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明日はないかもしれない物語

夜が、毛布のなか去来する。


頭のなか、灯りの点いたり消えたりを繰り返していた。それはわたしの前障を覚醒させたのか。意識は5000万年前のどこかを彷徨っていた。


丁度手もとにあった本が、中生代の恐竜全盛期を描いたものだったからと思う。しかし、
そこから更に1億年以上もの時が経つその頃には恐竜は絶滅、地球は熱に覆われていた。

恐らくに辿り着いたのは始新世の海の中、そこは海牛目らの暮らす浅瀬だった。そして、

わたしは貝であったように思う。


僅かな隙間から見えるだけの世界は、押入れの暗闇からほんの少し覗く好奇心のようだ。


わたしは、何からも見つからぬよう静かに岩陰に潜る。そして息をひそめ辺りを窺っていた。襲われれば一溜まりもない。たかが貝なのだから、ただじっとしていることだけが防御なのだ。自分の尺を測るまでもなく、わたしが如何に小さく弱い存在であるかは勘考するまでもなかった。なにより


5000万年前の貝になったのは初めてなのだ。抗うこと無かれ。こうしてわたしは、毛布の隙間から這い出て


5000万年前の始新世であろう時代にいた。




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