英語教師の知らない、国語科の「話すこと・聞くこと」(ヨンギノー英語教師が国語教育を学んでみた⑩)

英語教師のKirtzです。現職英語教師が科目等履修生として、全くの畑違いとなる国語科教育法を学ばせていただいています。

後期の授業では、先生も変わり、授業内容も変わり、周りの学生さんも一部変わり、新たな気持ちでという感じです。

先日の授業は自分にとってたいへん興味深い内容でした。テーマは「話すこと・聞くこと」。このテーマは、私が国語科教育法を履修してみたいと思った大きな理由の一つでした。

国語科の「話すこと・聞くこと」への疑問

英語科では、ディスカッションやディベートの進め方を指導したり、会話をどのように続けるかなどのコミュニケーション方略を指導することもあります。しかし、これらは本来、英語(外国語)に限ったものではないはずです。よって、母語である国語科でも指導がなされるべきではないでしょうか。まず母語で学び、それを土台に英語の授業でも実践するというのが自然な流れなはずです。

しかし、英語教師をやっていて、国語科がこうした「話す・聞く」のコミュニケーションに関わる授業を行っている様子は、あまり見えてきませんでした。少なくとも、英語の授業の際に国語科の学習事項の上に積み重ねて指導しているという感覚は持ち合わせていませんでした

実際、国語科の授業でこうした「話す・聞く」はどれほどに扱われているのか。それを知りたくて国語科教育法の世界をのぞき込んでみようという気持ちを持つに至りました。(そのあたりの動機については、過去に以下の投稿で詳しく書いています。)

国語科での「話すこと・聞くこと」の扱い

私自身の中高生時代(もはや a couple of decades ago となりますが…)を振り返ってみれば、国語の授業で「話す・聞く」を学んだ記憶はありません。現在の中高ではどのようになっているのでしょうか。

現行の学習指導要領によれば、「話すこと・聞くこと」に関する指導は、中学校の1,2年では年間15~25単位時間程度、3年では年間10~20単位時間程度を配当することになっています。また、それに準拠した検定教科書でも、当然それ相応の単位時間を「話すこと・聞くこと」の指導に充てるような単元設定となっているはずです。教科教育法の先生のお話では、教科書では年間3,4回は「話すこと・聞くこと」の単元が入っているということでした。

年間3,4回、15~25時間程度というのは、かなりの数だという印象です。各学期に1回以上、単発ではなく各回3~4時間をかけてしっかりとした「単元」として扱うことを意味する数字です。

実際の現場では?

しかし、学習指導要領や教科書に掲載されているとしても、実際に現場ではどのように扱われているのでしょうか。現場ではやはり軽視されがち、飛ばされがちな単元であったりするのでしょうか。

この点に関して、疑問を教科教育法の先生にぶつけてみました。また、私よりもはるかに最近まで中高生をしていた、周りの学生にも尋ねてみました。そこから見えてきたところでは、少なくとも中学においては、どうやら公立と私立で事情は大きく異なるようです。

公立中における「話す・聞く」の指導

私が聞いたところでは、公立中においては学習指導要領や検定教科書に沿って授業を行うことが強く求められているため、教科書に掲載されている「話す・聞く」の単元は授業でしっかりと扱っているということです。

また別の観点として、公立中での指導においては、高校入試における面接や集団討論も意識されているということで、それらに向けた「話す・聞く」の指導でもあるそうです。また、公立中では職業体験などの地域連携において、生徒が大人と直に接する場面もあり、そこに向けても「話す・聞く」の指導が意味を持つということです。こうした意味で、「話す・聞く」の指導が軽視されているという感覚はあまりないらしいです。

私学における「話す・聞く」の指導

一方の私学においては、まずカリキュラムにある程度の独自性が認められているため、教材をオリジナルで用意したり、授業内容を自分たちで調整することが可能になります。よって、公立中のように「学習指導要領で定められているから」「検定教科書で単元として扱われているから」という理由で「話す・聞く」の指導が体系的に行われることは比較的少なく、どちらかと言うと軽視されているようです。

また、私立中学というとほとんどが中高一貫校となるので、高校入試を受験しない生徒が大多数になります。そうすると、上記の公立中のように、面接や集団討論でも必要になるからというモチベーションをもって「話す・聞く」の指導を行うという必要がないのでしょう。

公立と私立の違いは本当か

このように、公立中と私立中高一貫校における事情の違いにより、「話す・聞く」の扱いが異なるということのようです。

実際、周りの学生に話を聞いてみたところ、公立中出身の学生は「話す・聞く」の授業をそれなりに経験したと教えてくれましたが、私学出身の学生はほとんどやった記憶がないと言っていました。

私は私学の中高一貫校に勤務しているので、公立中の様子については詳しく知りません。また、私学についても、国語科の授業をつぶさに観察しているわけではないので、わかりません。ただ、確実に言えるのは、英語科における「話すこと・聞くこと」の指導が、国語科での「話すこと・聞くこと」の学習事項に関連付けて行われているという感覚は、残念ながらほとんどありません。

公立中や他の私学においてはどうでしょうか。理想としては、英語科での「話すこと・聞くこと」の指導は、国語科での実践と関連付けたり、それを土台として行われるべきだと思います。そのような取り組みは、果たしてどれくらい行われているのでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?