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東京都立高校 数学入試 「変わらない傾向と効率的な対策」

都立高校入試の特長

サマリー

都立高校の入試は都立全日制の高校167校の入学希望者が受験する学力検査であり、約4万人の生徒が受験する大規模な試験です。受検者の学力は低位層から上位層まで幅広く分布しており、平均点は例年55~65点と大きな変動はありません。問題形式や出題分野も毎年同じか、隔年で交互に出題されていて、予想は容易です。ただし易しい問題と難問が混在しており、実力に応じて手を付ける問題の選別が必要となります。
都立志望の受験生は5科目を受験しなければならないため、なるべく効率的な学習を進めることが重要です。また内申点を稼ぐため、学校での実技4教科への配慮もしなければなりません。
今回、都立の数学入試の傾向を分析し、学力別の効率的な学習対策についてまとめてみました。来年2月の本番に向けて、学習の参考にしてください。

規模と平均点

令和5年の入試では約4万人の受検者数であり、都内中学校の生徒の約54%に相当する生徒が受験しました。( 都内中学に通う生徒数223,216人(都教委HPより)、1学年当り約74,000人と仮定。)

図表1: 数学の得点分布 (KIPアカデミー推定値含む)
図表2: 数学の得点別度数分布表

図表1,2より、以下のことがわかります。

  • 平均点は59点 (前年より5.7点高い)

  • 60点未満の受験者が広く分布、左方向にロングテール。最頻値は75~80で平均より上位に位置している

  • 下位の約30%の受験者は50点に届いていない

  • 50~70点の受験者が約34%、平均点周辺のボリュームゾーンを形成

  • 70~85点の受験者も27%を占めている

  • 85~100点の受験者は9%、上位層を構成

図表3: 5科目の平均点の推移

5科目の平均点の推移は図表3の通り。

  • 国語の平均点は、他教科と比較すると高い(70点台)

  • 国語以外の科目は、概ね55~65点の範囲内

  • 社会は2018年まで安定していたが、2019年以降若干の低落傾向

  • 理科は2019年まで上昇していたが、2019年から低落、2022年に再度上昇

科目別の平均点から仮説として以下のことを考えてみました。
基幹3科目について
⇒ 英・数・国の基幹3科目は毎年平均点の変動を小さい (小さくする工夫をし
     ている?)。出題の形式は毎年同じで、出題傾向がつかみ易い。

理科・社会について
⇒ 理科は実験を素材とした出題が多い。社会は資料を与えて歴史の流れや経
     済社会のタテとヨコの分析をさせようとしている。理科・社会共に知識が
      なくても考えれば正解可能な出題。

形式と出題分野

図表4: 出題分野と配点
  • 大問1は易しい小問9個の構成だが、配点は100点中46点と比重が大きい。

  • 選択問題が2問ほどあるが、その他は回答の数字を記入する形式、証明問題が2題出題され、記述式回答となっている。

  • 大問2は図形や整数を素材にして、先生と生徒が問題を出す探求型学習をイメージした形式だが、回答にはこの形式は関係してこない。

  • 大問3は座標図形の問題。1次関数と2次関数が交互に出題されている。

  • 大問4は平面図形。三角形の相似または円周角を扱う問題。

  • 大問5は空間図形。直方体または錐体の内部に錐体を構成し、体積を求める問題。

  • 円周角の問題はほぼ毎年出題されている。大問1または大問4に交互に出題されている。

  • 確率と統計基礎も大問1に1年交代で出題されている。

図表5: 問題別難易度
緑: 正答率>=70%、黄: 正答率>=30%、赤: 正答率<30%
  • 図表5の通り、正答率が高く易しい問題から正答率の低い難しい問題がほぼ同じ配点(5~7点)で出題されている。

  • 問題の配置も毎年同じ。

大問ごとに中身をみていくと以下の通り。

  • 大問1
    問5までは中2履修範囲、かつ易しい。問6~問9も易しい問題だが、解答までに処理プロセスが必要。

  • 大問2
    文字式を扱う問題で、難易度は教科書レベル。

  • 大問3
    問1、問2は易しい。問3は座標図形の求積問題で難易度は高い。

  • 大問4
    問1は易しい。問2も易しい証明問題。問3は相似な三角形の面積比を扱う問題だが、回答までの手数が多く難易度は高い。

  • 大問5
    問1は易しい。問2は元の立体の内部に出来る錐体の求積問題で、立体の切断または等積変形を行った上で三平方の定理、相似比と体積比を使う。手数が多く難易度は高い。

受験生の学力グループ分けと学習方針

図表6: 学力別グループ

学力別グループと効率的な学習方針

得点別に受験生を以下4グループに分類してみました。

図表7: 学力別のグループ分け

グループ別対策のまとめ

図表8: グループ別対策
  • まずは人並みグループ
    概ね偏差値45未満で、大問1の正答率がよくて4,5問というレベル。数学が苦手な受験生で、まずは教科書の理解、例題にそった手順の再現の練習が必要。中1、中2の教科書の練習問題の復習を中心に、中3の学習を並行して進める。そして大問1で7,8問正答出来るレベル (人並み) に到達してから、大問2以降の対策を考えたい。まずは手を使って慣れることから始める。

  • ダンゴから脱出グループ
    偏差値45から55の間のボリュームゾーンの受験生。大問1を2,3問落とすが、その他で2~5問取り戻している。ただし苦手な単元がいくつかあり、伸び悩んでいる。苦手単元の教科書の該当部分の復習と副教材で理解定着を図る。また計算ミスを多発している受験生は計算速度を落とす、暗算は極力しないといった配慮をして計算精度を高める練習が必要。

  • 更なる高みグループ
    偏差値55から65の間の学力中上位層。大問1と大問2以降の問1は苦労せずに正答出来るレベル。従って大問2以降の問2,3をいかに攻略するかがポイント。解法の定石、コツの学習によって更に高得点を狙える。しかし適当な参考書・問題集が手薄なので独学では習得しにくい所。東京書籍の「高校入試 数学ハンドブック」が解法をコンパクトにまとめていてよい。図形編/数式編/関数・確率編の3部に分かれている。やや内容が高度で取捨選択して進めたい。

  • 都立においでグループ
    偏差値65アップの学力上位層のグループ。日比谷や戸山といった独自問題出題校を除けば問題なく合格のレベル。高校側からすれば、是非入学してほしい生徒だが、難関私立との併願が多い層でもある。大問3,4,5のいずれかの問2,3が不正解といった所。出題傾向に沿って解法の定石をおさえれば100点も狙える。


(参考) 大問5の立体図形の素材となる図形

都立数学の大問5の問2は最後の問題で、正答率10%未満の難易度の高い問題。元になる立体の中に三角錐または四角錐を作って体積を求める。立体の切断または等積(面積ではなく体積の)変形の解法を活用する。解答までに手数が多く、大半の受験生には「捨て問」とされている。ただし解法や公式を使えば回答出来る問題であり、過去問に類似の問題が出ている。
ご参考までに素材になっている立体をまとめてみました。

図表9: 大問5の素材となる立体の推移