190201_前田高志さん取材_

「苦しみは楽しみに変わる」_デザイナー/漫画家・前田高志の惰性を破る柔軟な生き方④

デザイナーから一転、今年(2019年)から新たな一歩を踏み出す、漫画家・前田高志さん。憧れは、『ドラゴンボール』や『Dr.スランプ アラレちゃん』、『ドラゴンクエスト』などで高名な鳥山 明さんだという。夢に描いていた漫画家としての歩みを始めた今、その心境とは。


夢の漫画家になった今の心境

――昔から漫画家になる夢があった前田さんですが、デザイナーから転身して漫画家になった今は「とうとう夢が叶った」という気持ちですか?

前田さん:いやー、違いますよ。夢が叶ったというか、後悔してる。やってこなかったことを。

元々、デザイナーになる前に漫画家になりたかったんですけど、やり始める前からフタをしてしまったので、デザイナーになってからもそれがずっと引っ掛かってたんです。やっぱ漫画好きだし。で、将来いつか漫画をつくることがしたいって思ってて、自分で描こうと思ってました。

そしたら佐渡島さんが「前田さん描きましょうよ」って言ってくれたんです。「あ、そうか、描いていいんだ」って思って「よし、やります」ってその場で決めたんです。でも、夢がかなったっていうより......喜びは全然ない。「やってみるか」という感じです。

――新しいことを始めていくような。

前田さん:そう、始めていくっていう感じ。ただスタートさせるっていう。

――不安な思いもありますか?

前田さん:不安だし、つらいし、ほんとうに漫画家になりたかったのかなとも思うし。今も思いますよ。だからなんとなく僕が思ってた漫画と、実際描き始めた漫画って違ってたりもするし。

――最初にギャップがあったんですね。

前田さん:うん、だから今すごい辛い状態です。だけど目指したことなかったから、あとで絶対後悔するって思った。死ぬ前に後悔したくない。だから今はもう苦しいけど、とにかくやるって感じですね。


食べれるうんこを探す

前田さん:あるセミナーで聞いた話があって、クリエイティブの界隈ではよく言われることなんですけど、出すもの出すもの(つくるもの)、なんか臭いんですよ。うっすら臭いんです。うんこみたいな。

――自分にとってはということですか?

前田さん:自分もそうだし世の中から見てもそう。広告のキャッチコピーの案とかは100案とか出すんですよ。100、200、300と出す。ロゴもそれに近いんですけど。つくられたものは大体うんこみたいなもんで、ダメなもんばっかり出てくるんです。

でもいっぱい出し続けると、食べれるうんこが出てくる。カレーですね。クリエイティブはカレーを、つまり食べれるうんこを探すようなものだみたいな。

食べれるうんこがときどき見つかる。それ聞いたとき「たしかにな」って思って。普通にポンって出したものは大体ダメなんですよ。

まぁ偶然カレーが出ることもあるけど、でもそれがカレーかどうかわからないじゃないですか。うんこかもしれないし。

出して食べてみないとわからない。だから、うんことカレーを比べてみたときに「あ、カレーだったんだ」ってなるものなので。

――あぁなるほど。自分で見ただけで「これはカレーだ」って思っていてはだめだっていうことですね。

前田さん:そうそう。もっとカレーに近いうんこが出てくるかもしれない。ロゴのデザインの場合なんかもそうですね。


読んでないときも妄想が広がるような漫画が描きたい

――前田さんの憧れは鳥山 明さんでしたよね。鳥山 明さんでも、たとえばドラゴンボールとアラレちゃんは雰囲気違うと思うんですけど、これからどんな分野を描かかれるんですか?

前田さん:分野は少年漫画です。少年漫画の、うーんと、冒険ワクワク......というか、いや実はね、ないんですよ。まだ本当にない。ざっくり「少年漫画」で。毎週楽しみになるもの、くらいしか言えなくて。

――ひとくちに漫画家といえど、いろんなジャンルに挑戦したり、やっぱり得意不得意があったりするんですね。

前田さん:そうですね。でもまず「自分描きたいものあるんだ」っていうくらいで楽観視してるんですよね。そういう軽い気持ちでは『HUNTER×HUNTER』みたいに描きたいですよ。

――『HUNTER×HUNTER』みたいにというと?

前田さん:『HUNTER×HUNTER』って独特の世界観がありますよね。ゲームに近いかもしれないですけど。独特の設定があって、能力があって、世界を冒険して、いろんな目的がある。

――あぁなるほど。言語も違いますよね。

前田さん:それに読者がその漫画を読んでないときでも、妄想のなかで遊べるじゃないですか。こんな能力ほしいなとか。広くわかりやすくいうと、ドラえもんの秘密道具こんなんあったらどうかなとか。架空の妄想。自分だったらって妄想の中で遊べる漫画が好きで、妄想が広がるような漫画が描きたいんです。


バックトゥザフューチャーから受けた「為せば成る」のメッセージ

前田さん:あと、僕「バックトゥザフューチャー」が好きなんですけど、あれって、完全にエンターテインメントで、老若男女受け入れられるわかりやすい映画なんですよね。

――たしかにそうですね。“タイムスリップ” っていう。

前田さん:そうそうそう。タイムスリップ。で、最後にぽつんと、ちゃんとメッセージが残るんですよ。「為せば成る」っていう。それをやりたいんですよね。僕のなかでそれが残ってるんですよ。

ドック(タイムマシーンをつくる発明家)がマーティ(主人公)に、「為せば成る。自分の人生、自分で切り開くもんだよ」っていうメッセージを残してる。一緒にマーティの未来を見てきたんだけど、あえてそれを言うっていう。

それで最後には「未来は白紙なんだよ」って言うんです。僕の会社、NASUの社名の由来になってる「為せば成る」っていうのはそこから来てるんですよ。漫画家も、為せば成るっていう気持ちでやってますね。


苦しみは楽しみに変わる

――NASUの由来がバックトゥザフューチャーからとは知りませんでした。じゃあ、今はどんなジャンルを描くのかも含め、ものすごく葛藤してもがいているところだと。

前田さん:もがいてる。でもそれがね、僕、好きなんですよ実は。人生で色濃く残ってる楽しかったなっていうときは全部そこなんですよ。もがいてるとき。必死でもがいてるとき。

高校のときに弓道を始めて必死に練習してて、そのときも楽しかった。いまでもときどき夢に出るくらい。引退して弓道をやめて、大学受験への勉強を高3の夏から必死で勉強して、3月の受験まで時間もないなか一生懸命やって。でも落ちて、1浪して。死ぬほど頑張って。

――お父さんが「4浪でも5浪でもしたらいい」と言ってくれたっていう。

前田さん:そうそう。それもすごい覚えてて。就職活動も頑張って、任天堂に入って、新人のときに自分のデザインがなかなかできなくて、いいデザインができなくて、苦労した。そのね、頑張ってるときっていうのは僕の幸せな時間なんですよ。

だからね、今は苦しいんですけど、1年後くらいに「あぁ、良かったな」って......1年後はまだ思わないかな(笑)。3年後くらいに「あのとき良かったな漫画家めざして」みたいな、なると思うんですよ。

なんか今は苦しいけど、絶対に後々「苦しみは楽しみに変わる」って思ってます。苦しいのはそのときだけなんですよね。長い人生で見たら「楽しかった」って思うんですよね。『マエボン』もそうやと思いますよ。つくったみんなは。

そのとき苦しかったけど。たった2ヶ月で。いや相当すごかった。みんな疲弊してた(笑)。で、僕もまぁめちゃめちゃやってたんで。でもね、いま考えたらあれ楽しかったなって思います。苦しみは楽しみに変わる。

――その通りだと思います。でもそれを苦しみの真っ最中に思えるのはすごいです。

前田さん:きっとみんなそうじゃないですか?僕だけなんですか。もがくの楽しいですからね。苦しいけど。

そんなに苦しんで、何かやってたら、何かを成さなかったとしても、絶対に何かは残ります。自分に蓄積されて、それが何かのときに横展開できる。形にはならなくてもね。

弓道なんて、近畿大会にはいったけど、形としては何も残らなかった。でもそのときの経験っていうのはやっぱり残ってますもんね。だから今思えば、もっと客観的に自分の(弓を)引いてる姿とかをビデオに撮って分析したらよかったなぁとか思うし。なんか闇雲に弓を引いてただけやったなとか、そういう学びもありました。


2019年の目標は「慣れる」

――漫画は今後どこかで公開していくんですか?たしか最近ツイッターで公開してたのを見ましたが。

前田さん:ツイッターのあれは、作品というより感情を切り出して表現するっていうトレーニングです。でも、自分のnoteで連載とかやってみたいですね。

商用誌で連載してくださいって言われたら、一回くらいはやりたい。それは1人では無理なので。

でもまず今年の目標は「漫画を描くことに慣れる」っていうことかなって思ってます。今すごい抵抗あるんですよ。描くことにも、自分の描いたものを出すっていうことにも。

今までそれに30年くらいフタしてきたので。それをこじ開けてやるってなった今は、蓋もがガビガビでなかなか開かないんです。筒みたいな箱だとしたら、カビだらけですごいみたいな状態です。絵までたどり着かないというか(笑)。自分の心と向き合って闘ってます。

――久しぶりに開けたわけですもんね(笑)。

前田さん:そうそう(笑)。絵に対する障壁。描くことと、それを出すこと。自分の考えたことがそこに乗っかってることを感じると、自分の描くもの全部「これだめだ」って思っちゃうんですよ。

――デザインを10年以上やってきた前田さんでも、そう思うことがあるんですね。

前田さん:客観視しちゃう。でも昨日、佐渡島さんと喋ってて「むしろそれが武器や」って思ったんです。

僕が今話したような「どうしても辛くて、自分の描くものがダメすぎて」っていう話をしたんです。そしたら佐渡島さんが「いやそれはいいことですよ」って。

というのもその前日にね、水野学さんと佐渡島さんの対談があって、そのあと2人でご飯食べに行ったらしいんですね。そのときに水野さんが「美大を出ただけで、すごい自己肯定感が高いやつが多すぎて、あれはダメだ」っていうことを言ってたと。

だから佐渡島さんは僕に「でもそんな中、自分の作品をダメだって見れるのは、普通の感覚なのでいいんですよ」って言ってくれたんです。

漫画家ってある意味、自己肯定感がすごい強くて、自分大好きじゃないと書けないんですよ。それに加えて客観的な視点がないといけない。“ 編集目線 ” がないと、いいものはできないんです。


デザインとは、価値を最大化するもの

――では最後に。テレビチャンピオンじゃないですけど、前田さんにとって、デザインとは何ですか?

前田さん:デザイン、デザインか。なんだろう。「価値を最大化する」って言ったりしてますけどね。「どうせやるなら良くしようよ」って思ってやってます。何でもそうです。

「どうせ漫画家目指すんならヒット出す」とか、「どうせマエボン出すんやったら書店に置いてもらいたいね」とか。「ちゃんとつくろうよ」「ちゃんと本にしよう」って、何でもそういうふうに思ってますね。

「オンラインサロンやるんやったら、どうせやったら世界目指そうよ」とかね。その価値を最大化するために、デザインをツールとして使っているという感じですね。

どうせ生きてるなら人生楽しくしよう。どうやってするかっていったら、デザイン。デザインで人生を楽しくするみたいな感じですかね。「どうせやるなら楽しもう」です。

――なるほど、最後の言葉に前田さんのすべてが詰まってるような気がします。ありがとうございます。

前田さん:じゃあ(今回の取材のFacebook LIVE配信)そろそろ終わりまーす。

――ありがとうございましたー。

前田さん:ありがとうございましたー。


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※広告枠は巻末に掲載いたします。
※広告の作成に加え、完成品の「NASU本」1冊をご指定の場所に配送いたします。

●おことわり● NASU本のテイストに合わせ、前田デザイン室側で広告ページを作成させていただきます。製作日程の都合上、ヒアリング後のデザインに関する細かな修正にはお応えできかねますことをご了承ください。

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印刷には、日本写真印刷コミュニケーションズ株式会社の高品質カラーデジタル印刷システム「NDP(Nissha Digital Printing)」による、高彩度・高精細な印刷技術を採用しており、“ 全ページフルカラー ” にてお届けいたします。

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15年にわたって宣伝広告デザイナーをつとめた任天堂から独立し、株式会社NASUの代表としてデザイナーとして活躍の場を広げる前田高志が、2019年、41歳にして漫画家に転身。本来の夢に向かって突き進む前田さんが持つワークスタイルを存分に語るトークイベントです!ぜひ、足をお運びください!

日時:3月21日(木) 14:00~16:00(開場13:30)

場所:梅田 蔦屋書店

〒530-8558 大阪府大阪市北区梅田3丁目1−3


ライター:金藤 良秀


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