マスク天国

ある日マクス会社の社長室に部長が駆け込んできました。
「社長!名案を思いつきました!風邪のウィルスをばら撒けばいいんですよ、そうしたらみんなマスクをするでしょう。急に風邪が流行るとお店のマスクはあらかた無くなります。そんな頃合いですかさず我々が製造しておいたマスクを一気にお店に供給するのです。」
社長はヒゲをひと撫でしてふーむ、とうなりました。
「部長、君は天才だな!早速風邪菌を培養してあちこちにばら撒くことにしよう」
そうして、社で一番ひどい風邪をひいて寝込んでいた平社員を電話で呼び出すと彼に鼻をかませてたっぷり鼻水を確保しました。平社員の風邪はたいそう酷く、風邪はあっという間に全国に広まりました。社長と部長はほころぶ笑顔をどうにか隠しながら、お店にマスクをたくさんたくさん売り込みました。あまりに引き合いが多かったので社長と部長は朝から晩まで休む暇もありません。食事の前に手を洗うことすら出来ずに社長室の電話の前で手づかみでパンをほうばりながら注文に対応しました。そんな生活を何日か続けたある朝、とうとう社長と部長は熱を出して倒れてしまいました。
「しゃちょう…ぼくはもうだめです…」
「ぶちょ…う…わたしも…だ」
そこへ颯爽と現れたのが平社員です。彼はすっかり元気になって風邪への免疫もバッチリです。社長室でたおれこむ2人を一瞥して
「これ、わたしの風邪が原資ですから儲けは全部わたしのものですよね!」
そう言うと平社員は金庫の中のお札の束を全て鞄に詰めてどこかへと消えていきました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?