役に立ったCFA:Level 3の不動産関連

【おことわり】事業会社に居る私が長きにわたるCFAの学習を通じて役に立った内容を備忘録的にメモしていく記事です。CFA受験者の多くが金融業界の中の方と思われますが、非金融で投資業務に携わる方の参考になればと思い学習当時の自分の纏めノートを再編して公開するものです。間違いもあるかもしれませんので、念のため、ChatGPTでFact Checkしていますが、悪しからずご了承ください。

不動産なんてCFAで扱うのか、、、?

私が受験したコロナ禍のCFA L2ではREITなどの不動産を扱うオルタナファンドがどの様にValuationを行うのか、という観点で、主な不動産の評価方法(所謂、アプレイザル)を学習しました。CFAで土地の評価?と不動産については401kで多少入れていたREITと自宅程度の接点しかなかった学習開始直後の私にとっては意外に感じたセクションでした。

しかしながら、L2、L3と学習を進めていくと、不動産はインフレや需要をドライバーとするGrowthや賃料などのIncomeのみならず、中長期ではPublic Equityに対するβが比較的低い事からポートフォリオ構築に必要不可欠なアセットクラスである事がわかりました。学習前は何となく不動産投資界隈はよく分からないという印象を持っていましたので、CFA学習を通じて最も印象の変わったアセットクラスでした。

ちなみに、私は仕事で事業への投資を検討する際などに土地や建物のアプレイザル資料を見る事がありますので、立地や年数で加減算する手法やCap Rate、業界インデックスの存在や利用における注意点を広く把握できたのは非常に良かったです。もっと言えば、何も学習せずにそういった資料を渡され一応読んでいた頃のことを、そして「ご依頼頂いた投資先候補の資料にある物件の価値ですが、きちんと評価されている様です…」などと上司に報告していた当時を思い出し、無謀だったなと冷や汗をかいています。

役にたったこと(L3のカリキュラムから)

不動産は取引情報が少ない

  • 不動産の実際の取引はプライベートなものが多い為、即時性のある公開データベースが無い。NCREIF等の業界インデックスはあるが、取引データが頻繁に更新されない(たしか、四半期毎などだった)。従って、相場の全体観とか過去トレンドという点では良いが、モデルを組む場合などにデータセットの信頼性に疑義がでてしまう。

  • 具体的には、四半期に一度のデータだと取引データの分散が過小評価されるため、実際よりもβが低く出る。トレンドをみるべくLineを引くと移動平均線の様に安定して見えてしまうし、株式相場との相関性が実態以上に低い様に見えてしまう・・・つまり、Smoothing問題がある、ということです。

    • CFA試験においてはSmoothingの問題は他プライベートなファンドの成績などでも通じる問題として学習しました。

  • このSmoothing問題、実務においても意識しておくことはとても有益だと感じました。たとえば、非上場の投資先候補の売上高や営業利益、EBITDAなどは年間で見る事が多い(そもそも細かなデータはDDしないと取れない)ですが、Smoothingによって事業の安定性を見誤る可能性がある事を示唆しているともいえるからです。

  • より具体的にいえば、過去3年間のEBITDAは安定していても過去12カ月の月間EBITDAを見てみると足下で大幅にボラティリティが上昇しているかもしれない。このボラティリティの変動はボトムアップでモデルを組む場合は(とくにクリスタルボールなどでモンテカルロ・シミュレーションする場合)ファクターになり得ますが、年間のEBITDAしか入手できなければSmoothingによって見えなくなってしまうファクターでもあります。

    • このあたりは、PEやVCの方などは実際にどうやっているのだろうか。無数の投資先候補に対していちいち細かな予想を立てているとも思えないので、考えすぎともいえるけど、CFAではモンテカルロが良く出てくるし、、、時間があるときに調べてみたり、知っている人に聞いてみたいところです。

不動産特有の性質がある

  • 不動産には4つの性質があるという整理も、役に立ちました。

    1. 不動産は夫々のアセットが別個であるというHeterogeneityという性質。

    2. 不動産そのものは分ける事ができないという不可分性Indivisibilityがある。

    3. 「不動」産であり、つまり、動かせないアセットであるというImmobilityという特徴。

    4. そして、流動性が低いという性質、illiquidityがある。

  • これらの4つの性質は言われてみれば当然なのだけど、馴染みの無かった私からすると、なるほど確かに株や債券とは違うなと感じました。それに、こういった構造的(?)な視点で物事の特徴を整理しておく考え方は、ひとつ賢くなった様な気がして結構好きなので、日頃も役に立ちそうだなと思い大事にしています。

Subjectiveなデータ

  • 株や債券、コモディティなど市場が立っているアセットが良いのは、実際の取引をベースにする事だという事を学びました。同時に、不動産では上述のSmoothing問題もあるし、最終的にアプレイザルに依拠する場合がある点が厄介ということも学びました。

  • これは事業会社が非上場企業にStrategicに投資する事も同じだなと、と考えを巡らせました。企業夫々が別個で、事業自体はだいたい不可分であり、拠点は動かしにくいし、教科書でも言われているけど(アセットクラスとしての)プライベートエクイティは流動性が低いから。JVなんかだと契約でがちがちで全く流動的ではないし。

  • 個人的な経験でも、非公開企業に投資しようとしても、株式価格を参照できる現在の取引情報なんか存在しないし、あっても昔の取引履歴や(あんまり似ていない)類似企業のマルチプルなんかを参照せざるを得ない。

  • でも最善の努力をするためにDCFなどのモデルをこつこつ組んで、社外のアドバイザーにも様々な手法で評価してもらい、色々な評価でもって、もっともらしい企業価値を算定して交渉に挑むのであるが、ホントにどこまで行ってもSubjectiveな評価だなぁと思ってしまいます。

  • そして、これは正に不動産で発生する問題であるらしい、という事はなるほどなと思いました。不動産には取引データが無い為、Smoothingの問題があるし、Subjectiveなアプレイザルを根拠にせざるを得ない場合もある。L2で沢山の不動産評価手法を学んだのは、そういった事を想定しての事だろう、そう思うに至り、プライベート企業への投資と不動産投資は似ているなと感じています。

景気サイクルと商業不動産

  • 当然と思うかもしれませんが、不動産もサイクルの影響をうけます。ただ、商業不動産においては立地や業態による、という事です。

  • 学習ノートには、以下の通りメモが残っていました。

    • 賃料が取りにくい質の低い物件(立地が悪かったり、設備が劣化していたり)はサイクルによって入居率や賃料が大きく変動するためOperating Incomeが変動する。

    • 需要が減少する不況期でも物理的な引越コストやリース契約の制約を受ける為、供給過多が解消されるまで一定のラグが生じる。

      • コロナで都心のオフィスビルに人がいなくなっても、解約などで退去するのはliquidation damageなどもあるので満期になってから、というのは確かによく聞く話でした。

  • そして、商業不動産の価格はNOI/Cap Rateなので、分子のNOIがサイクルで減少すれば価格は低下する。同様に、Cap Rateは要求利回りから成長率を減じたものでもあるので、ダウントレンドになれば成長率が低下したり、要求利回りが上昇したりする事で分母が大きくなり価格は低下する。CFAの学習を進めればL2の株式のパートで嫌と言うほど計算するので、当たり前の事に聞こえると思うけれど、よくわからないなぁと思っていた不動産が何となくわかった気になる契機となりました。

    • 少なくとも、需要と供給で価格が上下するという点をより鮮明に理解できたのは、自分の仕事でもアパートの家賃を考える時も役に立ちました。

  • ちなみに、L2ではホテルやStorage、Industrial Warehouse、オフィスビル、リテールなどの特徴もざっくり学習しました。アメリカでは宅地が広い田舎でも結構Storage(個人向けのレンタル倉庫)がたくさんあるので、不思議に思っていましたが、Storageは人口(だけ)で一定程度収支が計算できるビジネスだと知り妙に納得しました。しかも、REIT化されているというのも面白いなと。

実効Durationと不動産

  • 金融業界に居ない人にとってCFAのハードルの一つはFixed Income、特にDurationだと思います。私は、理解に時間がかかりましたし、今でも実務経験が無い為、習得しているとはとても言い切れません。むろん、書いてある事、意味やメカニズムは何度も勉強したので分かっているつもりですが、使いこなす様な実務家の方は尊敬しますし、業際の限界を感じます。

  • とはいえ、重要な科目なので沢山勉強しました。その中で、実効Duration(感応度、effective duraiton)を拡張的に解釈して不動産にも当てはめてしまう考え方は応用が利いていて何だか好きでした。

  • 考え方としては、事業会社が固定資産(たとえば工場)を購入した場合、工場の償却は長く、当然ながらLong Lived Assetになる。原資は長期金利の影響を受けやすくなる事を踏まえて、実効Durationが高いと見る、といものでした。なんだか分かった様な、分からない様な書きぶりですが、Durationのコンセプトは応用範囲が広い事を示す一例だと思いました。

    • ちなみに、このメモでは取得した工場を金融資産の目線で評価すると、長期の耐用期間に応じたTerm Premiumが無いとrewardとして釣り合わないと考え、長期の工場稼働に応じたCredit Premiumも必要だし、工場を取得した事業のリスク見合いとしてEquity Risk Premiumも必要と考えるという内容も併記されていました。工場というアセットを、EquityとFixed Incomeの中間くらいという位置づけに整理できる、という考え方です。うーん、なるほど。

    • 更に、CFAではかなり重要視されている印象がある流動性プレミアムにも触れています。商業不動産では2-4%程度の流動性プレミアムが妥当(2年2%、5年4%が目安)との事です。

おわりに

不動産は発見が多かったので特に電子的に備忘録を残しておきたかったのですが、ノートを見返していくと既に忘れている事も多く、折角の勉強が・・・と少し焦ってしまいました。

一方で、この記事を作るだけで結構な時間を消費するので、継続できるかがとても悩ましいです。

今後は記事の短縮や有料記事などにして継続性を第一に備忘録を作る事も一案かもしれないと思いました。

自分の為に書いたメモですが、勉強中に日本語の情報が無く困った部分でもありましたので、お役に立てれば幸いです。

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