彼のケース

「俺だって、頑張っているじゃないか!!」

今日の仕事もハードだった。
全く近ごろの若い奴は・・・と口に出しそうになって、あわてる。

若い頃、「全く近ごろの若い奴は」と言う上司が、嫌いだった。

俺は立場が上になっても、あんな風な口の利き方はしないぞ。
そんな風に思って日々を重ねてきたはずだのに。

「報告・連絡・相談」「・・ほうれんそう、か。」

帰宅すると、疲れた様子の妻が台所の椅子に座りこんでいる。

「・・・ただいま」

「・・・あ、お帰りなさい。・・・ごめんなさい。ご飯の用意まだなの。
お風呂先にしてくれる?。」

父親が倒れて入院して
妻は、彼の母親と一緒に介護をしている。

ありがたいことだと、頭では思うけれども、
妻の疲れた顔を見るのは、好きではない。

疲れは疲れを呼び
不機嫌は不機嫌を呼ぶ。
そんな気がするからだ。

母親が台所にやって来た。

「・・・じゃあ、行ってくるから」

「お母さん、すみません。」

「何を言うの。このところ、立て続けで疲れたでしょう?
めいこさんは、今日は少し休んで。」

「・・・貴方、病院までお母さんを送ってあげて?」

「え?」

「・・・いいの、いいの。
あんたも仕事で疲れているだろうし。
バスで行けばすぐだから・・・・じゃあ、行ってきます。」

「・・・」

バタンとドアが閉まる音がした。

はあ~~~~~と
ため息をつきながら、発泡酒のプルトップを開ける。

「・・・」

見ると、妻が、じっと自分を見ている。

「・・・なんだよ。」

「・・・なんで、送ってあげないの??」

「・・・バスで行くっていうから。」

「お母さん、昨日もろくろく寝ていないのよ??」

「・・・・」

「疲れているのは判るけれど
貴方、判ってない!」

思わず大きな声が出た。

「俺だって、頑張っているじゃないか!!」

そうだ。
俺は頑張っている。

毎日一生懸命働いて
両親と自分の家族の面倒もみて。

この家も
毎日の食事も
みんなみんな

俺が頑張っている証拠じゃないか!

「・・・貴方が頑張っているのは判ってる。

でも、貴方、お母さんの心細さを、理解しようとしてない。

もし、私が・・・・私がお母さんの立場になったら
きっと、話を聞いてほしいと思う。

その相手は、私じゃダメ。
ケアマネさんでも、ダメ。

お母さんが、今、本当に話したいのは、誰?
貴方だよ?

お母さんを病院へ送る途中で話す間の、なんでもない一言が
貴方の一言が、お母さんを奮い立たせるのに。

貴方が疲れているだろうからって
遠慮しているお母さんの気持ち、判ってる?

貴方より何倍も年上なんだよ?

自分の元気な都合のいい時だけ手伝って
介護しているつもりになんか、ならないで!!」

彼の妻は、泣いていた。

その言葉の勢いに押されるように
彼は、上着をとると、ドアを開け
母親を追った。

「報告・連絡・相談」
「・・ほうれんそう、か。」
そう、呟きながら。

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凛々往く道

7年間の自宅介護で父を看取った私の日々。
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