富士通退職エントリ関連の補遺

 先に富士通退職者が書き綴ったブログ記事のエントリー内容に呼応する記事を文春オンラインに書きました。

富士通などのSIerの惨状を見ていると、太平洋戦争で負けた大日本帝国を思い出す
日本って何でこんなつらくて勝てない組織なの? #山本一郎 

 実のところ、この記事を書くまでに富士通に限らず日本のSIerについて詳しい人たちの集まるFacebookグループで問題意識が高まっていて、スクープがその後誤報とされた「富士通45歳配置換えニュース」もそれなりに事実関係の裏が取れている内容だったようです。

 で、実際にはそういう日本企業の「現場力の高さ」、すなわち使い捨てになりがちな人材でも役目を与えられると最後まで頑張ってくれる、という特質に甘えてしまうマネジメントの問題というのがあります。もちろん、日本企業でもうまく堅実な経営を行い、世界と戦っていける場合も数多くあります。

 キーエンス、コマツ、トヨタ自動車のような、きちんと海外でも戦える系の組織と実績を備えた企業がある一方、ユニクロを運営するファーストリテイリングや日本電産、スズキ自動車のように先陣切って戦う系のトップが牽引するタイプの企業もあります。

 翻って、日本のSIerは特に、世界で戦えるような状況になってない、というのは頭の痛いところでして、細川義洋さんの『システムを「外注」するときに読む本』とかは業界全体で必読にしておいていいんじゃないかと思うぐらい基本が揃っている内容です。

 つまりは、「お前ら頑張れ」という軍隊型組織でSIerやっちゃだめだよ、ってことだと思うんです。きちんとプロジェクトの内容をブレークダウンしたり、具体的に何をやるのか要件定義をし、それに対する作業の見積もりを出し、必要なスキルを持つ人を集めてきて、然るべき期間をかけて、充分な予算を売り上げとして確保する。そういう組織横断、縦断でしっかりと「俺たち何を作るんだっけ」と理解して取り組めるプロジェクトがきちんと稼働して初めて、お客様の求める仕組みが実装出来たり、納期を守って本番環境も上手くいくものだということで。

 逆に、「お前ら頑張れ」の組織だと、この作戦とは何を目指すのか、それに対して何を期待しているのか、どういう完成後のイメージなのかを共有することも怠るようになってしまうわけですよ。富士通に限らず開発プロジェクトを担当する人たちの愚痴は、とにかく営業が安く受注して来てしまうのでやらなければならないプロジェクトを完成までに持っていく工数のコストが利益の出る形で〆られないのだ、と。営業から開発現場、そして保守運営にいたるまで、一定の共通認識を持ち感性のイメージを共有して「安値受注」を安易にしない、案件を取れば後は関係性で利益は後からついてくる的な仕事の仕方を排除する必要があるだろうというのは、みなさん一致した見解なのですよ。

 ところが、そういう知見がなぜかこの手の大企業の経営陣や経営企画にはほとんど活かされることがない。

 で、文春オンラインや先日発表した私の新著『ズレずに生き抜く』で、いくつか仕事でお互い愚痴吐きながらデスマーチを生き抜いた面々の逸話をまとめた小噺が収録されています。概ねの内容は、文春オンラインの記事で無料で読めます。

 ところがですねえ。

 これには後日談があって、念頭に置いている私たちの同志が、先日の人事で開発担当の執行役員になったのですよ。これはめでたい。

 私も企業研修で良く中堅の幹部の方に講演で話すこともあるので、さっそく呼ばれて執行役員になってどんな話をするのか聞く機会があったんですが。

 いきなり、仕事には三本の木が必要だ、とか言い始めるんです。

 それは、現場の「元気、やる気、根気」だと。

 おい。

 みんなでそういう精神論がデスマーチを生み現場に混乱をもたらしたよねって、私ら外注もエース候補も集まってそう結論付けたじゃないですか。一緒に反省会、やりましたよね。適当な思い付きで仕事を始めるのはやめよう、精神論に逃げるのは駄目だって。そういう総括をして、みんなで来期は新しい仕事を納期通りやろう、良い仕事をしてお客様に喜んでもらおうって、そう約束したじゃないですか。

 そのあなたが、昇進した最初の幹部会でそれを言うんですかって、ちょっと言い合いになりました。

 なんとかの法則じゃないけれど、人間というものは昇進した最後のポジションが無能になるという典型にならないよう、嫌がられてコンサル契約を切られるまで現場で働く皆さんのために「お前さあ」と言い続ける役目が私なんだと思っているぐらいです。

 この原稿を書いているところで、驚くべきことに今日ちょうど小学校の父母会があり、そこで体育教諭のご挨拶で体育で必要なものは「まずは何より安全第一」そして「元気、やる気、根気です」ってお話をされていました。体育の授業ですから、無理せず安全に授業をし、楽しく身体いっぱい動かそうねという意味で、元気やる気根気ってのはいいと思うんです。

 ただ、それは頑張って身体を動かしていろんな能力を身に着けようとか、心身の成長に資する授業を怪我せずやり遂げようとかいう話だからこそ意味がある指示だと思うのです。そして、頑張って走って、その頑張りが認められて先生に褒められるのは子どものうちだけです。

 データ資本主義と言われ、知的労働が重要だとされるソフトウェア開発の世界で、頑張ればバグのない綺麗なコードが書けるのだとしたらそれは間違いです。あるいは、経営企画において適切な事業計画を立て、新規事業に投資をし、有望な技術開発にGOをかける、これも頑張ればどうにかなるというものでもありません。

 だからこそ、考える時間が必要だ、落ち着いて取り組める環境が大事だ。そのためには、良い開発機材、優れた環境、最先端の技術や思想を研鑽できる社内・社外の交流の場、リラックスできる時間を自分で管理できる完全フレックスタイム、求められる職能が正しく評価される人事制度、そして、その企業に今後も務めて貢献できる人たちが他に転職していかないよう繋ぎ止められるだけの給料ーー

 しかし、現実には転勤はある、奥さんや子どもとの時間も上手く工面しづらいような勤務体系、硬直化した人事、レベルの低い研修にVDIですらない開発環境といった、どうしようもない職場に満員電車に揺られて通っているのが実態じゃないのでしょうか。これでどうやって知価社会を生き抜き、同業他社に負けない製品やサービスを開発し、世界的な多国籍企業と戦っていくのでしょうか。

 で、そういう話をすると、だいたい経営幹部に上がった皆さんは眉間にしわを寄せて「分かっています、分かっています」と仰います。たぶん、分かって入るのでしょう。でも、それを解決するための方法が見つけられないか、実現できるだけのパワーがないだけで。

 だから、黙ってみているしかないんですよね、現場は。いつまで我慢すれば少しは良い状況になるのか、と苦しい想いを紛らわせながら。



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