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シングルマン

「トム・フォード、あっぱれ!!!」

「すごいッ!!」

「すっごくすっごく、繊細な映画だったわねえええ~~~」

「うんうん。ほんっとに、とっても繊細、上等なお菓子のような」

「繊細で」

「繊細で」

「儚くて」

「美しくて」

「残酷な・・・」

「・・・ふうううう~~~~~~~」

「・・・ふうううう~~~~~~~」

「おかずですッ」

「ずーこですッ!!」

「今日の映画にブクブクは、トム・フォード渾身の力作、シングルマン!!」

「この人、本当に映画が好きだったのねッ!!」

「愛しているわよね」

「トム・フォードといえば」

「『あの』グッチ帝国を立て直した男」

「そうそう。
名門ではあるけれど、一時期グッチってパッとしてなかったのよねー」

「そうそう。なんか澱んでいたっつうか、さ」

「あたしもちょっと手が伸びない、そんなブランドに成り下がってたのよね」

「あーたが手が伸びないのは、お財布の都合からでしょ?」

「失礼ねッ!!」

「ハイブランドのウインドウを見ては、
トランペットを欲しがる少年になってるって評判よ~~」

「それを言うなら、オードリーと言って!!」

「あら、春日?」

「違うわよ!あたしは、クロワッサンをテイファニーと一緒にいただく女よ」

「ま!図々しい。
せいぜい不審者尋問受けないように、御気をつけあそばせ!」

「とにかく、トム・フォードといえば、澱んだグッチを」

「見事に立て直した男」

「うんうん」

「で、さあそんな彼が、映画を撮ったらどうなったか」

「・・・見事!!」

「・・・マーヴェラス!!!」

「ってか、映画を撮ろうって気になったってこと自体が、さ」

「・・・見事!!」

「・・・マーヴェラス!!!」

「お話は、凄くシンプルよね」

「うん。

主人公は、長い間一緒に時を過ごしてきた恋人を、
突然の事故で亡くしてしまった大学教授」

「これをやるのが「英国王のスピーチ」をやった、コリン・ファース。」

「もう~~~巧いッ!!!」

「驚異的!!!」

「コリンの巧さってのは、ひけらかすタイプの巧さってのではないのね。
普通、ゲイの役というと「作りこむ」じゃない??」

「そうそう。彼の場合、そういう「作りこみの演技」じゃなくて
視線1つ、眉間の皺1つですんごい説得力な訳。」

「私さー、「ミルク」を思い出してたのよ。
あの作品のショーン・ペンも、めちゃくちゃ巧かったじゃない??

でも正直、あたし的には、コリンはその上を行くわー。
観ているこっちが、「ゲイ」っていうのから一歩進んで
「気付いてしまった人間」の気持ちにまで思いをはせちゃうもの。」

「そして、そんなコリンを迎えて」

「ひとつには、そりゃやっぱり、ファッション界に身を置くトム・フォードのこだわりもあっただろうけど」

「あの身支度シーン!!」

「綺麗に綺麗に、ネックに沿っているシャツの見事なライン!!」

「あの、靴!!!」

「磨き上げられた靴!!!」

「トム・フォード自身がゲイだけあって、もう、そこは見事な美意識、説得力なのよ」

「美意識!!」

「主人公の心境によって、微妙にカラートーンが変わる画面とか」

「お話はシンプルだけれど、だからこそ陰影は深いの」

「あーたは何処が印象に残ってる??」

「あたしは、コリンファースがさ、女を見る時の「視点」ね」

「綺麗に引かれたアイライン」

「口角のあがった完璧な微笑み」

「白い歯!」

「そういうところをさー、「見逃さずに」主人公が褒めるじゃない??」

「うんうん」

「でもさー観ようによっては、それってグロテスク一歩手前の美なのよね。
「創りこむ」訳だからさあ。」

「ちょっと人工美的な歪んだ魅力部分にまで、視点が行っているわけね」

「うんうん」

「彼がゲイである所以の美意識っつうか、それがあの視点のカメラで
充分に描かれていたよね」

「ってかさ、やっぱりあたしは「ゲイだから」っていうより
「気づいちゃってる人間の美意識」を感じて、震えが来た。」

「その「創りこむ」人工的な美の世界に、トム・フォード自身が、身を置いて、日々戦っている訳じゃない?」

「そうね。」

「その事の、虚しさ、でも拘らずにいられない気持ち」

「う~~~ん。」

「あ、後さ、自殺しようとして、死んだ「後」が美しいようにって、
色々思い悩んで、枕の位置を変えたり、寝袋に入ってみたりするじゃない??」

「あ、あれね~。ちょっとおかしいんだけれど、すごく切なかったわよね」

「そうなのよ。
ある種の人間にとっては、「迷惑をかけない」っていうそのプライドが
美意識に繋がっていたりすることを思ってさー。あたし、ぐっときたわ」

「あーたはその点、自由でいいわね」

「・・・!!!!!!」

「凄くセクシーな男の人にコナかけられて、話はするんだけれど
誘いにはのらなかったり」

「孤独は、そういう刹那的ことじゃ埋まらないって、
もう「知っている」からさー」

「・・・・そうなのよね」

「・・・・そうなのよ」

「で、心震える対象が出来れば出来たで!!!」

「あの若い子の、青い青いビー玉のような目!」

「可愛いんだけど、何故か不穏なムードもあって」

「それが主人公の気持ちとリンクするの」

「水中シーンの美しさ・・・」

「そして、怖さ」

「コリンの肉体が、「老いへの恐れ」を如実に見せちゃってて」

「ねえ~~~~~」

「本当に視覚、視覚の雄弁さを、喜びと恐ろしさを見事に語りつくしている作品」

「だけど、人によっては「退屈」って思うかも・・・。」

「えーーーーーーーーーーッ!!???」

「こういう繊細な繊細な映画にだからこそ、コリンも出演したんだと思うけれど」

「あーそりゃそうかも。監督は観客の美意識にも挑戦しているんだけれど」

「その挑戦状に気付かないって人だっていらっしゃるだろうし、ね」

「あら、あーた、いかにも自分は知っています、気付きました的発言ね~~」

「おほほほほ」

「なに~~??感じ悪~~い!!やっぱあーた上等じゃないのよ。
根が重箱の隅つつきたおすオヨネ婆さんだからさー」

「誰がオヨネ婆さんよッ!!!
渋谷小町と呼ばれたわたくしをつかまえて~~~」

「なにそれ渋谷小町って!!!フルッ!!!」

「ディスカバーJAPAN。わたしはー日本を~~~愛してま~~す」

「今更GAGAさんの真似??

とにかくねえ、一流は余裕あるものだもの~~。あーたとは違うのよ~~~」

「なんとでも言って~~」

「それにしても、この作品に出て来たチャーリーって、おこげの全てを」

「体現してたわよねッ!!!」

「怖くて」

「切ない」

「ダブルラインの女」

「母性だけでは、女は生きていられないけど」

「とにかく、ほんとはコリンは、英国王より、こっちでオスカーあげてもいいんじゃない?って位の名演!!」

「まあ、オスカーの審査員たちは保守的だから、ね」

「トム・フォードの次の作品を、私は早く観たいわ~~~」

「ほんとね!!!」

「そうそう、それと最近眼鏡男、眼鏡女子、大流行だけどさ」

「やっぱり中身がないと、こうは決まらないわよね~~~~」

「もう、コリンのあの眼鏡姿が、「セクシー」っ!!!」

「どれだけの人が映画館の暗闇の中でため息だったかしら」

「きゅ~~~ん」

「きゅ~~~ん」

「クールビズも大切だけれど」

「スーツ姿、ネクタイ姿の色っぽさってのもあること、再認識したりして」

「とにかく」

「繊細な繊細な映画」

「トムフォードの繊細美をぜひ!」

「ぜひ!!」



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