見出し画像

東益平七丁目団地防衛隊 初演上演台本(一部)


【脚本】登米裕一

【登場人物】

トクヤマ…エリート  

タッツン…子供会会長の子供  

マッキ―…ちょっと弱い子  

ケン兄…アイドルオタク  

オオタケ…警察官  

カズ…引き籠り  

ヤスオ…KYな先輩  

サナエ…スケバン  

マッキ―の母

トクヤマの母

ニュース1、2、3

住人1、2


  舞台の高さは段階に分かれており、一番高い(広い)円を囲むように通路空間がある。

  公園の遊具のような円錐状の舞台空間。

  新聞紙が美術にエッセンスとして入っており、出て来る小道具も新聞や抽象的な印象を受ける。

0 エピローグ(LATER)

  とある夏の暑い日。

  暗転中、声が聞こえる。

ケン兄(声) おーい。おーい。起きろよ……

  明転すると男が起き上がり

タッツン 頭痛い。

ケン兄 飲み過ぎなんだよ。ニュース。ニュース見てみろよ。お前の友達じゃねえのこれ。

タッツン え。あ、うん。

ニュースの声 ニュースの声 続いてのニュースです。大手ダイマルエイジェンシーの倒産に伴い連鎖倒産したトクヤマ工業の社長がトクヤマコウスケが現在行方不明となっております。資金繰りに困った上での、自殺、失踪の両面から捜索が続けられておりますが……

タッツン テレビには高校二年の冬以来会っていない僕の友達が映っていた。

ケン兄(声) これは死んでるな。

タッツン 死んでないと思う。

ケン兄(声) そうかな。

タッツン 死んでないよ……と言いながらも自信はなかった。何せ高校二年の冬以来会ってないのだから。友達があれからどこで何をしていたかなんて知らない。けれど少なくとも潰れるまでは社長をやっていたのだ。それがまずは誇らしかった……これから話す話は僕の友達の話……僕の友達が短い生涯を終えるまでの話。と、それにまつわる再会のお話。

1 東益平7丁目団地(夕方)(NOW)

  学ラン姿のトクヤマが公園の遊具の上に立っている。

  西日が当たっているトクヤマ。

トクヤマ 都心から急行に乗って50分、乗換、乗換でさらに30分。埼玉の真ん中より少しこっち、にある益平市の東に市営の東益平七丁目団地、通称七団はある。1号棟から11号棟まであって、1500人くらい住んでる人がいるマンモス団地の我が七団は、何故か団地内での繋がりを大事にしようとしていて子供会で遠足とかバザーとか潮干狩りとかクリスマス会だとか、そういうイベントが年がら年中開かれる。子供の頃はそれなりに楽しかったんだけど段々とめんどくさく感じるようになり小学校を卒業する頃にはあまり顔を出さなくなる。小中高校と別れ別れになると自然と遊ぶ友達も変わって行くし、団地の連中とつるむよりも学校の友達と遊んでる方が楽しくなるやつもいる。そうじゃないやつもいるけど、でもそうやって自然と疎遠になって行く団地友達との関係を大人たちが無理矢理繋ぎ止めようすることは子供ながらに苦痛だったりした。

  タッツンとマッキ―が家路を歩いている。

タッツン めんどくせえ。マジめんどくせえ。

マッキ― もう分かったから。

タッツン 何しろっつうの!マジで!

マッキ― さあ。分かんないけど。

タッツン マッキ―も考えてよ。

マッキ― ええ俺?俺関係ないし。

タッツン 言っとくけどマッキ―もやるんだからね。ここまで話聞いておいて逃げられる訳ないでしょ。

マッキ― え、ちょ、えー。マジかあ。一緒に帰るんじゃなかった。

タッツン はは。今日話せなくてもマッキ―は初めから巻き込むつもりだったから。

トクヤマ …

タッツン、そこで初めてトクヤマに気付き目が合う。

タッツン …おう。久しぶり。

トクヤマ 久しぶり。

マッキ― あ、トクちゃんじゃん!何してんの?

トクヤマ 別に何も…何の話?

マッキ― 聞いてよトクちゃん。タッツンがさ親父さんにクリスマス会で何かやれって言われてんだってさ。

トクヤマ 何で。

タッツン うちの親父、今年、子供会の会長やってて。だから……

マッキ― 小さな子供たちのためにお兄さんだったら一肌脱げって事らしいよ。そんで出し物やれって。

タッツン だから言ってんだろ!お前もやんだからな!

マッキ― 無茶苦茶なんだよ。タッツンがさちょっと話聞いてって言うから聞いてたら、聞いたからにはお前も手伝えって、それひどくない?それヤクザがやるやつじゃね?

トクヤマ はは。大変だ。

タッツン ……

マッキ― そうだ。トクちゃんも手伝ってよ。

タッツン え、おい。

マッキ― トクちゃんもこの話聞いたんだからもう逃げらんないでしょ。

タッツン いいよ。気にしないで。

マッキ― 何でよ。俺は逃げらんないのにトクちゃんはいいの。

タッツン トクちゃん勉強とか忙しいだろ。

マッキ― だったら俺だって勉強すっぞ。

タッツン しねえよ。

マッキ― 何でタッツンが決めんだよ。

タッツン しねえわ。だってお前馬鹿だもん。

マッキ― 馬鹿じゃねえよ!ってかそれ言うんだったらタッツンだって馬鹿だろ。

タッツン うるせえよ!んなことどうでもいいんだよ。とにかくトクちゃんは無理だから…

トクヤマ いいよ。手伝うよ。

タッツン え。

マッキ― やった。ほら言ってみるもんじゃん。

トクヤマ 何する?

タッツン まだ考え中。

トクヤマ じゃあ今から決めようぜ。

タッツン え、今から?

マッキ― やった。トクちゃん味方になったら強えわ。

トクヤマ どこで決める?

マッキ― 言いだしっぺなんだからタッツンの家じゃない?

タッツン うち兄貴いるからなあ。

トクヤマ ケン兄?

タッツン うん。

トクヤマ 懐かしい。

マッキ― いつぶり?

トクヤマ いつだろ。最後は小学校ん時じゃねえかな。

マッキ― だいぶなるね。そんだけタッツンの家に行ってないって事だ。

トクヤマ そうだね。

タッツン 行こうか。

  去って行く一同。

  転換。

2 北池袋・橋本病院前(夜) (LATER)

  ハザードが点滅している。

ヤスオが電話している隣にカズがいる。

ヤスオ はい。はい。橋本病院前の、交差点の、そうです。そこで事故しちゃいまして。ええ、いえ、別に怪我人はいないんで、ただガードレールに突っ込んじゃったと言うか乗り上げちゃったと言うか、多少食い込んじゃって、ええ。なのでただの差し障りない物損と言うか、物損と言う程の物損事故でもないですから。ええ、はい。すいません。はい。お待ちしています。(電話を切る)

カズ ……

ヤスオ すぐ来るって。

カズ ……

ヤスオ お前さ、免許証持って来てるよな。じゃあ、後頼んでいい?

カズ え、いや、あの。

ヤスオ 何?

カズ ヤスオさんが運転してたから。

ヤスオ 俺酒入ってんの知ってんだろ。飲酒運転で事故って一発で面取りだよ。明日から仕事どうすんだよ。それに比べたらお前なら点数ちょっと引かれても行けんだろ。分かる?

カズ はい。あのでもそうなると俺が事故した事になってしまって……

ヤスオ だからそうだよ。

カズ 車の修理代とか。

ヤスオ だからお前は馬鹿だって言ってんの。社用車なんだから上手い事やったら保険とか降りんじゃねえの分かんねえけど。

カズ ……はい。

ヤスオ よし。

カズ でも。

ヤスオ 何だよ。お前「はい」って言っただろ。(すごむ)

カズ ……

  オオタケが事故車を確認しながら来る。

オオタケ 車、けっこう食い込んじゃってますね。

ヤスオ どうも。

オオタケ 見通しいい道路なんですけどね、何で乗り上げちゃったんですか。

ヤスオ あ、いや。

オオタケ 運転してたのは?

ヤスオ あ、こいつです。じゃあ、また明日。お疲れ。

カズ ……

オオタケ いいんですか。お連れの方は?

ヤスオ ええ、もう大丈夫なんで。

  ヤスオに向かって手を伸ばし念力で首でも折ろうかと言うような格好。

ヤスオ ん?

カズ ……(手を引っ込める)

ヤスオ それじゃ。

  ヤスオ去って行く。

オオタケ ……今のって?

カズ あ、いえ。別に深い意味は……

オオタケ (免許証見て)アイザワカズアキ……え、あ、マジか。どっかで見た事ある気がしたんだ。

カズ え?

オオタケ オオタケだよ。分かる?オオタケシュンヤ、東益平七丁目団地で、同じ学年だったほら!

カズ ……あ、ああ。

オオタケ いや、マジかあ。すげえ。え、高校振りとか?

カズ あ、うん。どうだろ。

オオタケ 働いてんの?仕事は?

カズ やってる。ビルとかの清掃してる。

オオタケ ああ、あの車。だから機械みたいの載ってんだ。お掃除マシーン。

カズ そう。あ、オオタケ君は?仕事何やってんの?

オオタケ え、俺、警察官。

カズ あ、そか。そかそか。

オオタケ じゃあ、現場検証しちゃおっか。

カズ あ、うん。

  オオタケの後を着いて行くカズ。

3 タッツン宅(NOW)

  歌い踊り終えたケン兄、マッキ―、タッツン、トクヤマ。

ケン兄 よし、じゃあ、この方向で。

マッキ― 何が。

ケン兄 だからさ。クリスマス会で何やるの。パフュームだろ。

タッツン 兄貴ちょっとややこしくなるから口出ししないでよ。

ケン兄 いいからパフュームやれよ。

マッキ― 何でパフュームなの?

ケン兄 最近、俺、パフュームはまってんの。

マッキ― 今!?

ケン兄 そう今。色々巡り巡って今そこよ。原点に戻った的なね。

タッツン 兄貴が何にはまってるとか関係ないじゃん。

ケン兄 (マッキ―に)パフュームで決まりな。お、DVD見せてやるよ。はまるから。

  部屋に戻って行くケン兄。

マッキ― ちょ。

タッツン あ、(マッキ―が連れて行かれるが)まいっか。

トクヤマ 懐かしいわあのノリ。

タッツン 学校違うと全然会わないもんね…トクちゃん最近どう?

トクヤマ どうって?

タッツン トクちゃんの学校って。やっぱ受験勉強とかもう始めてんでしょ。

トクヤマ まあ(してる)。うち親もうるさいから。

タッツン そっか。大変だ。

トクヤマ ……

タッツン ……

  ケン兄がその様子を見ている。

ケン兄 お前ら付き合ってんの?

タッツン 何でだよ。

ケン兄 何だよ。その空気は。久しぶりに会ったんだろ。もっと喋れよ。

タッツン 喋るって言っても……

ケン兄 聞きたい事聞きゃいいじゃん。トクヤマお前、童貞?

タッツン いきなりそれ!?

ケン兄 会話っつうのは自分が知りたい事をまず聞く。興味ない事聞いても続かないもんなんだよ。タツキ、お前、童貞?

タッツン え、あ、うん、そうだけど。

ケン兄 何だよ。童貞かよ。だせえな。

タッツン 兄貴はどうなんだよ。

ケン兄 俺はそういうんじゃないから。

タッツン 何それ。そういうんじゃないって。

ケン兄 お前は?

マッキ― え?あ……えと。

タッツン マッキ―も童貞だよ。

ケン兄 マジか。

マッキ― うん。

ケン兄 (マッキ―に)童貞だろ。(タッツンに)童貞で、 (トクヤマに)で、どうなの?

トクヤマ 童貞ではない。

タッツン マジ!え、嘘!?

トクヤマ うん、まあ彼女いるから。

タッツン そうなの?

ケン兄 おお!友情に亀裂!よし、じゃあパフュームの練習始めようか。

タッツン ええ?今?会話これからじゃん!?

ケン兄 うるせえよ!仕切ってんだから黙って聞けよ。

タッツン 兄貴が仕切るの?

ケン兄 いいだろ。マッキ―。

マッキ― うん。

ケン兄 ほらみろ。マッキ―は分かってんだよ。

タッツン いいんだけどさ。ってかやるならもう少し人数増やしたいかな。

マッキ― いいね。犠牲者増やそう。

ケン兄 犠牲者じゃねえだろ。

タッツン 人数多い方が楽しいだろうしな。

マッキ― 誰入れる?

タッツン んん~。

マッキ― あ、そうだ。タケちゃんは。

トクヤマ 部活忙しいだろ。

マッキ― タケちゃんとっくにサッカー部辞めてるよ。

トクヤマ そうなの。

タッツン レギュラーなれそうにないからって1年ん時に辞めてた。

トクヤマ そうなんだ。

マッキ― じゃあ、タケちゃん誘おう。

タッツン お、七団防衛隊(ななだんぼうえいたい)再結成だ。

ケン兄 七団防衛隊?何それ。

タッツン くだらない事だから。

ケン兄 いいから教えろよ。 (つねる)

タッツン !!(悶絶)。

マッキ― 子供の頃にそう言って遊んでたのよ。地球を侵略する奴から七丁目団地を守る五人組の集団。

ケン兄 あそう。くだらねえな。

タッツン だからくだらないって言ったじゃん。

トクヤマ あ!あいつは?七団防衛隊、もう1人いるじゃん。カズ!

タッツン カズな。

トクヤマ …ん?どうしたの。

タッツン カズ、あんま学校来てねえんだ。

マッキ― いわゆる不登校ってやつ。

タッツン だから俺らも全然会ってねえんだわ。

マッキ― ……

トクヤマ イジメ?

タッツン イジメはなかったと思う、多分。まあハブにはされてはたけど。

マッキ― ほら宇宙人の一件以来さ、ちょっとおかしな感じには見えるじゃん。それでまあ、中学校入っても友達は出来なかった感じで。中学校入ってから全然遊んでなかったし、そのまま高校もそんな感じで。

タッツン 俺も他の奴らと仲良くなってたからよく分かんないけどいつの間にか学校来なくなってた。

トクヤマ ……そか。

ケン兄 ……宇宙人の一件って何?

トクヤマ でもさ、だったらさ!だからこそ誘うべきなんじゃないかな。

マッキ― 僕もそう思う。何かせっかくだしさ。

タッツン そうだな。せっかくだしな。うん。そうしよう!カズも誘おう!

マッキ― やった!喜ぶと思うカズ。

ケン兄 宇宙人の一件って何?

マッキ― よし!じゃあ、僕、ちょっとタケんとことカズんとこに行って来る。

トクヤマ 1人で行ける?

マッキ― すぐだから!待ってて。

  出て行くマッキ―。

トクヤマ 頼むな!

タッツン いってら!ってかすげえ久しぶりだわカズもタケも。

トクヤマ タケもなの。

ケン兄 宇宙人の一件って何!?

タッツン 聞こえてるよ!聞こえてて無視してんだから察してよ!

ケン兄 そか。それは悪かった。ごめんな、とはならねえから!何だその言い方は兄貴だぞ!

  と言ってアームスリーパー。

  タッツンが苦しそうにしている。

  音楽が流れている。

  ×  ×  ×

  時間経過でオオタケが入って来る。

  ケン兄とタッツンの喧嘩をオオタケとトクヤマの2人で止める。

場が落ち着く。

オオタケ 何の喧嘩?

ケン兄 喧嘩じゃねえよ。

オオタケ そうなんすね。ケンさん久しぶりっす。

ケン兄 おう。ってか何で敬語なんだよ。

オオタケ いや、先輩っすから。

ケン兄 いいよ先輩とか。俺偉ぶるつもりねえから。いいよタメ語で。

オオタケ もう中学っすから。トクちゃんも久しぶり。

トクヤマ おう。

オオタケ 聞いたよ。パフュームやるんでしょ。トクちゃんやんの(笑)

トクヤマ ああ。

オオタケ マジで?超進学校行っててそんな暇あんの?

トクヤマ 気分転換にな。

オオタケ マジかあ。トクちゃん何やってんの超ウケるんだけど。

トクヤマ タケも来たって事はやるって事だろ。

オオタケ ああ、やるよ。

トクヤマ 暇なの?

オオタケ 無駄な事はしない主義だから。金稼ぐならテレビ出てなんぼだろ。

トクヤマ どういうこと?

オオタケ 芸能界行くならダンス出来た方がいいだろ。ちょうど習おうかなとか思ってたし。

タッツン タケ、芸能人になんの?

オオタケ まあな。親見てっとサラリーマンとかやってらんねえって思うし、テレビ出るのが一番楽だし金になんだろ。

タッツン すっげえ。タケちゃんと考えてんだな。

ケン兄 考えてねえだろ。

オオタケ まあ、俺は自分の可能性を試したいってだけだから。

タッツン すげえ。

ケン兄 じゃねえだろ宇宙人の話だろ。

タッツン だから大した話じゃないんだって。

ケン兄 だったら教えろよ。

タッツン ……

ケン兄 (再びアームロックか何か)

タッツン ちょ!ちょ!ちょ!

マッキ― カズが宇宙人に誘拐されたことがあるとかないとかそんな噂があったようなないような、そんな感じの話の話だよ。

タッツン あ、うん、そんな感じ。

ケン兄 何だ。その話。何でもったいぶってんだよ。

タッツン だって兄貴には関係ない話だろ。

ケン兄  (再びアームロックか何か)

タッツン ちょちょちょちょ、

  そこにマッキ―が帰って来る。

マッキ― ただいま。

トクヤマ おかえり、カズ、どうだった?

オオタケ ずっと学校来ずに家に籠ってんだろ。外に出すの無理じゃね?

マッキ― うん、まあ(浮かない表情)……

トクヤマ やっぱダメだったの。

マッキ― いや、そんなことはない。カズ、連れて来たよ。

ケン兄 (まだタッツンをアームロックしながらも)おお。

オオタケ マジか。すげえな。

タッツン ケン兄、ちょっともう離してよ。

ケン兄 うるせぇ。

トクヤマ じゃあ、いいじゃん。何だよその顔。

マッキ― あ、うん。

  ヤスオが入って来る。

ヤスオ おいっす。

一同 !!!

オオタケ ヤスオさん?どうしたんすか。

ヤスオ 久しぶり。お、ケンもいるじゃねえか。何でだよ。

ケン兄 ここに住んでるんで。

ヤスオ お前、相変わらずふしだらな体してんのな。(体を触る)

ケン兄 あ、ちょ、止めてくださいよ。どうしたんすか。

ヤスオ 下でこいつ(マッキ―)にばったり会ったんだよ。面白い事たくらんでるらしいじゃねえかよ。

ケン兄 いやたくらんでるとかじゃないですから。大したことじゃないんすよ。

ヤスオ 隠すなよ。先輩だぞ。(触る)

ケン兄 あ、ちょ、ホント勘弁してください!すいません。

ヤスオ 分かってんだよこっちは。マッキ―から全部聞いてんだから。

ケン兄 お前言ったの?

マッキ― あ、えと。

ヤスオ 言ったのじゃねえだろ。偉そうにすんなよ。(触る)

ケン兄 あ、もう、ちょ、ホントに止めてくださいって。

  ヤスオとケン兄がいちゃつくようにいじられてる。

いつの間にかカズが来ている。

カズ ……

タッツン (カズにやっと気付き)カズ!

カズ ……うん。

トクヤマ 久しぶり。分かる?

カズ 分かるよ。分かる。トクちゃん久しぶり。

タッツン マッキーから聞いた?

カズ だいたい。

タッツン じゃあ、やってくれるって事でいいの?

カズ え、あ、いや、どうだろう。とりあえず来ただけで。

マッキ― パフュームやろうよ。

カズ あ、うん。えと。

ヤスオ カズ。お前、学校行ってないんだってな。

トクヤマ あ、ちょ、ヤスオさん。

ヤスオ 将来どうすんだよ。ちゃんとしねえと仕事ねえぞ。って言っても俺も学校辞めたけどさ。

タッツン ヤスオさんも学校行ってなかったですよね。

ヤスオ おう、俺はいいんだよ。会社作って社長になるんだから。

タッツン そうなんすね。

ヤスオ カズさあ、社会は甘くねえんだから。

カズ ……

タッツン ヤスオさん。あの今からその、クリスマス会に向けての話し合いをするんで、ちょっといいっすか。

ヤスオ そうだな。

タッツン あ、じゃなくて……

  無言の間。

カズ 七団防衛隊再結成!!!

一同 (苦笑い)

タッツン (苦笑い)……七丁目団地のめんどくさい七人のうちの一人、ヤスオさんには上手い事言って帰ってもらった。連れて来てしまったマッキ―はみんなに責められ静かに泣いていた。

  音楽が流れる中、ダンス&転換。

4亀戸・駅前(昼)(LATER)

  ダンス中にタッツンはネクタイを締め舞台下段の空間に移動する。

  携帯電話で話をしているタッツン。

タッツン はい。申し訳ないです。すみません。本当に申し訳ないです。反省してます。しっかり自分を見つめ直す時間をいただいていいですか。また改めて連絡させていただきます。それでは失礼します。

  電話を切る。

タッツン (溜息を吐く)

  そこに急いで呼びに来るマッキ―(ラフな格好)。

マッキ― タッツン、大変!やばいよ!タッツンの台、スーパーリーチに発展した!!

タッツン マジ!?

  走ってパチンコ屋の店内に入って行く。

  台の前に座り、、、

タッツン ……んだよ!!!外れたじゃねえかよ!!!

  マッキ―も隣に座ってパチンコしてる。

マッキ― 仕事の電話だったんでしょ。

タッツン ああ、上司。ああ、ボケ上司の電話のせいだよリーチ外したの。

マッキ― 仕事中に仕事の電話来るの普通じゃない。

タッツン うるせえな。次の仕事に向かうための気持ちを高めてんの。

マッキ― タッツン、典型的なサボリーマンだね。

タッツン 無職のマッキ―に言われたくねえわ。

マッキ― 無職じゃなくて休職中だから。

タッツン ああ、そう。どうでもいいわ。

マッキ― ……会社に友達いないの?

タッツン いない。ってか東京にいない。

マッキ― タッツン、友達多かったのにね。

タッツン 地元ではな。ってか高校まではな……友達ってどうやって作るんだっけ。

マッキ― さあ、分かんない。

タッツン もっといい感じの大人になると思ってたわ。

マッキ― 何それ。やめてよ。まあ、でもあの頃は楽しかったよね。

タッツン だな……

マッキ― ……

タッツン 来た!熱いリーチ来た!

マッキ― 来た?

5 交番(LATER)

  事情聴取をしているオオタケとカズ。

オオタケ そっか、そっか働いてんのか……座って。

カズ あ、うん。

  座る。

オオタケ カズも東京、住んでるの?

カズ いや、七団。

オオタケ え、七団住んでんの?埼玉から出勤?遠くない?

カズ まあでも車の中で寝る事多いかな。

オオタケ あそう。大変だね。じゃ、ここ書いて。

カズ あ、えと。見逃してくれたりは?

オオタケ 出来ないんだわ。

カズ ……

オオタケ さっきのあれ、手でこう、あれでしょ。宇宙人の。

カズ そう。

オオタケ 頑張ってんね。

カズ 見逃してもらえないかな。

オオタケ ごめん。それは出来ないんだけどさ。お茶出すよ。

カズ あ、うん。ありがと。

  オオタケ、奥に引っ込み、

オオタケ いや、でも変わらないね。何かあの超能力だっけ?念力だっけ?あれ見た時にさ、何か懐かしい気持ちになったもん。

  しれっとカズは去って行く。

オオタケ 思い出しちゃった。七団防衛隊。みんなどうしてんだろう?会ってる?俺、全然連絡取ってないからさあ。

  オオタケが手にお茶を持って戻って来るとカズがいない。

オオタケ ……

  仕方なくお茶を飲む。

6公園(PAST)

チャンバラの音が流れる。

黄色い帽子を被り、ランドセルを背負い、(あるいは園児服を着て)縦笛を持ったトクヤマ、タッツン、マッキ―、オオタケがいる。

  「とりゃ」とか「ぱきゅん」とか言いながらチャンバラをしている。

トクヤマ タイム!タイム!

オオタケ 何トクちゃん。

トクヤマ おかしいだろ。

タッツン 何、どうしたの。

トクヤマ 俺たちは何だって話だよ。

マッキ― あ、あれやろう。俺たちはってやつ。

タッツン 俺たちは!

マッキー/トクヤマ/オオタケ/タッツン 七団防衛隊!

マッキ― おほ。やっぱかっけえ。

トクヤマ うん。そうなんだよ。だから団地とか地球とかを守ってんだよ。

タッツン うん。

マッキ― 俺たちは!

マッキー/トクヤマ/オオタケ/タッツン 七団防衛隊!

トクヤマ だから戦うのは宇宙人とかと戦わなきゃいけない。

マッキ― 俺たちは!

マッキー/トクヤマ/オオタケ/タッツン 七団防衛隊!

トクヤマ それなのにさっきから俺ら同士で殺し合ってんじゃん。

マッキ― 俺たちは!

タッツン マッキ―、ちょっと今は話聞こう。

マッキ― ごめん。

トクヤマ だからおかしいだろって事。

オオタケ すげえ。やっぱトクちゃん賢い。その通りかもしんない。

タッツン でもさ、いつか宇宙人と戦うための修行として俺ら同士で戦ってレベル上げてるって事じゃん。

オオタケ すげえ。タッツン、すげえ。その通りだわ。

トクヤマ (ムッ)でもさ。

マッキ― やっぱ、トクちゃんとタッツンの2人がいるとすげえわ。

オオタケ そうだね。すげえわ。七団防衛隊最強だわ。

トクヤマ ……そうだ。帰りカズん家寄ってかね?今日も休んでたし。

オオタケ そうだね。あいつ最近休みすぎだわ。七団防衛隊の自覚が足りねえ。

マッキ― あ、あのさ。

タッツン よし、カズん家までダッシュな!

トクヤマ よーい。ドン!

  走って行くトクヤマ、オオタケ、タッツン。

マッキ― ……

オオタケ 一番!

トクヤマ 二番!

タッツン 三番!ってかずるいだろ。よーいドン言うやつが一番早いに決まってるし。

トクヤマ ぴんぽんぴんぽんぴんぽん(と連打)

マッキ―が遅れて到着。

オオタケ マッキ―四番な。

マッキ― あ、うん。あのさ。

  中からカズがコップを持って出て来る。

カズ ……どうしたの。

タッツン カズ風邪?

カズ いいや。

トクヤマ 何で学校来なかったの。

カズ うん。休んだ方がいいかなって思って。

タッツン 何でだよ。

カズ この前宇宙人に誘拐されたって言ったじゃん。

タッツン カズ、それさあ。

トクヤマ (タッツンを遮るように)待てよ。それで。

カズ そん時、パワーをもらったはずなんだよね。改造手術みたいのされたから。だからそのパワーをちゃんと使えるように練習してたんだ。

トクヤマ どう言う練習やってんの。

カズ これ持ってて。

  コップを渡されるマッキ―。

カズ (念力を送り)離していいよ。

  普通にコップが落ちる。(何なら壊れる)

オオタケ どうしたかったの?

カズ 浮くはずなんだけど、ちょっと調子が悪いかも。

タッツン いい加減にしろよ。カズそんな事言ってるからさ最近女子に気持ち悪いって言われんだぜ……

トクヤマ やめろよ!俺はカズを信じてるから!カズは七団防衛隊で初めて宇宙人と初めて戦った奴なんだぜ。

カズ 何も出来なかったけどね。連れ去られて、一方的にやられただけだから。

トクヤマ おう!だからさ俺らで仇取ろうぜ!今から一緒に修行しようぜ。

カズ 今日はやめとく。一人でパワー使い過ぎて疲れちゃったから。

トクヤマ そか。明日は学校来るんだろ。

カズ うん。多分。

トクヤマ じゃあまた明日。

  カズ、去って行く。

オオタケ トクちゃん宇宙人の話信じてんの?

トクヤマ え?だって七団防衛隊は宇宙人と戦うチームでしょ。

オオタケ そうだけどさ、トクちゃん頭いいのに。

トクヤマ カズが宇宙人にさらわれたって言うんだったらそうなんじゃねえの?

タッツン 嘘ついてるに決まってんじゃん。

トクヤマ 何で?

タッツン 注目して欲しいからだろ。

トクヤマ そういう言い方やめろよ。

タッツン 何だよ。リーダーぶんなよ。

  掴みあう二人。

マッキ― ちょっとやめなよ。

  ふとタッツンがトクヤマの服がめくれた腕を見て。

タッツン これどうしたの?……

トクヤマ 何でもない。

オオタケ どうしたの。

タッツン 何か変な痕が

  タッツンの口をふさぎ

トクヤマ 何でもない。何でもないだろ。

タッツン トクちゃん苦しい。

トクヤマ 2人だけの秘密な。

タッツン 分かった分かったから苦しい。

オオタケ ってかさ、本当の事教えてやろうか。

マッキ― 何本当の事って。

オオタケ カズが宇宙人に誘拐されたって言うようになったのって二カ月くらい前じゃん。その頃、団地にパトカーがけっこう来てた事あったでしょ。

タッツン そうだっけ。

マッキ― あったかも。

オオタケ 誘拐事件があったんだよ。ホントにカズが誘拐されたの。

タッツン あ、兄貴も言ってた。誘拐って言うかイタズラされたって。

オオタケ そう!

トクヤマ 嘘だろ。カズ、そんな事言ってなかったぜ。

タッツン だから。その記憶を消されてんだよ。催眠術でさ、誘拐されてイタズラされたりしたからその記憶をなかった事にするんだってアメリカとかだと普通にあるらしいよ。

マッキ― あ、テレビで見た。催眠術が浅いせいで宇宙人だと思っちゃうんでしょ!

タッツン って事はカズ、やっぱりイタズラされたのか。

トクヤマ やめろよ!そういうの!

マッキ― ごめんトクちゃん。

  そこにトクヤマの母が現れる。

トクヤマの母 こうちゃん、何してるの?

トクヤマ 遊んでた。

トクヤマの母 勉強は?

トクヤマ ……ごめんなさい……(みんなに)帰るね。

  一同が見送る。

オオタケ トクちゃんのママって美人だよな。

マッキ― そうだね。

タッツン そうか。ってか何だよトクちゃん偉そうに言って、母ちゃん来たらいい子になんだもん。ずりいわ。

マッキ― 俺たちは!

タッツン 七団ぼうえい、って何のタイミングだよ。

マッキ― へへ。

  音楽が入る。

  転換。

  そのままダンス。

7公園(NOW)

  練習を止めトクヤマが何かを見ている。

タッツン どうしたの?

トクヤマ あれ。

  サングラスにガムを噛みながら様子を見ている女(サナエ)がいる。

トクヤマ サナエさんだ。

タッツン サナエさん。

ケン兄 おお、エルボーサナエの。

タッツン 城崎早苗は僕らの二個上の先輩でジャンピングエルボーでそこらへんの男の子を根こそぎ泣かせていた。それこそ小学校の頃、俺は毎日のようにエルボーサナエのエルボーに泣かされていた。

  サナエ無双の記憶が蘇る。

タッツン ……暗黒の記憶だ。

サナエ ……

マッキ― ……

タッツン 何で見てんだろ。

ケン兄 目、合わせんな。

トクヤマ あれ、タッツン見てんじゃねえの。

タッツン え、何で?

トクヤマ サナエさん、タッツンの事好きだったろ。

タッツン え、何それ!?何でだよ!?俺、多分、この中で一番エルボー喰らってっぞ。ほぼ毎日。マッキ―といても俺ばっか狙うんだぞ。なあ!

マッキ― うん、僕は全然エルボーなかった。タッツンばっか泣かされてたね。

トクヤマ だからそれ好きだからだろ。

タッツン え!?

トクヤマ 好きな人ほどイジメるじゃん。

タッツン ……ふざけんなよ。

ケン兄 意識してんじゃねえの。

タッツン 何でだよ。サナエとか絶対ないから。

ケン兄 脱童貞のチャンスだろ。

タッツン 俺だって捧げる人選ぶから!嫌だわあんな女。

  サナエが見ている。

タッツン ……

サナエを意識するタッツン。

タッツン (サナエに)い、言っとくけどもう怖くねえぞ!な、マッキ―。

マッキ― ああ。

タッツン お前なんか相手してらんねんだわ!行こうぜ。

マッキ― うん。

サナエ おい。

  タッツン、サナエがジャンピングエルボーをかます。

  そのままノックアウトするタッツン。

マッキ― タッツン!

8公園(NOW)

  辺りは暗くなっている。

タッツンが起き上がる。

マッキ― 目覚めた。

トクヤマ だから言っただろ病院行くほどの事じゃないって。

マッキ― さすがトクちゃん。

タッツン えと。

マッキ― 2時間気を失ってたんだよ。たまに呼吸が止まったりしたよ。

タッツン 病院連れてってよ。

マッキ― そうだね。話し込んでた。

トクヤマ じゃあ帰るわ。

マッキ― ごめんね付き合ってくれて。トクちゃん、待っててくれたんだよ。

タッツン だから病院さあ。

トクヤマ うんじゃ。

タッツン じゃあな。

  帰って行くトクヤマ。

タッツン はあ、今日は厄日だわ。この団地でからんじゃダメなやつが7人いる。そのうちの2人はヤスオさんとエルボーサナエだ。

マッキ― サナエさんはヤスオさんほどひどくないよ。

タッツン 何で肩持つんだよ。いきなりエルボーだぞ!何だったらヤスオさんより性質が悪い!

マッキ― まあ、そうだけどさ。でもいいとこもあるんだよ。

タッツン どこ?

マッキー さあ。

タッツン 何だよそれ。

9トクヤマの家(NOW)

トクヤマ ただいま。

薄暗い部屋に母がいる。

母 遅かったわね。

トクヤマ あ、うん。

母 最近遅いけど、こうちゃん勉強ちゃんとやってるの?

トクヤマ やってるよ。

母 ママが見ててあげるから勉強始めなさい。

トクヤマ ここで?

母 分かってるの!

トクヤマ 分かってるよ。

母 分かってない!分かってないからそんな態度なのよ!あなたもパパも私の事馬鹿にしてるのよ!

トクヤマ そんなことないよ。

母 じゃあ何であなたはママの言う事聞かないの!パパも仕事だって言って帰って来ない!嘘ついてるの分かってるんだから!

  とトクヤマを叩きながら母は暴れる。

母 本当の事言いなさいよ!隠し通せると思わないで!

  トクヤマ、母をなだめるようとする。

トクヤマ 大丈夫。大丈夫だから。

母 私ばっかり!私ばっかり!

トクヤマ 母さん。大丈夫、大丈夫だから。

  暴れる母親を抱きしめ、なだめるトクヤマ。

10団地前(翌日)(NOW)

  トクヤマがいる。

  タッツンが帰って来る。

タッツン あれトクちゃん早いね。学校終わったの。

トクヤマ あ、うん。

タッツン 今日、練習ないって言ってたのにやる気になっちゃった系?まあもうすぐだもんね。

トクヤマ あ、いや、その事なんだけどさ。

タッツン じゃあ、とりあえずマッキ―ん家に行こうよ。あいつも練習させてさ。

トクヤマ いや、やっぱり参加出来ないかも知れない。

タッツン ん?何で?

トクヤマ 何ていうか。母さんが。

タッツン おばさんが?

マッキ―の母親と出くわす。

タッツン あ、おばさん。

マッキ―の母 あら、タツキ君、こんにちは。あ、トクヤマ君?久しぶりね。

タッツン マッキ―のお母さん。

トクヤマ あ、ああ、お久しぶりです。

タッツン 今、ちょうど行こうと思って。

マッキ―の母 うちの子、まだ帰ってないのよ。私、今日、町内会の会合で遅くなるからこれ鍵。入っといて。

  去って行くマッキ―の母。

トクヤマ 鍵。すげえ。

タッツン 信頼関係。

11マッキ―の家(NOW)

  家に入って来るタッツンとトクヤマ。

トクヤマ マッキ―の家、久しぶりだわ。

タッツン 勝手に冷蔵庫開けて麦茶飲もうぜ。

トクヤマ 信頼関係いいのかよ。

タッツン いいんだって。あ、ってかさ押入れに隠れてマッキ―驚かそうぜ。小学校の頃よくやったろ。

トクヤマ ええ?小学生じゃないんだから。

タッツン 絶対、面白いって。

トクヤマ タッツン、変わらないね。

タッツン 何だよ。馬鹿にしてんのかよ。

トクヤマ いや。

タッツン あ、さっきの話なんだっけ。トクちゃんのお母さんの話。

  物音がする。

タッツン 帰って来た!早く!

  押入れの中に入る2人。

マッキ― 早く。大丈夫だから、こっち。母さん、今日は帰り遅いって言ってたから。

  後ろから付いて来るのはサナエ。

  押し入れの中で声が出そうになるタッツンを必死に止めるトクヤマ。

サナエは不機嫌そうに部屋に入って来る。

マッキ― どうしたの。

サナエ 何なの?この前のあれ。

マッキ― みんなの前だと恥ずかしいから。

サナエ 私って恥ずかしい?

マッキ― 違う。そうじゃない。まだみんなに言えてないから。別に隠してるとかじゃないんだけど。

  すねているサナエ。

マッキ― ……エッチする?

サナエ 何でそうなんのよ。

マッキ― いや、エッチした方がいいかなと思って。

サナエ ……ムカつく。した方がいいって何?マッキ―がしたいかしたくないかじゃないの?

マッキ― あ、うん。そうだね。したい。

サナエ マッキ―がしたいんでしょ。

マッキ― うん。

サナエ じゃあいいよ。はい……(おっぱいを揉ませてあげようとする)

マッキ― ……(おっぱいを揉もうとして)……いや、まあそんなにしたくもないし、いっか。

サナエ はあ!ふざけんなよ!何だよそれ!

マッキ― ……(じっと見つめる)

サナエ ……(女の顔になり)何で意地悪するの。

マッキ― 意地悪しないでくださいは?

サナエ ……意地悪しないでください。

マッキ― おっぱい揉んでくださいは?

サナエ おっぱい揉んでください。

マッキ― うん、じゃあ……(おっぱいを揉み始める)

  押し入の中で興奮のあまり物音を立ててしまう。

タッツン !!

マッキ― 今、何か音しなかった?

サナエ 集中してよ。。

マッキ― わがまま。

サナエ ごめんなさい。

マッキ― いいよ。

  電気が消え、音楽が流れる。

  2人がおっぱじめる中、

トクヤマ 隣でタッツンが混乱していた。おそらく何に混乱しているのかも分からなくなるくらい混乱していると思ったので代わりに混乱を整理してあげる事にした。ひとつ自分も童貞だと言っていたマッキ―がこなれた感じでセックスを始めた事。そしてその相手が自分の事を好きだと思っていたエルボーサナエだった事。そんな二人のセックスを息を殺して見守っている状況に興奮している自分と、もう色々あって、どうしていいか分からなかったのだろう、タッツンはずっと俺の手を両手で握っていた。

タッツン ……

トクヤマ 俺も決して冷静だった訳じゃないけど、タッツンと二人、息を殺して隠れてるこの状況が昔を思い出して何だか楽しかった……事が終わり、2人がシャワーを浴びにお風呂に行く……タッツン。

タッツン え?

トクヤマ 今しかない。

  2人は全速力で部屋を出て行く。

トクヤマ タッツンは相変わらず俺の手を握っていた。とりあえず隠していた靴を出し、靴を手に持ったまま屋上へと駆け上がった。

12屋上(NOW)

  屋上にあがり息を切らす二人。

トクヤマ ……タッツン、手、もういいかな。

タッツン え、あ、ああ。

トクヤマ タッツンももしかしてそっちの人?

タッツン ん?いや、違うよ。「も」って何?

トクヤマ いや……驚いたね。

タッツン 驚いた。誰かに言いたい。

トクヤマ 誰に言うの?

タッツン こういう時はまずマッキーに言ってたからな。

トクヤマ それはよした方がいいな。

タッツン そうだよな。ま、秘密かな。

トクヤマ ああ。2人だけの秘密にしとこう。

タッツン ……懐かしい。ほら何かトクちゃん小さい頃、痣見つけたら隠してさ、秘密にしてって。

トクヤマ そうだっけ。

タッツン あれさ、後から考えたらやっぱり痣だったんだよね。トクちゃんってさ、虐待されてたの?

トクヤマ タッツンって聞きにくい事ずばずば聞くね。

タッツン そうなのの?

トクヤマ 愛だから。愛されてるだけだから。

タッツン ……

トクヤマ 帰るわ。

タッツン 来週のクリスマス会!やってやろうね!

トクヤマ ……うん

  去って行くトクヤマ。

タッツン 結局、僕たちはみんなで仲良くクリスマス会を迎えられる事はなかったのだけど……

13パチンコ屋・外(LATER)

  パチンコ屋の景品を抱えているタッツン。

タッツン やっべ、大漁だわ。焼肉でも風俗でも何でも奢っちゃうよ!何する?

  マッキ―が携帯の不在着信を眺めている。

マッキ― あ、うん。あ、まあいいか。

タッツン 掛けなよ。

マッキ― いいよ。サナエだし。

タッツン いいから掛けなよ。

マッキ― うん。じゃあ、ちょっと待ってて。

  電話を掛けるマッキ―。

タッツン マッキ―とエルボーサナエは高校卒業して別れて復縁して別れて復縁してを二度繰り返した後に今は腐れ縁で仲良くやっている。

  電話を切り終えるマッキ―。

マッキ― ……

タッツン またにしよっか。

マッキ― いいよ。

タッツン どうせすぐ会えるだろ。

マッキ― そうだね。じゃ。

タッツン あのさ……

マッキ― 何?

タッツン いや、何でもない。

マッキ― あそ。じゃまた。

  去って行くマッキ―。

タッツン マッキ―とエルボーサナエのセックスを覗き見てしまった事は未だに言っていない。僕とトクちゃんだけの秘密だ。そしてトクちゃんが虐待されてたのは僕だけの秘密だったけど誰もが知っている。僕が言いふらした訳じゃないけれど……クリスマス会まであと3日と迫ったあの日……

14公園(NOW)

  高校時代に戻る。

  タッツンがダンスの練習をしている。

  ヤスオがいる。

タッツン ヤスオさん。

  帰ろうとするタッツン。

  唐突に夢の話をふるヤスオ。

  タッツンが夢を語る。

  マッキ―とトクヤマの夢を笑うタッツン。

ヤスオ 何で笑ってんの。

タッツン あ、いや……

  サイレンが鳴る。

ヤスオ お、救急車?

タッツン 消防車だろ。

ヤスオ 近いな。

  窓を開けて眺める。

ヤスオ ここだわ。おーおー煙出てる。え、あれ7号棟じゃね!?7号棟って誰住んでたっけ?

タッツン トクちゃん……

  群衆が出て来る。

ニュース1 続いてのニュースです。夫の不倫に激昂した妻の犯行でした。トクヤマサダコは夫ケイスケと自身にもガソリンを掛け無理心中を図った模様で……

ニュース2 通報したのは高校二年生になる息子で息子が帰宅した際に2人は……

ニュース3 母親のサダコ氏は教育ママと知られておりましたが過度な虐待行為があった事も判明……

ニュース1 現在も意識不明の重体です。ここで同じ団地に住む住人の声を聞いてみましょう。

住人1 ノイローゼ?やっぱり。挨拶しても返してくれなかったもん。

住人2 迷惑な話ですよ。もう水浸しで。死にたいなら勝手によそでやってくれって…

ニュース1 以上、街の声でした。どう思いますか?

ミウラ そうですね。これはつまり現代社会が抱える闇を浮き彫りにしていますね……

  ミウラと呼ばれたコメンテーターが適当に語っている。

  続々と公園に集まって来る一同。

15公園(NOW)

  オオタケ、カズ、タッツン、マッキ―がいる。

マッキ― トクちゃん連絡ついた?

タッツン いや……

オオタケ うちの親が言ってたけど九州の方に転校するらしいよ。親戚の家に預かってもらうことになったって。

タッツン いつ?

オオタケ もう行ってんじゃないかな。

カズ クリスマス会は?

オオタケ 来る訳ないだろ。どの面提げて来るんだよ。

マッキ― ってか、クリスマス会中止らしいよ。うちの親が言ってた。

タッツン うちの親はそんな事言ってなかったぞ!ってか何だよ親って!

オオタケ 何だよそれ。

カズ、一人で変な手遊びしている。

マッキ― カズ、だからもう練習してもさ……ってかそれ何?どこのフリ?

カズ  超能力。

マッキ― カズ。

オオタケ カズ……そんなのねえから。

カズ ある。

オオタケ ねえから。

タッツン おい。

オオタケ ……よし、じゃあ、もう解散かな。何かむなしいけど仕方ないよな。トクちゃんのせいにも出来ないし。ってか今後のトクちゃんの人生考えると泣けて来るしな。エリートからの転落って、もう俺なら無理だわ。

  突然、タッツンがオオタケに殴り掛かる。

マッキ― タッツン!

  オオタケ、予想してたのか応戦する。

  揉み合う2人を引き離すカズとマッキ―。

  カズは超能力(念力)で仲裁しようとしている。。

  息を切らし睨み合うオオタケとタッツン。

オオタケ だから当たんなよ!そうやって手当たり次第噛み付いて何がしたいんだよ!

タッツン お前みたいな器用に立ち回ってる奴には俺の気持ちもトクちゃんの気持ちも分かんねえよ!

オオタケ 何でお前が出てくんだよ!何で俺が悪者なんだよ!意味わかんねえ!何なんだよ!……(息を吐き、落ち着いてるように見せ)解散。解散!高校卒業したら俺こんな団地出っから。もう二度と会う事ないだろうし、会っても話し掛けなくていいから!……

  去って行くオオタケ。

カズ 待って!待ってよ!

  去って行くオオタケを超能力を使って連れ戻そうとするカズ。

マッキ― カズ……俺らもう高校生だから。

カズ 高校生だから何?

マッキ― ……

カズ ……俺、パワー、練習してから。帰るから。じゃあ。

  カズが去って行く。

マッキ― 解散……かな。

ふとタッツンが上に何か見えたようで、突然走り出すタッツン。 

マッキ― タッツン!

16屋上(NOW)

  トクヤマが立っている。

  そこにタッツンが現れる。

タッツン トクちゃん……

トクヤマ 止めんなよ。

タッツン 止めるよ。

トクヤマ 止めるなよ!

タッツン 止めるよ!

トクヤマ 母さんは俺を置いて死のうとした。今まで、今まで……でも何の意味もなかった!

タッツン だからって死ななくてもいいだろ!

トクヤマ じゃあ教えてよ。頑張って頑張って……何にも報われないのに……何で生きてなきゃいけないんだよ!

タッツン 死んでほしくないから!

トクヤマ ……ンだよそれ……答えになってないだろ―

タッツン いいことある!これからいいこといっぱいある!伝説の教師になるんだろ!マッキ―だって野球部じゃないけど野球選手になってるからも知れないじゃん!俺だってすっげえ大人になってから!だから!一緒の未来に行こう!

トクヤマ ……

  差し伸べた手を見つめるトクヤマ。

  2人の間。

  その手を繋ごうとしたのか、突き放そうとしたのか、その瞬間に突風が吹きバランスを崩す。

  そして屋上から落ちるトクヤマ。

  音楽が流れる。

タッツン 確かにトクちゃんは落ちたんだ。東益平七丁目団地、七号棟の屋上から、僕もマッキ―もトクちゃんも誰も死んでほしくないと思って。こんなに短い人生に幕を降ろして欲しくないと思って。誰でもいいから助けてって強く願った。神様でも仏様でも宇宙人でもいいから。

  超能力の練習をしていたカズが地上で落ちて来るトクヤマを見つけハッとして手をかざし超能力を発動させよとする。

  一瞬の閃光と包み込むような大きな音。

  トクヤマはゆっくりと地上に降り立つ。

トクヤマ ……

タッツン 何が起きたかは今でも分からない。ただ分かっているのは東益平七丁目団地、七号棟の屋上から落ちたトクちゃんは何故だか無傷だったと言う事。そしてその二日後、トクちゃんは九州の親戚の家に旅立った……

  暗転。

17ケン兄の家(LATER)

18営業所(LATER)

19走るカズ(LATER)

20葬式(LATER)

  

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?