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祝福とロバの耳

 昔、女性のコンビ芸人だったモエヤンのネタで、結婚披露宴パーティーで幸せそうにしている新婦に、嫉妬交じりの新婦側ご友人が余計なことを言うという歌コントがありました。

 新しい門出を祝うのに、どうしても新郎も新婦もぎこちない中で幸せを手探りで探して掴んでいってほしいという部分もある一方、お前それさあというのがあったりするのが世の中で、それもスピード婚とかだと「ねえ、ちゃんと相手がどういう人だか分かってる?」「本当に吟味した?」「結婚したこと自体をネタにして祝福されることを狙ってやってない?」みたいな話になりがちなのもまた事実なんですよ。

 で、新郎も新婦もまあ良く知っているスピード婚の場合、しかもどっちかが凄くいい人で、いい歳でもあるし不退転の覚悟で結婚したぞというときに、お前それちょっと先に相談してくれればよかったのに、と思うことがまたあるわけですよ。もちろん、結婚はいいぞって思います。できることなら後顧の憂いなく100%の力で背中を押してやりたい。

 しかし、そんな彼の、あるいは彼女の目の前が、地雷原だったらどうでしょう。恋は盲目というわけではないし、例の皇室婚約ネタで騒ぎになっている詐欺師母子の話もそうでしたけど、関係者であればみんな見えている地雷ってあるわけじゃないですか。

 ああ、いまは彼は人生のピークなんだろうなあと。幸せそうにしているし、祝ってもらってちやほやされての夢心地なんだろうなあと。

 それでもいいんですよ、と突き放す人たちもいるんですけど、本当に友人ならば、関係が深ければ深いほど「それは無いわ」と言いたいときが、あるのです。いや、ほんとまずいって。長く持たないって。ねえ、ちゃんと本人と話をした? 心から、ああこの人なら生涯一緒に暮らしていけると思った? 本人の性格や周辺の人間関係や親親戚関連も含めて、これは一緒にやっていけると確信して婚姻届を出した?

 でも、なかなか言えないのは「ねえ、君の目の前は崖なんだよ」ってことです。背中を押したら落ちて行ってしまう。背中を押さなくても、そのまま目の前には幸福の天国へ至る階段が続いていると思って、一歩をまさに踏み出してしまう。あああああああああ。ヤバいだろ。いや、友人として一言言わしてもらうけど、それほんと大丈夫なの。ブサメンだから次はないと思って、目の前の幻想を事実と思い込んで前に進もうとしているの。いや、思い込みだということは気づいているかもしれない。

 あるいは、結婚をネタに仕事のヤマが来るかもしれないと思い込んでいるんじゃなかろうか。身の回りに「俺はこんないい人と結婚したぞ」と威張りたいということもあるのだろうか。結婚の直前まで、その周辺に本人に対するどんな感想を漏らしていたと思う? なぜあの人はあれだけの美貌を持ちながら、あるいは成功しながら、あの歳まで「売れ残っていた」と思う?

 ヤバいからですよ。

 色恋沙汰とは無関係だからこそ分かる、物凄い瘴気の立ち込めるヤバい成功者。人生最大の賭けの一つである結婚において、そんなババを掴んでしまうなんて。いや、結婚を機に相手が変わるかもしれない。自分自身も心が広くなって多くを受け入れることができるようになるかもしれない。だがしかし、そんなものは幻想だ。その相手のお陰でどれだけ多くの人が傷つき、嫌な思いをし、それを相談という形でお裾分けされ、向かい合った結果、知りたくもないことを知ったか。

 美しい人の形をした爆弾というのは、あるのです。セブ山さんが大爆発したのがご愛嬌なのは、そこに救いがあったからです。あいつはクズだな、はっはっは。それで済むから炎上しても美味しい。彼はきっとこれから上へと歩んでいく人だから、いま燃えてよかったんだと思うのです。だが、成功者は違う。いろんな人が漏れなく巻き込まれる。辛い思いをする。「ほら言わんこっちゃない」「あー、やっぱりね」という感想とともに、人垣がごっそりといなくなり、その人たちへの経緯ではなく興味本位の野次馬しかまわりにいなくなったとき「あの、僕はこれからどうすればいいでしょう」と相談して回るようになるのです。

 私も、いろんな人にいろんな人を紹介して、結婚に漕ぎ着けた人たちもいますし、よせばいいのに相談を繰り返しされる中で、否応にも「あ、これは地雷だな」「彼女は良い母親になるな」「ん、彼らは近い将来別れるな」というのが分かるようになってきます。これほんと。当たるんですよ。別に脅すわけでも威張るわけでもなく、「彼らは大丈夫」「あれは長くは続かない」というのが、なんつーか『見える』わけであります。

 その私たち夫婦から見て家族ぐるみでお付き合いのある彼や彼女がいままさに地雷を正面から踏み、大爆発し、天高く舞い上がっていくのが見えるのは残念なことです。その人のアレをみるのも残念なら、踏んで駄目になるのが分かっていて止められなかったことも残念です。

 でも、祝福はします。私たちの見通しが外れていることを祈りながら。人生に、そう何回もないであろう結婚だもの。神の前で誓う人たちが、本当にその人生を彩り豊かなものにしてくれるよう、心から祈ります。くれぐれも浮かれず調子に乗らず、結婚を商売の具にすることなく慎ましくしかし弛まずに夫婦生活を歩んでいってほしい、と。

経営情報グループ『漆黒と灯火』第10期生募集中、あと2名ぐらいです



神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント