見出し画像

年に一度のクリームソーダ

 七月ということで、外で鰻を食べてきた。あまり外食にこだわらない我が家の、年に一度の決め事だ。
 しかし私の目当ては食後のクリームソーダである。

 子供の頃、『ちびまる子ちゃん』のコミックスでクリームソーダの話を読んだ。コミックス巻末に収録されていた『ももこのほのぼの劇場』の中の一編だ。
 学生時代のさくら先生が友人宅で勉強に励んでいて、何かの拍子にクリームソーダの話になる。クリームソーダはアイスの底の部分が美味しいのだと。氷と接してしゃりしゃりになっているのだと。なんてハイカラな飲み物だろう、なんておしゃれな食べ方だろうと感動した私はクリームソーダを心の神棚に祀った。当時は炭酸が苦手だったので、大人になったら飲めるようになるだろうかと思ったのだ。
 しかし成人する頃に健康診断で引っ掛かり、甘い飲み物をできるだけ控えるようになった。その制限を解除するのが七月なのである。

 鰻を食べ終え、クリームソーダが供される。
 まずストローでメロンソーダを一口。アイスがほとんど溶け出していない、ピュアなメロンソーダの味を確かめるために。その後、さくら先生に倣ってアイスの底をスプーンで削って口に運ぶ。ほどよくシャーベット状になっている。もう一度しゃりしゃりの部分を掬って、メロンソーダに浸けてから食べる。
 続いて、室温で少し柔らかくなったアイスの上部を一口。同じ部分をもう一度掬い、メロンソーダにくぐらせて食べる。後はスプーンで撫でるようにしてアイスを回し、メロンソーダに溶かしていく。アイスの溶けたメロンソーダを飲んだり、アイスの残りを掬って食べたり。
 年に一度の味は、体に染みるように甘かった。

 夫もクリームソーダを注文し、さっさと飲み終えた。そして、たっぷり時間をかけてクリームソーダを飲む私を苦笑で見守っていた。
 来年も二人でクリームソーダを飲めるだろうか。一人でもクリームソーダは美味しいに違いないが。

 (了)

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

10

小山キノ

毒にも薬にもならない文章を書いています。毒にならないのってけっこう貴重じゃないですか? お疲れさま占い:休止中 週1書き物:ショートストーリーかエッセイ。概ね日曜夕~夜更新。 Twitter→ https://twitter.com/koyamakino

エッセイ

小山キノのエッセイ。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。