見出し画像

チーズケーキとサラリーマン

神戸を旅しているという人の話を聞いて
思い出した話。

神戸に行けと言われた。

神戸の得意先との間に
不都合があったので、頭を下げてきてくれと言う。

現場で話を聞いてみると
明らかに得意先の落ち度。
先方のケアレスミスから生じた不手際。

だけれど、太い売り上げ維持の為には
ご無理ごもっともで、頭を下げて・・って
まあ、良くある話といえばいえるんだけどさ。

「な~~んで、わたくしが?」って、
大きく膨らむ気持ちを腹の中に飲み込んで、
とりあえず得意先の元へと急いだ。

「申し訳ありませんでした!」

目を見ながら頭を下げると
得意先の担当者は、さりげなく視線を外しながら
「いや、まあ、これから気をつけてくれれば・・・」
口の中でもごもご言った。

新しい注文をとって
所謂「負けて勝つ」って状態で得意先を後にしたけれど

わたくしは、ムカムカしていた。

喫茶店に入る気にもならない。
まっすぐ帰社する気にも、ならない。

「リサーチした後、帰ります。」

会社に電話を入れて
うろうろしていたら、目に入ったのが
「りくろーおじさんのチーズケーキ」。

ふらふらと店に入って
いつの間にか買っていた。

そして
道端で箱を開けると
手を突っ込んで、食べた。

異様な光景だったと思うけれど
わたくしの中の黒い何かが
欲していたのだ。

振り返る人々。

すると、向こうから歩いてきた一人のサラリーマンが
わたくしに近づいてくるや、通り過ぎざま、すれ違いざま、言ったのだ。

「・・・落ち着け。」

わたくしは、食べるのをやめて
深呼吸をした。

あのサラリーマンは
「同志」だった。

全て判っている声だった。

なんか、そんな事をね
思い出した。

もう、あのりくろーおじさんのチーズケーキの店は
神戸にはないって聞くけれど

神戸は、ステキな街だ。

ステキな街だよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?