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小説 「えひめの思い出ピール」(プレゼン小説)

小説「えひめの思い出ピール」

なぜ愛媛なのか、最初はよくわからなかった。

「おんなひとり旅 温泉地ランキング」で四年連続一位。

道後オンセナートが流行ってる。

みどりのいうアピールポイントも、あんまりピンとこなくって。

「函館ガラス館にしない? シュンくんとペアのコップを作りなよ。愛媛なんて、みかんしかないじゃない」

私たちの趣味はハンドメイド。

京都のあめ細工とか、萩のてびねりのお皿とか。

体験型旅行が大好きな、私達のシェアハウスには、いびつな芸術作品があっちこっちに転がっていて__。
結婚を来月に控えているみどりは、新居に全部もっていくと言って、彼氏のシュンくんを困らせている。

「ふふっ。その、みかんなんだけど」

みどりの差し出したパンフレットには、オレンジ色のものがたくさん並んでいて……。

「え? これ全部みかんの皮で作ってるの!?」
「そう。ブックカバーも、名刺入れも、アクセサリーも、みかんの皮でできてるの!」
「まじで!」

翌日私たちは、愛媛行きのジェットスターに飛び乗っていた。

みかんの匂いが漂う工房で、私は一番人気の ピアスを作ることにした 。
みかんの皮をたくさん重ねてプレスして、好きな形にくり抜いて、パーツをつける。

そうすると。驚き。
みかんの皮が、まるで宝石みたいにキラキラと輝くのだ。

名付けて愛媛のジュエルピール。
これ、絶対にインスタ映えする。

みどりは何やら、 カッターナイフで皮を 細長く切っていた。
カタログには、 そんなの載ってない。

「 何作ってんの?」

「秘密」

みどりは 笑って、せっせと 作業を続けている 。

カタログにないもの、しかもこんなに地味で、手間がかかりそうなものにトライするなんて、いかにもクリエイティブなみどりらしい。

並んで手を動かしていると、2人で暮らした7年間が頭の中に浮かび上がった。

男に振られてた時、仕事で失敗して落ち込んでた時、いつもみどりがそばにいた。

2人で料理を作ってお酒を飲んで。
当たり前だった毎日が、あと1ヶ月で終わってしまう。

無言のままピアスができた。
私からの結婚プレゼント。

素朴で優しくて可愛くて、まるでみかんみたいな女の子。

ジュエルピールは、そんなあなたにピッタリだ。

言いたいことはたくさんあるのに……。
鼻の奥がつんとして、なかなか隣が見られない。

「これあげる」

目の前に、オレンジ色の輪っかが差し出された。

「なにこれ」

驚いている私に、みどりはニコニコしながらこう言った。

「願いが叶う、みかんのミサンガ。名付けて『ミカンガ』。なんだかダジャレみたいだね」

ミカンガが私の手首につけられる。

「みかんの花ことばはね、純白、純潔、なの。あなたにぴったりだと思わない?」
「みどり__」

私にサプライズを仕掛けるため、みどりはミカンガ抜きのカタログを自作していた。
どこまでもクリエイティブな女の子。
サプライズは大成功。

オフィスでキーボードを叩く私の手首には、今日も友にもらったミカンガがある。

素敵な思い出をくれた愛媛。
今では大好きな街になった。
思い出ピールのある街に、今度は1人で会いに行こう。

「スタートアップウィークエンド愛媛vol.6」プレゼン用小説

イラスト タカイチさま
製品アイデア アドバイス 「えひめ思い出ピールグループ」メンバー
ミカンガネーミング「スタートアップウィークエンド愛媛vol.6」参加の某様

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