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きんぎょ~道ならぬ鯉

きんぎょーえー、きんぎょ。

銀の水に映えるは緋色の帯。
歪んだ世界から覗くものは、ひとつの光だった。
 
 
 
いつか、お父さんが教えてくれた。
それらを僻の壁と呼ぶんだって。

今日は、いつもと違う靴屋さんへ寄ったの。
なんだか居心地悪いわ。でも、わたしは知ってた。

お母さんが、この靴屋の店主と時おり川向こうで逢ってたことも。
 
 
もうすっかり、お嬢さんで。
そう言った靴屋の店主は、具合のわかりすぎる高級な革靴みたいなひとだった。

そのひとの履かせてくれた真鍮みたいに輝く赤い靴も、何処か居心地わるくて、それでも繋いだお母さんの手の薄紅とニテ温くて、それだけは忘れたくないってこゝろがいった。つづく