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鈴木大介はなぜ第一打に字牌を打たなかったのか

【流儀】

 「Mリーグ」の開幕戦で、鈴木大介プロがこの手牌から⑧ピンを切ったことに対して「なんで?」と不思議がっている人がいるそうだ。

 少し前なら「大介は雀鬼流か」で済んだ話なのだが、今はファン層が広がっているので知らない人も多いようである。

 「雀鬼流」とは「伝説の雀鬼」こと桜井章一氏が主宰する麻雀の会で、様々な制約がつけられた独自のルールで麻雀の研鑽が行われている。
 第一打に字牌を切らない。打牌は長くても3秒以内に行う。テンパイまでドラを切らない。最終形はリーチ。相手リーチの一発に現物を切らないよう努力する。
 他にもいくつか制約はあるが、こういった禁止事項を抱えながら麻雀を打たなければならないのが「雀鬼会」なのである。

 各卓には審判員がつき「チー」「ポン」「リーチ」「ロン」などの発声は腹から声を出す。その様子を映像で見たことがあるが、まるで「フィジカル」のスポーツのようだった。
 一種独特の「雀鬼流」だが、麻雀最強戦では多くの「最強位」を輩出している。
 第1期の片山まさゆき氏は若手の人気漫画家だったが、桜井氏の代走として出場してプロを倒し優勝してしまった。
 第2期こそ「雀鬼流」とは無関係の小島武夫プロだったが、第3期の伊藤優孝プロは雀鬼会の選手だった。その後、第4期の佐々木秀樹氏、第5期の山田英樹氏と雀鬼会が最強位を独占しているような状況だった。
 第6期以降、雀鬼会の選手があまり参戦しなくなったり、大会システムが変わったりもしたのだが「雀鬼会の選手が強い」ことを証明するには十分すぎる実績だった。
 巷の雀荘で「雀鬼流」の人と遭遇すると、すぐに分かる。独特の打牌フォームとそのスピードなどで「あ、この人雀鬼流か」と分かるのだが、皆さんとにかく強かった。特に、ちょっとでも調子に乗せると止まらなくなる。ツキの流れや勢いを殺さないよう、ひたすら真っすぐ打ってくるから、勝つ時はとことんまで勝つのである。
 「今日この後どうすんの」
 荒正義プロとお茶を飲んでいて「この後は片山まさゆきさんたちと麻雀します」と言ったら「あれは雀鬼流だから気をつけた方がいいよ。オリないから。足止めリーチ意味ないから」と本気で心配してくださった。
 いや、別に遊びの麻雀やるだけなんで。
 「それでも負けたらダメじゃない。リーチは最終形だから、高いから。くだらないリーチしてこないから気をつけた方がいいよ」
 荒さんはずっと心配していたし、片山さんと2007年の第18期最強戦決勝で当たった時も、めちゃくちゃマークしていた。その時点での片山さんの麻雀は、もうぜんぜん「雀鬼流」ではなかったのに。
 麻雀界では、それぐらい「雀鬼流」の存在は大きいものだったのだ。

【絶対やめない大介】

 大介の第一打に疑問を呈している中には「非効率的な打牌が気に入らない」と、感情的になっている人もいたようだ。

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