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基礎:多形性 pleomorphism

先の記事で説明した異型性atypism/atypiaと混同しがちな言葉に、多形性pleomorphismがあります


定義

読んで字のごとく形状に多様性がみられること
細胞の大きさや形、特に核の形状や数などが一定・一様でなく、様々な様相を示す状態
特に、濃染性で大型かつ不整な核をしばしば複数持つ多形細胞の様相は「奇怪なbizarre」と形容され、その場合退形成anaplasia(未熟で低分化・未分化な状態にあと戻ること)を表現する用語としても用いられる
なお、細胞以外にも、例えば唾液腺等に発生する腫瘍の一つである多形腺腫pleomorphic adenomaにも用いられているが、その場合も組織像に複数の種類の細胞成分から構成される多様性がみられることを意味している

注意事項

退形成を反映することでも理解されるように、多形細胞は肉腫などの悪性疾患において認められることが多いが、異型性とは異なり「多形性が顕著」=悪性ではないことに注意を要する

症例

30代女性の頸部の皮膚腫瘍(径1.5 cm)
真皮から一部皮下にかけて、幅広い膠原線維間に散在性に分布する紡錘形あるいは類円形、星芒状細胞が不均一に認められ、しばしば濃染性で不整な大型の核を有する単核あるいは多核の細胞を混在している(下図参照)
核分裂像は乏しく、壊死は認められない
免疫染色にて腫瘍細胞の一部はαSMAが陽性であるが、S-100やdesmin、CD34、EMA、CK、CD10、Factor 13aは陰性であった
なお、RB1の核内発現は消失していた(下図参照)

多形線維腫における多形細胞(画面中央)
RB1の免疫染色(陽性細胞:茶色染色は血管内皮や脂肪、汗腺の上皮細胞)

病理診断

多形線維腫 pleomorphic fibroma

解説

1989年にKaminoらによって記載された、稀な良性間葉系皮膚腫瘍
主に成人の体幹部や四肢近位、頭頸部に発生し、緩徐にドーム状の隆起性病変を形成する
本例のように奇怪な多形細胞の出現を特徴とするが、一種の変性異型を反映したものと解釈されており、悪性腫瘍と誤認しないことが重要である
免疫染色ではCD34が陽性と成書には記載されているが、陰性例もあることが報告されている
近年RB1の遺伝子が局在する染色体13qの欠失により同蛋白の核内発現が消失していることが報告され、同様の所見を示す紡錘形細胞脂肪腫・多形脂肪腫との類縁性が指摘されている
鑑別診断として、奇怪細胞を伴う皮膚線維腫や多形真皮肉腫、悪性黒色腫、巨細胞性線維芽細胞腫、表在性の多形脂肪肉腫などが挙げられる

参考文献

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cup.12965

Hinds B, et al. Loss of retinoblastoma in pleomorphic fibroma: An immunohistochemical and genomic analysis. J Cutan Pathol 44:665-671, 2017.

上記参考文献から

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