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あの交差点に、僕とあの子がいた ③高校生編 #ノートの切れはし

「昨日のは、ずっと友達でいてねって意味だからね」

返答があるまでに、一瞬の間があいた。

「......うん」

彼女は、どうしていいかもわからない様子で、小さく頷いた。

『あの交差点に、僕とあの子がいた ①小学生編』より)

(この記事は僕の実話に基づく......というか実話の物語。『あの交差点に、僕とあの子がいた』「「から続くお話です)

......


ついにお互いに進学先を知ることもなく、気にかけることもなく、僕たちは中学を卒業してしまった。僕が当時、あの子について知っていたのは、「美術部に入っていた」ことくらいだった。


......


時は過ぎ、高校3年の冬。

年が明けて1月も中旬を過ぎた頃のこと。

「チビ」とバカにされていた僕の背は176cmまで伸びていた。(中1時点で143cm、高1で157cmだった)


部活はとっくに引退し、無事に大学受験も終わった。大学からは、入学までの事前課題が大量に出た。

にもかかわらず、僕はなぜか英検を受けに行った。(落ちた)


その帰り道。

ふと、あの子のことを思い出した。


中学の3年間は会話もせず、高校3年間は会うこともなかったというのに、なぜか時々、ふっと思い出す。不意に、あの子のことが頭に浮かんでは、いつの間にか消えていく。いつもそうだった。


今回もまた、ふっと僕の脳裏に現れた。

「また......」

突然に思い出す。もうずっと会っていないっていうのに、なぜだろう......。

悶々と考えながら歩いていると、

ハッとした。


僕は携帯を取り出し、あの子の家に電話をかけた。

(小学生のころ、仲の良い数人の友達の家の電話番号は記憶していた。今となってはもう引っ越している人もいるとは思うが、今も数人の実家の電話番号は覚えている)



呼び出し音が鳴る。なかなか出ない。

(誰もいないのかな......)


ガチャッ

「はい、高嶺です」 (仮に「高嶺さん」としよう)

女性が電話に出た。


「あっ、もしもし、かねふじです」

「かねふじくん? あらー! 久しぶりね! 元気?」


声の主は、あの子のお母さんだった。細身で背の高い美人な方だ。小学生ながらにそんな印象を持っていた。久々だったため、挨拶程度だったが少しお話をした。


「元気そうでよかったわ~。あ、ちょっと待ってね」

お母さんは、察してくれたように電話の向こうであの子を呼んだ。


しばらく待っていると、声が聞こえた。


「はい」


あの子だ。

6年ぶりに聞いた声は、ちょっと大人っぽく、可愛くなっていたことに正直ドキッとした。気持ちの高ぶりのせいで、僕の耳のほうが勝手におかしくなっていたのかもしれないが。


「あの、久しぶり。元気にしてる?」

定型句を放った。


「うん。久しぶりだねー。元気だよ。どうしたの?」

「最近どうしてるかなと思って。高嶺さんの携帯の番号もメルアドも知らないから家のほうにかけたんだ。忙しかった?」

「あ、なるほどね。まあそんなに忙しくはないよ。ちょっと勉強してたくらい」


そんな何気ない会話をしたあと、僕は聞いた。


「いま出先から帰ってきたところなんだ。ちょっと話さない?」

「うん、ちょっとならいいよ」

「じゃあ家の前まで行くね」

「うん。じゃあ、あとでね」


ピッ


電話を切ると、僕はなぜだか急いで走った。


僕の家とあの子の家の間は、徒歩10分程度の距離にある。

僕は自分に気が付いた。いままで、6年間会話もしなかったのに、たびたびあの子を思い出していたのは、あの昔の自分にどこか後悔を残していた無意識の表れだったんだ。なのに、思い出してはまた消して、自分でも気づかず押し止めていた。

「これを繰り返すだけで何もしなければ、いま行動に移さなければ、ずっとこのままだ」

僕はとにかく走った。

「それにしても、意外と普通に話せたな......」それが電話をした率直な感想だった。



家の前に着く50m手前で、走るのをやめ、歩きながら息を整えた。


そして、あの子の家の白い門の前に着いた。

僕は息は整っていたが緊張が解けない。僕は10秒ほどおいて、インターホンを鳴らした。


ピンポーン


とても上品な音だ。僕の耳はもはや相当偏屈な耳になっていた。


白い門の向こうに伸びる石階段の上に玄関がある。しばらくすると、ドアが開き、清楚な服に身を包んだ彼女が出てきた。以前より少し背が伸びて、声だけじゃなく見た目も綺麗になっていた。


「やあ、久しぶりだね」


“オタク” というわけではなかったが、慣れ親しんだ友達には、よく「やあ」と挨拶する子だった。

「高嶺さん、久しぶり。ごめんね、いきなり」

「ううん、いいの。背伸びたね~、わたしと同じくらいだったのに」


彼女は女子高校に通っていた。付き合っている人はいないという。途中で、お互いの携帯の連絡先は赤外線で交換した。


「あいつどうしてるかなあ?」

「あー! なつかしい!」


6年ぶりに会ってどこに行くわけでもなく、玄関前で幼いころの思い出話をした。そう、あの話も。


「あのさ、」

「ん?」


「小学6年生の終わりの、ある日の帰り道のこと、覚えてる?」

「......うん」


......

「高嶺さん、まだ小学生なのに馬鹿だと思われるかもしれないけど、中学生になったら僕と付き合ってください!!」

「......はい」

「え、本当に?」

「うんっ」

「......やったーー!!」


「あのさ、昨日のは、“ずっと友達でいてね” って意味だからね」

「......うん」


......

小学6年生のころ、僕は自分から思いを伝えたのに、気持ちが変わって翌日に振ってしまったんだ。

彼女はちゃんと覚えていた。


「小学生とはいえ、あのときは申し訳なかったって思ってて」

「うん、まあ幼かったからね」


「だから今日、僕、あらためて言いたくて」

「え?」



少し間があいた。



「うまく言えないけど、

もしかしたら、君から見た今の僕は、あの頃の僕とは違って見えるかもしれないし、あんなことをした僕だから、信頼もできないかもしれない。思うこともあるかもしれない。こんなに6年間も話さなかったのに、おかしいかもしれない。

だけど、今度はちゃんとしたくて。

今度こそ、本当に “僕と付き合ってほしいです” って気持ちをちゃんと伝えたかったんだ」



歯切れの悪い話だ。カッコいいことも言えなかった。だけど正直な思いだった。



「......」





「......」






沈   黙







いったい、どれくらい続いただろうか。

体感では3分くらいの沈黙が続いていた。



風が大きく唸りを上げた。



(さいあくだ、もはや相手はそんなフェーズにはなかったんだ。おわったな、このまま黙って帰っちゃうかもしれない、いよいよ二度と会わなくなる......)

僕はそんなことを考えていた。


途端に風が止むと、とうとう彼女が口を開いた。



「急で、ちょっとびっくりしちゃった」



それはそうだ。6年ぶりの再会でこんなことを言う僕のほうがどう見てもおかしい。

彼女は続けて言った。



「ちょっと、考えさせてもらってもいいかな」



僕は答えた。


「うん、もちろん。ごめんね、久しぶりに会ってこんなこと言われても困るよね。急がなくていいから」


「うん」


返事をして、彼女は玄関のほうへ上がっていく。

もう仕方がない。これであとは待つのみだ。そう思い、僕もおとなしく家の方へ歩き出そうとした。すると。


「あ、待って!」


振り返ると、少々慌てた様子で彼女が石段からトントンと降りてきた。そして門まで来て、門越しに僕に言った。




「今日は、直接話しに来てくれてありがとう」




彼女は微笑んでそう言った。


些細な一言だった。それを言いに、彼女はわざわざ僕を呼び止め、玄関から門まで下りて来て僕に言ったのだ。距離ではなく、その誠実さに僕は胸を打たれた。そして驚いた。


ともあれ、彼女は微笑んで誠実に僕に感謝を告げてくれたのだ。僕も答えた。


「僕のほうこそ、聞いてくれてありがとう」


「じゃあ、また、電話するね」


「うん」



そのやり取りを最後に、互いにその場を去った。



---


待ち遠しい気持ちをどうにかこうにか抑えながら、僕は大学入学の事前課題に取り組む。


そして後日、

ついに彼女から連絡がきた。


「もしもし......」




ライター 金藤良秀(かねふじ よしひで)


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太陽のような人!
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金藤 良秀 ライター

フリーライター。取材、WEB、雑誌、ライティング代行、文章ゼミ。お仕事はDMかyk.2030.sgi@gmail.comへ。ミスチルをこよなく愛し、素材研究、建築、インテリアが好きな甘党です。note ☞ note.mu/kinto2030

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