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統計不信ねえ


 子どもと食事に行くまでの間、うたたねして長い夢を観ました。

「師匠! 師匠! 起きてくださいよ」

「んー。なんだ、うるさいぞ。こんな昼間に」

「昼だから起きてろって言ってんだろジジイ」

「馬鹿野郎。年寄りは大切にしろ。で、用件は何だ」

「この記事をご覧ください」

「えー、どれどれ。『あなたも充実のパパ活を。スマホで無料登録』ほうほう」

「それは広告。読んでほしい記事はその上」

「んー。『高まる統計不信』? 相次ぐ統計不祥事… なにこれ」

「どうも師匠のところにも文句が来るらしいですよ」

「何でだよ。ワイかて言われた通り調べた結果を出力して納品しとるだけじゃん」

「いや、その、師匠の出した資料がおかしいんじゃないかって言われとるようです」

「は? 寝言はお休み中に言えよ。あいつらが調べたいってことを質問票に仕込んでばら撒いてるだけじゃん。真面目にやっとるだけやぞ」

「その真面目にやった結果が気に入らないってことなのでは」

「そんなこと言われても知らねえよ。この前だってわざわざ沖縄まで行って愛人と一緒に観光旅行したついでにちゃんと聞き取り調査までやって調査結果を報告書にして出したんだぞ」

「あの同行された女性、愛人だったんですか…」

「だいたい沖縄なんて全員面前連れてきて『お前ら基地をどう思う?』って訊いたら『反対だ』って言うに決まってんだろ、迷惑してるのは事実なんだから」

「そらそうですね」

「でも基本的に訊かれれば『反対だ』といったところで、基地とか興味ない沖縄県民が7割もいるんだから、基地問題なさそうなところの沖縄県民を聞き取り調査の対象者に混ぜればだな…」

「師匠。それが統計操作じゃないか? って言われる原因なのでは…」

「なんでだよ! 調査依頼書には『沖縄県民に聞いてこい』としか書いてねえし、バイアスの修正も年齢と性別しか頼まれてねえんだから嘘は言ってねえぞ」

「師匠のそういう人でなしなところが大好きです」

「ご声援、ありがとうございます。で、発注元の顔見れば基地なんか移転させたい奴が鈴なりになってるんだから、次の注文貰えるようにするためにも都合のいい調べ方ぐらいするわな、こっちだって商売なんだからよ」

「でも、その調査結果見て『これは選挙に勝つる!』と誤解した馬鹿が…」

「あの馬鹿は重鎮だと勘違いした能無しだろ? あんな奴は検察審査会で起訴相当とでも言われてバッジが外れちゃえば良かったんだ。だいたいブロッキング騒動でもろくでもない影響力行使して大見得切って馬鹿じゃないのほんとに」

「やっぱり師匠は昼も寝てたほうがいいんじゃないですかね」

「まあワイが言いたいのは『嘘は言ってないぞ』ってことだ。言われた通りの条件のなかで、クライアントたる大先生方が欲しい情報を作って差し上げる。それがワイらプロのプライドってものよ」

「誤解した大先生方が全軍突撃して大惨敗したんすけど」

「そんなの知らねえよ。だいたい争点別調査なんてな、何処の政党も政府も『その問題が有権者にとって重要か』なんてちっとも考えないで調べるからみんな賛成反対に一喜一憂するんだ」

「そんなもんですかね。この前なんて憲法改正で『国民の4割が賛成』とか書いてる大マスコミがありましたが」

「沖縄県民に基地を訊くのと一緒で、訊かれれば賛否ぐらいはみんな意見もってるよ、質問に答えるのは意識高いジジババばっかりなんだからさ。でもみんな憲法改正なんてどうでもいいと思ってるのさ。まずは目の前の生活が一番。景気が良けりゃ与党に流れるしクビになってハロワ通ってれば野党支持が増える。ただそれだけのことよ」

「なんで重要じゃないと分かっているのに調査するんです」

「知るかボケェ。偉い先生方が『これ知りたい』と仰られたら『へへぇ』と平伏して調査票でっち上げてばら撒くのがワイらの職業よ。細けぇこと考えるのがワイらの仕事じゃない。そんなのは偉い偉いシンクタンク様や御用学者の皆様の大活躍シーンやないか。ワイらの出る幕じゃないねん」

「でもみんな、景気良いと報じられたり、生活が楽しいって調査結果が出てて、給料が上がってる風の話を信じ込まされてましたよ」

「景気のこたぁ知らねえよ、調査界の大正義・日本銀行大先生が秘伝のタレかき回して進めておられる一大事業やろ。鯖缶高騰しててもツナ缶だけ見て『おっ、物価は上がっていないな』ってうなづくのが仕事なんだからよ。ほっといてやれよ」

「でも賃金は」

「あんなもん勤労者の社会保障費や所得税の捕捉状況見返してデータ一元化すれば過労死寸前の厚生労働省諸君の徹夜残業時間など不要なぐらい精密なデータが取れるのよ。でもそんなデータ取っちゃいかん」

「え。精密なデータ取ったらいいじゃないですか。なんでいかんのですか」

「国税庁様が所得データなんて厚労省に渡すと思うか?」

「あー」

「e-taxやぞ」

「あのe-taxがあのデキで平然と稼働している、あの国税庁ですか…」

「統計不信? データが消えた? いやいや、それによって問われるのは我々にどのような実害があるかだ」

「え。大問題なんじゃないですか」

「大問題だよ。でも問題だっていって、はっきり言えば90年代から統計こそ国家の根幹だ、ちゃんと調べろ、頑張って人員確保しろって言い続けとる。でも実際に起きていることは何か? 国家公務員の削減だ。統計の根幹は農林水産省、財務省、日本銀行、国税庁、みんな大事だと思ってる」

「はい…」

「でもちゃんとやるには、人が足りねえんだよ。国家公務員が減っている中で、どうやって調査して統計作りをする?」

「…外注する」

「毎年一般入札させられて失注するかもしれない民間調査が、リスク取って調査マンをどれだけ雇えると思う?」

「まあ、それはそうですね」

「いいんだよ、適当にやっとけけば。どうせやりたがる奴なんていないし、真面目にやっても適当にやっても報告受け取る奴が統計の何たるかなんて何一つわかってないんだから。『お前の出してきたデータはここがおかしい』と言ってきた役人はいたか?」

「…おられませんね」

「なら品質なんか問われてねえんだよ、元から。炭火で焼いた高級地鶏の焼き鳥も、適当にスーパーで鶏肉買ってきてレンジでチンした焼き鳥も、どっちも秘伝のタレかけて喰えばタレの味しかしなくてそれっぽければOKなんだよ」

「うーん。でも酷くないですかね。だって、調査だ統計だといって、あれこれ調べた風のことを言っても結局はガセネタの可能性もあるんでしょ」

「真面目にやってる奴も少なくないよ。でも、例えば外資系証券会社から日本国内の調査にかける費用って月額幾らだか知ってる? 官公庁から出る調査費用なんて、ざっとその百分の一で、労力は倍だぐらいに思えばまあだいたいあってるよ。そんな仕事やってられるかっていうんだよ」

「百分の一、ですか」

「言っておくが、省庁の調査予算という点ではそこまで酷くはない。五分の一ぐらいかな。でも一次請けはどこだと思う」

「あー。大手コンサルタント会社とか大手総研ですね」

「だろ。そこがまず、ガバっと調査予算を取る。政策も調査も統計も良く分かってないアソシエイト君たちが、けたたましい時給単価で稼働する。それも、人月単価だ」

「はい…」

「で、ワイら調査部隊の実働に降りてくる予算ってのは、上が喰った後に出したクソの、その下でそのクソを喰った奴がひりだしたクソの、さらに下の奴が喰ったクソのクソを屁と一緒においしく戴けっていうレベルなんやで」

「俺も去年結婚したのに給料上がらないので子どもが儲けられません」

「ざまあみろ」

「どうにかなりませんかね?」

「あのさあ。これって太平洋戦争の最後と一緒なんだよ。大本営は自分の都合の良い『いま戦争勝ってます』的なことしか知りたくない。前線でボロボロ人が死んでて、その死んでる理由も補給が足りなくて、敵に殺される戦死よりも飯が届かない餓死のほうが多いっていう」

「その太平洋戦争での前線からの情報が、いまの統計ってことですか」

「だって、本当のこと言ったって『あいつの話は面白くない』って対応されて『次からは別の調査チーム立てるからいままでお疲れさん』と切られる運命じゃん。情報も補給も足りないから正しい情報が大本営に上がらなくて、それで平気で『働き方改革』だとか『人生100年時代』などと平気で言えてしまう。前線でバタバタと人が死んでるにもかかわらずだ」

「そんなに大事なのに、なんで放っておかれているのか」

「知らねえな。野党がちゃんと機能していれば政権のみっつもよっつも倒れるだろうに、それでも政府がどうにかなっちゃうから放置してんだよ」

 そろそろ出かけるのでこの辺で。


神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント