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濡れている人に傘を差し出す

小説とは、部屋の隅っこで膝を抱えている人に、そっと差し出す花のようなもの…….
あるいは雨に濡れて途方に暮れている人に、さしかける傘のようなもの……。

やっぱりそうなんだなあ、と思えるアニメに出会いました。

「恋は雨上がりのように」。

ヒロインは17歳女子高生橘あきら。

彼女が恋するのは、45歳の冴えないオヤジ、近藤正己です。

近藤は小説が好きです。
小説を読み、書く人なのです。

45歳のおじさんが17歳の乙女に告白される。
めちゃくちゃテンションの上がるシチュエーションのはずですが、近藤は終始落ち着いています。
どぎまぎする描写もあるのですが、さほどでもない、と私は感じました。

突然降ってきた恋にただ翻弄されるのではなく、彼はあきらが真に求めているもの……。

前を向いて歩いていくための「言葉」を与え続けます。

あきらは近藤に恋すると同時に、メンターとしての役割を期待しています。
近藤はそれが分かっているので、要所要所で適切な態度、そして言葉を投げかけることがことができるのです。

ほろ苦い話ですが、近藤にはちょっと先の未来が見えているのだと思います。

あきらの心のブレーキが外れると同時に、恋は幻のように消えてしまうかもしれない。
雨が上がるまでの恋なのだと……。

それでも一歩踏み出せば、楽しいこと、素敵なこと、想像していたことと逆な未来が手に入るのかもしれません。

でも近藤はその道を選ばず、あきらからの思いを、目を背けていた夢へと向かう原動力にしました。

全ての報われない恋にも意味がある。
心からそう思います。
恋愛はどんな結果に終わっても、確実に人を成長させる。

ある日突然降ってきた、女子高生との淡い恋は、近藤にとって決して無駄ではありませんでした。

近藤は飲食店の店長を務めるかたわら、毎日原稿用紙に向かっていますが、まだ作家としての芽は出ていません。

でも私はこう思うんです。

彼はたくさん本を読んでいたから、元気になれる言葉をたくさん知っていて、いつも誰かの力になりたいと思っていたから、雨に濡れている人に向かってさっと傘を差し出すことができた。

準備ができていたからこそ、最高のパフォーマンスを見せることができたのです。

全ての小説は誰かに向けて差し出された手のようなものだと思っている私にとって、
あきらという傷ついた少女に、雨を避ける大きな傘を差し出すことのできた近藤は、紛れもない作家です。

このアニメには原作があり、少し内容が違うようです。

ですが、二人とも止まっていた時を進ませることができた、アニメの終わり方は素敵だなと思いました。

一冊の小説で、誰かの作る物語で、
誰かの言葉が、

誰かの雨をはらう傘になるかもしれない。

近藤は最初から最後まであきらに対し、作家として振舞っていた。

そこがとても素敵だなと思いました。

追記

今週のコンテンツ会議に取り上げていただきました。
https://note.mu/info/n/n7e38da735431

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