見出し画像

竹内元太は天才か(文・後藤哲冶)



竹内元太(たけうちげんた)
最高位戦日本プロ麻雀協会所属。1986年3月12日生まれ、長野県出身。
2013年プロ入り、2022年「BIG1カップ」優勝。同年、自団体最高タイトル「最高位」を獲得。翌2023年、近藤誠一以来の「最高位」連覇を達成、翌日行われた「新輝戦」も優勝、史上初の連日タイトル戦優勝を果たす。

最高位は2分の1を当てられない


「元太さんの記事書いても良いですか?」

寒波がついに関東にもやって来た、12月のある日。
営業終了後のとある雀荘で、僕はこの質問を、つい先日最高位二連覇を成し遂げた、竹内元太最高位に投げかけた。

「いいよー。あ、但しちゃんとカッコ良く書いてね」

普段通りの明るいテンションで、元太さんはそう言った。
麻雀やってる時の様子なんか、なにも脚色しなくたってカッコ良いと思うのだが。

外に行くのに、いつもの半袖では流石に寒いと思ったのか、元太さんが机の上に置いてあったパーカーを着ようとしたその時。

「……あれ?」

パーカーをその大きな身体に通し、頭を出そうとして……元太さんの顔面が、パーカーのフードで完全に隠れた。

「くっそーこの2分の1外すかー!」

……あ、悔しがる所そこなんだ、と思った。
億劫そうに元太さんは一度パーカーを脱いで、後ろ前を戻して、着直す。
前言撤回。やっぱ過剰に脚色しないとダメかも。
一連の流れを、僕はそんな事を考えながら眺めていた。

そして、今度こそパーカーの着用を成功させて。
しっかりと襟元から顔を出して、一言。

「まあこの2分の1外しても最高位は獲れるからね!」

偉い人から怒られろ、と思った。

「麻雀の結果も、究極どうだって良い。勝とうが、負けようが」

初めて会った時は、陽気で面白い人なんだな、と思っていた。
僕が最高位戦所属のプロになってすぐ。
働く雀荘を探していた時に、当時とある雀荘にてカリスマ(重要)店長だった元太さんと面接をしたのだ。

同期のプロが先にいて、話を通してくれていたこともあり、僕は無事採用され、ここから元太さんとの縁がスタートする。

一緒に働いて、たまに飲みに連れて行ってもらう。
スシローに行った時は、「俺スシロー最高位だけど大丈夫?」と何を心配されているのか全く分からないことを言われたこともあった。

しばらくそんな楽しい日々が続いていたある日。


僕と元太さんが、お店で従業員として同卓していた時に、その事件は起きた。
今思えば、まだお店に入って1ヶ月ちょっとしか経っていなかった僕は、元太さんと同卓できる事が単純に嬉しく、少し浮ついた気持ちで麻雀を打っていたのかもしれない。

副露をして、テンパイ流局。手牌を開いた僕は、同卓者の3人から1000点ずつのノーテン罰符を受け取る。
実はその局、テンパイ後の待ち取りが難しく、シャンポンではなくカンチャンに受けていればアガりの可能性があったこともあり、次の局の牌山が上がって来たタイミングで僕は元太さんに聞いてみた。

今のってカンチャンに受けた方が良いですかね?」

元太さんが僕の最終手出しを見ていないはずもなく、元太さんは流局した時に僕の手牌の牌姿をじっ、と見ていた。
だからこそ、もしかしたらカンチャンの方が良かったかな?と思って聞いたのだが。

「……うん」

元太さんは小さく、本当に小さく頷いただけ。目線すら合わせることなく、新しい配牌を丁寧に理牌していた。
いつもなら、理由込みで端的に意見してくれるだけに、このいまいち要領を得ない返答は、元太さんにしては珍しいな、と思いながら、僕もいそいそと理牌に励むことにした。

その半荘を終えて、新しくお客さんが2人来たこともあり、僕と元太さんは卓を離れて。

「ちょっと後藤君とご飯行ってきますね」

その後すぐ。他の従業員に向けてひと言そう伝えると、元太さんは僕を連れて近くの中華屋さんへ。
あ、なるほど。さっきの質問の答えを教えてくれるのかな、なんて思いながら。のん気に元太さんの後ろをついていく。

お店について、手短に注文。
コップに入った水をひと口呷ると、改めて元太さんは僕に向き直った。

その表情が、いつもの陽気な元太さんではなかったからだろうか。
僕の背筋は、自然と伸びていた。

「……後藤君、大事な事を忘れてるみたいだけど――君はお客さんじゃないよ」

――瞬間、僕は冷や水を頭から被ったような感覚を覚えた。
元太さんの、言葉が続く。

「もちろん、局の間に検討をしても良いよって言ってくれるお客さんはいる。常連の人で、麻雀の話をするのが好きな人とか。でもさっきは、そうじゃなかったよね?」

確かに、僕と元太さんが一緒に打っていたお客さんは、寡黙で、ただひとえに麻雀をしたい、と思ってそうな2人だった。
お店には良く来てくれるが、対局中に話をしたことは、ほとんど無い。

「俺たちは従業員で、お客さんはそこに遊びに来てくれてる。一番はお客さんに楽しんでもらうこと。それを忘れちゃいけない」

当然のことだった。
冷たい水を被ったような感覚だったはずなのに、顔が熱い。
自分のさっきの言動が恥ずかしくて仕方ない。

「あとね、麻雀の結果も、究極どうだって良い。勝とうが、負けようがね」

頼んでいた、料理が届いた。
元太さんが、レンゲでチャーハンをかきこむ。

ここから先は

2,597字 / 7画像

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?