今日の天気は曇りのち雨
私の瞳もそのうち雨
生憎、私は傘を忘れた

あぁ、溢れてくる

傘を手にするまでに
この雨は止まらなさそうだ

" 絶対に結婚しようね "

口約束の結婚と指輪代わりの
ドーナッツ

"ねぇ！僕が君の最後の人になりたい！"

　
男の人って普通は最初になりたがる
この人は違うみたいだった

行きつけのカフェ
手にはココアとドーナッツ
お互いの気持ちにずっと気づいてて
やっと言えた17歳の秋

そういうもんなの？
なんて情けない顔して
でも、どこか嬉しそうな顔で

返ってきたB5のテスト用紙の裏
婚姻届は今は書けないからって
たくさんお互いの好きなとこ書いて

私には君しか見えていなくて
そんな自分がちょっと怖くて
それでもどうしても君がよかった

好きにしていいよ
たくさん余所見したって
その中でも私が選ばれたら
ずっと愛せると思わない？

なんて強気で言ったって君は

"僕には君しかいないよ"

そんなこと言っといて
ねぇ、フラフラして
本当にどっか行っちゃうなんて
ズルいよ

引き出しから出てきたテスト用紙
紙いっぱいに書かれた君の好きなとこ
こんなに理由なんかなくたってよかった

滲んだインクの先
B5の紙には
透けた自分のヒドイ顔

嫌いなとこで上書きしたって
おさまる訳なんてなくて
ねぇ、代わりなんて誰もいないんだよ

自分のことを嫌いになる日は
決まって君を好きになる日だった

ケンカして君がいなくなってから
ずっと行かなくなってたいつものとこ

もう、あのドーナッツは
終売してしまったのか店頭にはなく
ただの思い出になってしまった

恋愛だけが生きる理由ではないのに
泣いて、疲れて、やめようって
こんな面倒なこと繰り返すのに
それでもバカみたいに懲りずに
また君に私は恋するんだろう

"ねぇ！"

なんだか懐かしい声が聞こえる
そうそう
よく最初の頃は名前で呼ぶのが
お互い恥ずかしかったりしたな

私は気にも止めずに仕事の資料に
手をつけていた

"お願いこっち向いて"

顔を上げた先にいた君
なにしてるの？なんでいるの？
言いたいことなんて声にならなかった

頭冷やしてた
なんて手に持ってるのはホットコーヒー
あちっ！と言いつつ口にする

離れてた理由なんてどうでもよかった
目の前に君がいること
ずっと頭で揺らめいてたこと

"お願いそばにいて"

この人はどこまで気まぐれで意地悪で
わがままで振り回されてばっかり
それでも嬉しい日も楽しい日も
悩む日も病める日もずっとずっと
私のこと見ていてほしいんだ

昨日まで私は君のこと嫌いだったかもしれない
それでも今日、私はまた君を好きになった

滲んだB5の資料
裏には結婚しようの文字と
置かれた指輪代わりのドーナッツ

"あなた朽ち果てるまで
  愛し抜いていきたいと思うのです"