共通テストの波及効果は検証されているのか

前回の投稿では、センター試験での発音アクセント問題をきっかけに、テストの妥当性と波及効果のことを考えてみました。今回もこのテーマについて思うことを書いていきます。

高校生の発音指導はどうなるのか

センター試験に発音アクセント問題が導入された背景を推察すると、おそらくは読解偏重、文法訳読一択の英語教育に対して、このままではいけない、音声面にも目を向けさせなければ、との狙いだったのでしょう。その意味では、発音アクセント問題は、個別の語句の発音アクセントに非常に多くの高校生の目を向けることに成功したわけですから、狙った波及効果が発揮されたといえるでしょう。

さて、共通テストになって発音アクセント問題が廃止されたのはどのような理由からでしょうか。一つには、前回の記事でも触れたように、妥当性の問題があったのだと推察します。センター試験から共通テストへのメジャーアップデートにおいて、「悪問」の批判を無視することはできなかったことでしょう。

もう一つ大きな要素と考えられるのが、4技能試験との関係性です。新たな共通テストの検討がなされている頃、高大接続改革においては外部の4技能試験を活用する予定でした。私は発音アクセント問題が廃止された背景には、このことが大きく絡んでいると考えています。

かつてのセンター試験では、日本の高校生を音声・発音に意識を向けさせるために、発音アクセント問題も紙面上で実施するしかなかった。結果としてテストの妥当性に批判はあったが、やむなく実施していた。それが、4技能試験を通してspeakingが入試に導入されれば、無理矢理に紙面上の発音アクセント問題を実施する必要がなくなります。

ここまではよかったのですが、4技能試験が頓挫した結果、高校生に発音を学んでもらうという波及効果を狙ったテスト構成要素が、センター試験・共通テストから消え去りました。

4技能試験との併用を前提としたテストであったはずの共通テスト英語が、4技能試験との併用の話がなくなったのに構成要素をまったく変えないというのは、はたしてどうなのでしょうか。

文法指導にも同じことが

文法問題についても同じことが言えるでしょう。共通テストにて文法語法問題がなくなったことも、4技能試験でwritingが問われることを前提にした部分があるのではないでしょうか。大学入学を希望する高校生の多くが4技能試験においてwriting問題に取り組むことになれば、個別に客観文法問題を出題しなくても文法語法の習得に取り組むはずだ、という考えがあったのではないかと推測します。

そして、4技能試験との併用は頓挫しました。文法問題は、それに代替するものの存在なく、共通テストでは問われなくなりました。

指導する側としては、文法偏重にならざるをえなかったところが、この動きで改善しやすくなるという思いもあります。しかし、生徒目線で見れば、これは単に文法軽視へとつながってしまうのではないでしょうか。

波及効果の検証はされているのか

共通テストを「改悪」だと批判して「センター試験のほうがよかった」という声を多数聞きます。個人的には、すべてが改悪とは思っていませんが、今回の投稿で書いたように、外部4技能試験との併用やそちらへの移行を前提としていたはずのテストが、その前提が崩れたあとにも何も変化がないというのは、はたしてそれでいいのだろうかと考えてしまいます。

もちろん、共通テストになって望ましい方向に変化が生まれたところもあると思います。ポジティブなものにせよ、ネガティブなものにせよ、共通テストに変わって、その結果高校生の英語力と英語学習がどのように変わったのか、その影響を検証することは大切ではないでしょうか。

今回、テストの波及効果というテーマで考えてみました。改めて、テスト作成においては、どんなことを測るべきか、どのように測るべきか、だけでなく、どのような学習をさせたいか、どんなメッセージを学習者に送りたいか、という波及効果の部分を、大切に考えたいものです。

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