見出し画像

ヘン子さんの手紙

【ヘン子の手紙〜第51回NHK障害福祉賞 最優秀作品〜2016】

https://www.npwo.or.jp/wp-content/uploads/2017/01/5101_saiyusyu_itoh.htm

「私は、小さい頃からヘンな子と、言われてきました。」

こんな一文から始まる文章は、「発達障害」という言葉も知られていない時代に、幼稚園、小学校〜高校卒業、就職へと続くヘン子さんの苦難の歴史を、30代になるまでずっとなぞるもので…

「自分でも、何か皆のように出来ない、どこかぼーっと、したとこがあるな、とは思っていました。幼稚園児の頃の私は、まず、ハーモニカが出来ない。先生の言うことが理解できない。ただ、怒られるのが、異常に怖くて、ごまかしてきました。吹く真似をしたり、隣を見たり、そんなことに、必死でした。先生の言っている事は、聞こえてないか、理解できないので、先生からみたら、ぼーっとして、何も考えてない様に、見えていたのではないかと思います。ただし、私自身は、理解できている数少ない単語から、指示された事を予測することで、脳をフル回転させていました。今でも少ない単語で、何が言いたいのか、考えています。なので、いつも人より、理解して、行動をするまでが、遅くなってしまいます。そして、自分に自信がありませんでした。臆測で判断して聞いているので、自信がなくて、当たり前の事ですよね。
小学校に入ると、ますます、苦しくなりました」

読んでいて身に覚えのある苦難がいくつもいくつも出てきて、涙が出た。学校時代、自分で自分を持て余して本当にキツかった。どうやら私は耳からの情報取得が苦手なようで、どうにも背景の音と混ざって必要な音だけを聞き取れない。女性や子どもの高音域の声に物理的な痛みを感じる聴覚過敏もあった。(聴覚関係は体調や緊張、気圧にも大きく左右される。大丈夫な時もある)

その他にも、話している内容を話しながら忘れてしまう、人の顔が見分けられない、動いている口元が気になって話の内容が頭に入ってこない…等々、対面で人と会話して接するのに大きな困難をたくさん抱えていた。でも大人になるまでわからなかった。周りの人と同じようにできない、特に会話でのコミュニケーションが取れない自分の困難がなんなのか、よくわからないまま翻弄されてつらかった。

ヘン子さんはこの後、あまりに長い間苦難と極度のストレスに晒され続けていよいよ限界になってしまいます。

「余りの混乱状態のため、入院することになりました。
私は、何故こんな事になったのか! なぜ、誰も私の事を分かってくれないのか! という怒りで爆発しました。誰も答えをくれませんでした。余りに怒っていた私は、医師、看護師に向けて手紙を書きました。勿論、返事はありません。そのうち仕方ないので、自分で自分に、返事をするようになりました。すると、何故か、瞬く間に怒りが消えていったのです。
「何で、私の事を分かってくれないのか?」
「分かってもらいたいのは、きっとつらかったねって、言ってもらいたいからだよね」
「大丈夫、私が言ってあげるよ」
そんな感じでレポート用紙、一冊分書きました。」


極限の状況で、ヘン子さんは自分を癒す方法を見つけていた。その方法が私に似ていてとても共感しました。

ネズミくんの問題行動が今よりずっとたくさん出ていた頃、療育が忙しすぎて、下の子も生まれててんてこまいだった頃、親としても人としても未熟で、うまくやれないし人を上手に頼れなかった頃、苦しい日々の中で日記を書くことが私の癒しでした。

SNSに出会って、何千、何万、の言葉を書き綴りました。うまくいったこと、うまくいかなかったこと、ずっと悩んでいたこと。

日々の出来事の日記に紛れて、たくさんの私の心を重たくしていた荷物が言葉と一緒にほどけて背中から離れていった日々でした。

ヘン子さんが今を自分らしく生きているのが我がことのようにとてもうれしい。やっぱり書くことはそのものが癒しだなと思う。

日記を始めてからずっと書くことは私の親友で、その前からずっとたくさんの本たちも親友で。子ども時代にクラスの中に普通の友達はあまりいなかったかもしれないけど、たくさんの物言わぬ親友たちに囲まれて、私は十分豊かな子ども時代を過ごしたと、今は思う。

今は書くことから少し離れて、苦手な喋ることに少しずつ取り組んでいる。zoomお片付け会や読書会で心地よい世間話や自分の気持ちを伝えるのを練習している。まだまだ上手に話せないけれど。うまく聞き取れないことも多いし、咄嗟に言葉が出てこなかったり、逆に相手の反応も見ないで一方的に喋り続けてしまったりもするけれど、ゆったり待ってくれる人たちと一緒に、少しずつ。

でもこの先どんなに喋ることが上達したとしても(そんな兆しはついぞ見えないが)、やっぱり書くことは癒しだから、また困ったらたくさん書いて心を整理すると思う。

ヘン子さんの物語、自分が人とは違っていて悩んでいる多くの子ども達に、そしてかつてそういう子どもだったたくさんの人達に、ぜひ届いてほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?