夫も、それがどんなに愚鈍な手段であっても、
そして、それがどんな残念な結果を導いて来ても、
互いにそれを責めないの。」

「うん。」

「重ねる手と手が、
「ああ、今これで、その体温で救われてるんだろうな」
って、リアルなの。

でもさ、ちっともうまく行きやしない。
本当にうまく行かないのよ。
まるであたし達の、リアルな日常のように。」

「ふ~~ん。」

「で、なのに、ハッピーエンドなの。
この映画。」

「え?さっき「ハリウッド的ハッピーエンドは訪れない。」って言ってたじゃない!」

ハッピーエンドではないハッピーエンド。

私はね。
もしも叶うのならば、こんな風に誰かと暮らしたい。

この映画を見た後にさ、
「結婚って神聖なものだと思ってる」って言ったら、
思いっきり笑われたけど。
何言い出すんだって。

でもね。
そう笑われても「そう思ってるんだもん!」って言える、
そのための指標となる映画よ。」

「・・・なんか観たくなってきた。」

「ああ、そして。
犬好きなら、この映画に出てくる
「犬ゆえの」を見ずして!!!」

「ワンちゃん出てくるのね??」

「そう、これが「ミルクのお値段」に続く
私がお勧めのBEST DOG ムービーのもう1本。」

「あら、じゃあ、「ミルクのお値段」のお話もしなくちゃ!!」

「男が男であり
女が女であり
人が人であり
犬が犬である。

ハッピーエンドではない幸せなハッピーエンドを、貴方に。」

「そっか。あたしもちょっと観てみようっと!」

「そう、そして少しは大人になってね~。」

「あら、すっかり成熟の、大人のあたしに向かって・・・

ぶ、ぶ、ぶ、ぶわっくしょ~~~い!!!」

「大人の女は、そんなおっさんみたいなくしゃみしないわよ!」

「うううう~~~・・・・」

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