技能・領域の「統合的な指導」を考える②

前回の投稿から、英語教育における技能・領域の統合的な指導について考えています。

私の主観的な理解かもしれませんが、なぜ複数技能を統合的に扱うのかについて、それが自然な言語使用だから、といった説明くらいしか聞いたことがありません。技能統合の理論的背景や体系的な枠組みは、まだ一般的には共有されていない感があります。そこで、私なりに調べたり考えてみたことを整理してみようと思います。

Why Integration?

まずは前回の投稿で少し触れた、SLA/TESOL系の教員養成における「一般的」な書籍の一つである Teaching by Principle (Brown, H. D.) での記述を見てみます。

Brown, H. D. (2001). Teaching by Principles: An Interactive Approach to Language Pedagogy (2nd ed.)

Brownは技能統合を支持する考え方として7項目挙げていますが(p. 234)、それらを簡単にまとめるなら、

  • やり取り(interaction)とは発信と受信の両方を意味する。

  • ひとつの技能が別の技能を強化する。(例:話し方を学ぶには、聞いたことをモデルにするのが有効)

  • 統合的に扱うことで実世界とのつながりを意識させ、内発的動機付けにつながる。

  • 自然な言語使用では技能の統合はもちろんのこと、言葉と思考の結びつきが求められる。

といったところになります。

最後の一点がいわゆる「技能統合が自然であり当たり前」の考えに合致すると思われますが、それ以外に実世界とのつながり感から来る内発的動機付けへの言及は興味深く感じます。

技能統合により「負荷」をかける

偶然手に取った以下の書籍には、技能統合の理論的背景としてこのような記述がありました。

全国英語教育学会 (2014).英語教育学の今 : 理論と実践の統合 : 全国英語教育学会第40回研究大会記念特別誌

(なお、こちらの記念特別誌は有り難いことにWeb上で全文が公開されています。)

なぜ複数技能を使う活動が言語学習に効果的なのかというと、. . . 1つの技能から別の技能に移るには、言語を短期的に記憶に保持しなければならず、それが、言語への気づき(noticing)や言語の取り込み(インテイク、intake)を促すからであると考えられている。

英語教育学の今 : 理論と実践の統合 : 全国英語教育学会第40回研究大会記念特別誌, p. 318

自然な言語使用をモデルとした説明とは異なり、第二言語習得理論を背景とした複数技能を横断する際に必要となる言語材料の短期記憶保持をベースとした説明は、新たな気付きを与えてくれます。言い換えるなら、技能を横断して言語を扱うことで、学習者に負荷がかかり、より高次な処理と内在化につながるといったところでしょうか。

英語教育学の今 : 理論と実践の統合, p. 318
英語教育学の今 : 理論と実践の統合, p. 319

ここで述べられている「学習者に負荷をかけてインテイクを誘発する」という考えは、どちらかというとaudiolingual method寄りの発想のように思います。技能統合した活動は、学習者が言語材料を取り込んで内在化するために効果があると言えるでしょう。

そのための活動としては、上の図に示されているようなdictationやdictoglossに加え、各種の音読(音読はreadingとspeakingの技能統合)やshadowingが挙げられます。

技能統合により「深い学び」を

技能統合によって学習者に負荷をかけるという考えに加え、もう一つ考えられるのは、技能統合により学びが深まるということです。

リテリングの活動などで読んだり聞いたことを自分なりにアウトプットしようとする過程で、学習者の中で学んだことがより深く処理されることになります。その中で新たな気付きが生まれたり、理解が立体的になることが期待できます。

この点については過去の投稿でまとめていましたのでご参考まで。

授業効率という観点

最後に、かなり現実的な話になってしまいますが授業効率の観点からも複数技能を統合して扱うことが望ましいと言えます。

スピーキングやライティングといった発信技能を高める授業においても、話したり書いたりする「題材」が必要になります。そうした題材にリスニング・リーディングで扱ったものを流用すれば、アウトプット授業のためにわざわざインプットの時間を取る必要がなくなります。

この点については、私自身の恥ずかしい記憶があります。

私がまだ若手駆け出しだったころ、教科書会社の営業の方と話をさせていただいたとき、「英語表現」の教科書について意見を求められたときのことです。私は偉そうに「英語表現の各課のはじめにあるインプットが不要。「コミュニケーション英語」の教科書のインプットからそのままアウトプットにつなげるのが良い」と進言しました。

私の意図としては、せっかくの「表現」の授業なので、もっと表現活動に授業時間を割きたい、いくら表現のためのインプットとはいえ、表現の授業で新たなインプットに時間を割くのは授業時間がもったいない、ということでした。

確かその教科書会社は、英語コミュニケーションの教科書が「○○」、英語表現の教科書が「○○ライティング」という、同名ブランドでの展開だったので、教科書採択のなんたるかを何も知らない私は、この2つの教科書をセットで採択することが当たり前なのだと勘違いしていたのです。

実際には英語コミュニケーションと英語表現で同会社・同名の教科書を採用するかどうかは分からないので、英語表現にも題材導入のためのインプットは必要となります。そんなことも分かっていない若手の私の鼻息荒い「進言」を、教科書会社の営業の方は暖かく聞き流してくださり(笑)、「是非またお勉強させてください」とお声を掛けてくださりました。思い出すだけでも全身の体温が上がる私自身のエピソードです…。

さて、私自身の恥ずかしエピソードから言えることは、この若手教員の脳内にあった意識は授業効率だったということです。今でも、「コミュニケーション英語」と「論理・表現」で連携して、「コミュ英」で読んだ題材について「論表」で発信するという授業が展開できたら理想だとは思っています。(それが教科書採択の問題や、授業担当者の問題から難しいということが理解できるまで大人になりました、いや、なってしまいましたが…。)

限られた授業時数の中で、スピーキング・ライティングの発信活動まで持っていくには、発信のための題材導入にかかるインプットを扱う時間を極力削りたい。リスニング・リーディングで扱った題材を技能統合して発信技能のための活動に流用すれば、その時間が圧倒的に削れます。

このように、技能統合には授業効率というメリットも存在すると思います。

Why Integrate the Four Skills?

以上、4技能の統合について書いてきました。技能統合をする理由としてここまで書いてきたことをまとめると、以下のようになるでしょうか。

  • 自然な言語使用を考えると、技能を統合するのが自然である。

  • 自然な言語使用を踏まえた活動は実社会へのつながりが見やすく、学習者にとって内発的動機付けにつながりやすい。

  • 一つの技能を学ぶことが、別の技能の強化にもつながることが多い。

  • 技能領域を横断することは学習者への負荷となるため、学習項目の内在化につながりやすい。

  • アウトプットのためにインプットと改めて向き合うことで気付きが生まれ、より深い学びにつながる。

  • アウトプットのために新しい題材導入をする必要がなくなり、授業効率が高まる。

ここまで書いてきましたが、考えれば考えるほど、技能統合は「当たり前」という感に戻ります。英語教育においては、すでに4技能統合のその先を見据えた動きがあるようです。そういった動きにも注視しながら、また考えていきたいと思います。

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