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なぜ脳の機能は回復するのか?

脳出血、脳梗塞、くも膜下出血、頭部外傷、脳挫傷、脳腫瘍…
脳の病気はたくさんある。
そして二度と目を覚さないと思った人が目を覚ましたり、
動かなくなっていた手足が動くようになったりもする。
どれくらい回復するのか、いつ回復するのかは人によって様々だ。

そもそも、なぜ失われた機能が回復するのか?
脳の回復過程は擦り傷などのように傷ついた細胞が治る過程とは少し違う。

脳梗塞には可逆的回復可能な領域がある

脳の血管が詰まり、その周囲の脳細胞が死滅することで意識が悪くなったり
顔や手足の麻痺が起こったり、話せなくなったり…とその場所の機能が低下した症状が現れるのが脳梗塞の症状だ。
しかし、実際は完全に損傷した細胞は中心の一部で、その周辺の細胞は一時的なダメージを受けて症状を発症しているだけで、実際には死滅はしていない。(この領域を可逆的回復が望める領域=ペナンブラという)

脳梗塞が時間との戦い(早期発見が命に関わる)と言われる所以はこのペナンブラの救済が可能かどうかが鍵になるからである。
ちなみに、血管が詰まると死滅した細胞が有害物質(フリーラジカル)を出し、ペナンブラ領域にも広がっていくことで脳梗塞の症状が拡大される。
このフリーラジカルをカットするために「ラジカット(エダラボン)」という薬が投与される。
(薬のダジャレ感がすごく好き。もっとダサい薬名バンバン出してほしい。)

血管は自分でバイパスを作る

これは脳に限ったことではないが、人体の血管はじわじわと通り道が狭くなっていくと、自分でバイパスを作ることができる。
(これを側副血行路という)
脳梗塞があっても無症候、無症状なのはこのバイパスを形成により、閉塞した先の細胞に血流が途絶えることなく贈られているからだ。

脳には失われた機能を代替する細胞がいる

出血や梗塞によって細胞が損傷・死滅しても、時間をかけてその細胞が担っていた役割を他の細胞が代替する作用が脳にはある。
これが機能回復する大きな理由の1つと言われている。
それは左右の脳も飛び越えた「神経回路の繋ぎ換え」と言われている。

それは万人に起こるわけではないし、完全に回復するものでもない。
しかし、目を覚さなかった人が覚ました。完全にはないにしても、歩けなかった人が立てるようになり、装具で歩けるようになった。この差は大きい。


ICUや救命病棟には基本的には2週間までしか滞在できない。
(保険診療などさまざまな理由があるらしい)
その2週間で、その神経回路の繋ぎ換えを見ることはごく稀で、「奇跡」だと思っていたし、滅多にないからこそ一生そのままだと思っていた。

でも奇跡は2週間よりもっと先にあった。
そして、その奇跡はその人単体で起きるのではない。
支える家族、親族、そして伴走する医療者の質が、その力を呼び起こせるかが大きいと体感している。

神経回路の繋ぎ換えに医療者がどんなサポートができるかを生涯かけて覗いていきたい。


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