お腹のはなし

程無く診察を済ませ待合室へ戻ると、
周囲の患者たちが皆一様に何かを抱えていることに気づいたんだ。それはそれは大切そうに、産まれたての赤子の如く皆の顔が幸せを唄っている。

嗚呼、これがわたしからは産まれぬものなのかとその一様を待合室の片隅から眺めていた。

無いのではなく産まれないということは、わたしの腹のなかにもそれがあるのだろう。産まれることが定義なら産まれないことも定義であるはずだ。あることが前提なのだから、そこにも意識はあるのだろうか。

そうはいっても産まれない事実がこの腹にはある。わたしは、アブストラクトな腹を抱えたまま病院をあとにした。

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