伊勢詣 ~美味しいもの編

「さあ何を食べようかな」

旦那さんは出発前からとにかくこの旅での食事だけを楽しみにしていた。


さぞ綿密なプランを立てているのだろうから私は一切調べず、口も出さずに案内されるがままに従おうと心得ていた。

がしかし

彼は何も決めておらなんだった


春からの職場移動で一年生を体験中の旦那さんは なんせまあ疲労困憊していた。

今なら以前の部所に戻れるかも…来期は別部所に移動願いを出したケド…と、今回の選択を間違えたと日々後悔し、再び新境地へ…、蜃気楼のような安らぎを求めて魂がずっとさ迷っている

減らない仕事に追われ探す時間も集中力もなかったのかもしれない。そりゃそうだ。
私提案のこの旅に賛同して運転して楽しげにしてくれているだけでも有難いことだ。

「魅力的な店ばっかだもんね。直感直感」

そろそろ開店し始めるお店が増えてくるお祓い通りを再び、右を見て左を見て、好みの店を物色しながらノロノロと歩く。

とりあえず、息子がお土産に楽しみにしている赤福を買っておこう。本店ではお茶と一緒にその場で赤福を頂くことも出来るから朝食がてらにまずはそこで一服しようじゃないかと提案し、赤福本店に到着。

何やら向かいの店に列ができ始めている様子。

チラと立て看板を覗くと
「赤福ぜんざい」とある。

「じぇんじゃい?」

私は正直「ふーん」だった

赤福は
苦手ではないけれどちぃと甘いなと感じているので、その ぜんざい となると、甘々なんじゃ!?と萎縮したからだ。

「まあきっと、赤福の、ぜんざい、なんだろうねーー」

旦那さんも ふーん な感じで、行列に並ぼうとはしないので

「じゃあ普通に赤福とお茶のセットでいいかな?」

と確認して、お土産用の赤福と一服用のお茶セットを頼むために 本店のレジの列に並んだ。

お会計が近づいてくると旦那さんはソワソワしだして、「やっぱぜんざい食べてみたいな」と、直感に従ったのか本音をもらした。

会話に気が付いたお会計のお姉さんが
「それなら向かいの別館で承っております。丁度今開店したましたね。列も今日はまだ少ない方ですので、運が良いですね~」と案内してくれた。

おっと

何だこの開運めいた素晴らしい誘い込み文句は

お姉さんが輝かしい
ありがとう!並ぶよ!




私はガツンと甘いものがあまり得意ではない。



別館の列に並びながら少しハラハラしている。

飲み切れなかったらどぉしよう…。

家で汁粉は普通に作るが私が食べる分はお湯を足し塩味を効かせて甘さはかなり控え目にしている。他人が食べたら100パー「まずっ」と言われること間違いなしだ。

時々訪問先で「作ったから食べていきな」と振る舞われることがある。どんなに甘々でも残しはしない、いや残せないだろ!

そんな我慢が回を重ねてますます甘々汁粉を遠ざけたくなっているのだ。

オーダーが近づいてくる。

ラッキーあふれる赤福ぜんざいのラッキーにあやかりたい気持ちと
金品はたいてまで食べられないものを手に入れるべきなのかというケチケチ感覚が
戦い続けている

「赤福ぜんざい2つください♡」

本当に自分が怖いと思うよ
あさましいとも思うよ

私の背中を押したのはおそらく後ろにうねる超・長蛇の行列だ。

前に8人ほどだった時に並べたのは本当にラッキーなタイミングだったんだ。

オーダー直前に後ろを振り返ったらとっくに最後尾は目視出来ないほどの大行列になっていた。

フラっと寄ってこんなラッキーを勝ち取ったのだから、皆が待ち焦がれている赤福ぜんざいを、皆の前でちゃんと食べて見せてあげるべきだろう。
本店のお姉さんは「赤福とお茶のセット、別館でも頼めますからご安心ください」と知らせてくださっていたのでギリギリまで悩んでみたがあの行列を見たら一択だろう。そこが私のThe・あさましさ根性なのだしかたない。


満席の店内に次々と各テーブルに赤福ぜんざいは運ばれて、五分ほどで私達の所にもやってきた。

赤福ぜんざいにはこんがり焼けた角餅が入っている。箸休めの塩こぶとお茶もセットになっていた。

し……塩こぶ?

汁粉につきものの沢庵と同じ役割なのだろうけど、ちょっと私の中で海産物とご一緒甘々は如何なものだろうかと訝った。

がしかしだ

ぜんざいは予定通り甘かったが脳みそが焼けるほどではなかった。焼いたお餅の香ばしさが程よく甘さを緩めたし、訝っていたあの塩こぶがとんでもなく美味しかったのだ!!!
塩こぶ無しではこの先どおやってぜんざいを食べたらよいのかわからなくなるほどだ。
海産物ってどぉ?なんて思ってホントにゴメンネだ。
そして添えられたお茶は渋みというより香りが高く、口の中で塩こぶのまろみも加わって角の無い湧き水のような旨味が溢れている。おおおおおおおおお✨

全部ひっくるめて  美味い!!

ちょっと飛び出したモノも引っ込んだ他のモノで平坦になっていびつな形は丸くなっていくんだぁぁ……
助け合いなんだなぁぁ……
お会計のお姉さんありがとう……

ぜんざいセットで哲学して店を出る。


さてお次は?

ぜんざいがおもいのほか腹に来ている

そういえばサービスエリアでも軽く食べていた。
旦那さんはこの頃とんと食が細くなってきていたので、とにかく美味いものを~なんて意気込んでココに来たのだけれど身体が気持ちに追いついていなかった。

右見て左見てうーんうーんと悩みながら、再び内宮の大鳥居前の駐車場に着いてしまった。

「も一回歩こうか」

再びお祓い通りをノロノロ北上して

「牡蠣?」
「うーーん」

「牛串?」
「うーーーーん」

「てこね寿司?」
「うーーーーーーーーーん」

「伊勢うどん?」
「それ土産で買ってくから」

「プリン?」
「うー…んん?」

旦那さんはうーーんうーーーーーんと悩み続けているので
「じゃあ私は ひりょうず 食べるよ」
「オレもーー」

「あっちにコロッケもあるー。食べよー」
「オレもーーー」

オレの食べ歩きは
果たせたのだろうか

私の選んだ両者をかぶせて
旦那の腹は完全にロックオンされた。

「もう帰ろっか」

小さくなった胃を見つめてるのか下向きかげんで駐車場に戻った。

旦那さんはこの伊勢の地、三重県内で特別なものに出逢いたい気持ちが捨てきれず、帰り道は高速に乗らず下道で再び「ご馳走」をスマホのマップ情報を頼りに探してゆっくり帰った。
気づけば昼を過ぎてはいるけれど、依然として腹が空かない旦那さんのお気に召す「ご馳走」はやって来ない
娘が夕方に帰省するのでそれまでに帰るとなるとやはり途中で高速に乗った方が良い。そろそろ決めて頂きたい。
「あ、聞いたこと無い回転寿司がある」
「じゃあそこにしよっか……」

寿司なら量も程々に調整できるからちょうど良いだろう、と、

「あ!!!アレ!」

突然旦那さんが前方を指さしたのは
15年ほど前に店を閉めてしまった旦那さんも私も大好きだった坦々麺のお店だった。まさかこんな所に支店を構えていただなんて。

え?

まさかラーメン?

ここに来てラーメンかよ!という思いと
ここに来たからあのラーメンだよ!という思いが複雑に交差する
腹の気持ちは完全に30m先にある寿司だったが、思い出の美味いラーメン店との再会の比重が重すぎる

「坦々麺だ!!!」

腹の空かない旦那さんが直感で叫んだ

寿司の味覚は淡い風に乗せて飛ばした

人は常に迷う
選ぶとは他を捨てなければならないので苦痛も伴うがその分選んだ方を大切にすればいい。むしろ選べるのは幸せだ。
哲学して久々の坦々麺をすする


美味い……!

伊勢詣での思い出に直感で選んだご馳走が
昔ふたりが大好きだった思い出の坦々麺だとは

久々の旦那さんとのふたり旅
不思議とずっとラッキーの連続でした

これからも末永く
よろしくお願い致します

感謝感謝

〈終〉

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