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金魚の肺呼吸

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泳ぐこと詠むこと。 水の中から見える世界は狭いか広いか。
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蛍狩

蛍狩

蛍は金魚になって、

金魚は蛍に、

そんな世の中になってしまって、

悪くはないと口で言いながら、

どうしてそんなにも溢れるの。

やめたっていいのよ。

蛍でいることや、金魚でいることを。

僻の壁

僻の壁

未だ変わらないのかもしれない。ただ、十代二十代は確固に無知が味方だった。

恥とは基礎。
ぽつり、ぽつりの過去を拾って然も仰々し飾ってやれば喜ぶこともある。そんな昔に出会う。よくと見れば、あまり変わっていないことに気づくもの。

きっと、この先もわたしは熊に執着するに違いないことだけは理解する。

よなよな流れ猫

流暢な日本語を操る中華料理屋の台湾人。
彼は、四川料理が得意だとオーストラリア訛りで話していた。
その中華料理屋からの

帰り道道に影三つ。影とは、いつのまに増殖するものなんだ。夜空には長いながいホウキ星が地球の裏側までも流れていった。
 
 
 
三つ目の影は云う。
最近、ジョアンナさんを見かけませんが元気にいるでしょうか。

ジョアンナは黒いからね、よなよなの君には見えにくいのかもしれないよ

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金魚宙

金魚宙

金魚宙【よむ のおと】|ちびまゆ @chibi_mayucha|note(ノート)https://note.mu/chibimayu/n/n69df9566474b

 
 

どこぞへ跳ねるか、宙六天。
追われたか、逐うたかの兎と亀よ。
 
 
果てへ往くわけでもなく、偶さかにも地面の端っこに届いたなら、それはもう宙ぶらり。

そこではHanged Manが矢鱈に馴れ馴れしく声をかけてくるけれ

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長い秋

長い秋

go round,go round…いつだって鳴いている。

羽根の喘鳴になど効きもしないワクチンを撒き散らす。
それは水魚の交わりのようなものだから。

go around,
一年と少し、二年と少し、幾らかを過ぎてまだ秋は終わらない。
 
 
 
短いはずのものが、長くながく。
毒は短く吸って、ゆっくり吐露んと割れた唇から
心音はgo round,
 
 
 
疲弊したころ白い輩に被われて、

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はぐれたわけになく

はぐれたわけになく

飾りはなくとも生きてるって彼女は云う。嗚呼、

契ったとか、千切られたとか思うより生きてるね。何故どうしてと、皆知ろうとするけど
 
 
 
誰彼と御尋ねくださいの世界じゃないから、区別と差別は生まれるよ。知らない世界は多いほうがいい。

知ってどうする。知って
どうなった。

咲いた花に尋ねるのかい。
咲いたなら散るのが世の常。嗚呼、

幸せと不幸せは対じゃないよ。知らなかったんだね。

卯の花腐し折れた枝

卯の花腐し折れた枝

暗転の空、雨足の厳かな改札に人は無い。
冠水を始めた動かない階段が泥濘のよう足を吸い、縺れた先の浅はか。
 
 
漸くと昇りきったプラットホームには、熱帯魚の泳ぐ浅瀬の珊瑚礁が狭く広がる。

駅か水槽か、水槽か駅かと繰り返す発車ベルの思い逸らんうちに水面を滑る急行が連れ去ってゆく。

せんせい、
わたしは確かにそう呟いた。

夜がな夜一夜。

愛の底~底を知る

愛の底~底を知る

卑しく尊いは愛にある。
生まれながらにして無になく有する。
それは軈て変貌自在となり、

凍りつくもの
沸点を超え僅かなものへ。
 
 
余るに足りず均衡の妙。
そこに心倦むも死してなおも添う。
 
 
 
空の底より解しがたい。唯知るは、
生きるため。

雨の日はロールケーキ

雨の日はロールケーキ

身体中にシーツのまとわりついて目覚める夜は、
宵宵の雨のおかげ。

寝床を這い出れば、そこには水たまりと言うには大きすぎる程の池が出来ていた。天井からの水滴には幾つもの歪んだ顔が映る。酷く
 
 
疲れた夜。

夢のなかでは順調そのものだった。
目覚めれば現実は悪夢の天秤を傾ける。
 
 
傘を差すか、レインコートを被るのかは池の底で潜思する。
足枷が重いのか、底が深いのかいつまでと水面には手が届

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底を知る

底を知る

底は浅くない、狭くない。
分際を知るに疎密を掬う。

金魚すくいの広義をおもふ。
まるの枠に薄い薄い和紙を張り
水底に沈める。
 
 
和紙の面と水面を垂直に
和紙の面と水面を平行に

金魚の逃げ惑う波の広がる。
そこに金魚在れば。
 
 
 
水草の老人は蹌踉めく
足の無くとも揺らめく。
そこに金魚在れば。

縦波と横波の交わるところ掬ひ、
幾つもの金魚を映し水泡と帰す。

底に報いる。

つゆのひと

ひとりを矜持とす。
往時に向けた背に自負といふ鏡はない。
とつおいつするのちの始末だった。

生まれたならば死ありのまわり合わせ。
そのようなものにおもふ。
 
 
そこに雨でも降れば仕合わせ。
風の齎す情けあり。
 
 
 
雨垂れの染み入る土の馨る。
漸う泥水となりてひとり。

潜水魚

潜水魚

腹を膨らませた。人波には浮き輪がいる。
腹に期待はしたくない。けれど、
 
 
軌跡を知るに潜水をそして
腹をへこませる。
 
 
水底の廓大にして波は生まれる。
泡沫に消えゆくどこぞの魚などない。あるのは
 
 
 
明けても暮れても膨らむにへこむ腹を
沈むに交う潜水魚。

そうあることに忸怩たる思いが、
夕暮れを果無む。
 
 
 
水は鳴いている。