如月ふあ

二十余年精神科で看護師として勤務。その傍ら、日本、米国の民間心理学資格を取得。趣味は執…

如月ふあ

二十余年精神科で看護師として勤務。その傍ら、日本、米国の民間心理学資格を取得。趣味は執筆と陶芸。双極性障害Ⅱ型。虐待サバイバー。アイコンはyukoさま。ライフワーク小説『ONE』はうつ病、双極性障害、虐待サバイバーの女性に読んで頂きたい少年の成長譚、ピュアなBL小説です。

マガジン

  • 短編

    短編、掌編の寄せ集めです。

  • 『アデル』AI 恋スル 秘密ノ コマンド

    20XX年春。アンドロイド開発技術者である宇野夕星(うのゆうせい)は、彼が開発した最新のヒーラー型アンドロイド、コードネーム『アデル』の製品化に向け、一年間の試験運用(と言う名の公私混同お持ち帰り生活)を開始した。そこに学生時代の先輩であり現在は日本陸軍研究本部に所属する五味英治(ごみえいじ)からの依頼が舞い込む。五味曰く、テロリスト撲滅作戦に従事していたアンドロイド兵に重大インシデントが発生し、調査に行き詰まっていると。夕星はアデルを連れて、渋々研究本部に出向くことになるのだが……。

  • 双極性障害Ⅱ型と鬱病

    鬱病から双極性障害Ⅱ型へと診断が変わった私の忘備録。虐待(いじめ)や毒親、他の疾患についても。

  • 独断と偏見で書くアーティストの話

    ゴッホ、ムンク、カラヴァッジョ……。画業だけでなくその人生に惹かれたアーティストについてAIとともに語ります。

  • エッセイ

    気楽な日常記録 時事ネタ

最近の記事

隕石と蟻

「なによ、これぇ!」  思わずそう呟《つぶや》いた望月 宙《もちづき そら》に、サイフォン式のコーヒーをくるくるとかき混ぜていたマスターが目を向けた。  カフェのカウンター席。古民家風で渋い内装だ。休日はそこそこ客が来るが、場所がら平日のお客は少ない。今日は宙とマスターの二人だけ。つまりは貸し切りだ。  宙の手にはスマートフォン。いつも見ているブログサイトのトピックに、芸能人の女性が夫と写っている写真。その手には妊娠検査薬のスティック。  どうやら妊娠報告らしい見出しが

    • アデル 第十八話 隠

       ──満月と新月のはざま、幾通りの顔を見せながら月は急ぐ。  無限に同じ軌道を進め、しかし同じ色をみせぬ。あまたの事象を照らしみる、その冷ややかな光。永遠に変わらぬ影。  完成と未完との境目で月は歌う。何をとって満たされぬと定義するのかと。  爪のような三日月に足りぬと笑うは愚か。一刻一刻がまぎれもなく月の姿。そこにどのような疑問も当てはまらぬ。  ◇  十月なかば。厳しかった残暑がゆるゆると去り、窓外の竹林を満月がしっとり照らしていた。  しんと静まりかえった夜更け。久

      • イフェクサーSR 単剤

        先日精神科に受診してきました。隣に内科もあるんでそっちも受診。薬までもらって合計二時間。まあスムーズなうちなんでしょうがやはり疲れます。 精神薬はイフェクサーSRだけに戻りました。ラツーダは合わなかった。 イフェクサーって抗うつ剤なんだけどね。 SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬) 脳内のノルアドレナリンやセロトニンといった神経伝達物質の働きを改善し、意欲を高め、憂鬱な気分などを改善する薬。 まあこれで全体の9割といえる双極性障害Ⅱ型のうつ状態を改善させ

        • アデル 第十七話 似

          「夕星は恋愛したことある?」  アデルに突然問われた夕星は、コーヒーを吹き出しそうになった。  自宅の居間。夕星は酒は苦手であるがコーヒー中毒である。夕食後はいつもこうして居間のソファーに座り、なんとなくテレビを見るのだ。ニュースの内容はさして変化しない。海外で繰り返される、終わりの見えないテロ活動についてである。  相変わらず隣にくっついているアデル。美しい澄んだ瞳だが、向ける言葉はグッサリと刺しこまれた。 「秘密だ」 「どうして?」 「どうしてもだ」  いい歳して

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        • 短編
          8本
        • 『アデル』AI 恋スル 秘密ノ コマンド
          18本
        • 双極性障害Ⅱ型と鬱病
          30本
        • 独断と偏見で書くアーティストの話
          10本
        • エッセイ
          36本
        • 【小説】ONE 第三部 百年後の邂逅
          40本
          ¥500

        記事

          アデル 第十六話 物

          「退学?」  冷静さを欠いた声が上がった。アデルの言葉で、幹はようやく事の重大さに気づいたようである。 「先生たちは、翔くんが君をいじめてると思ってるみたいだよ。僕が先生に傷のことを話したら、翔くんはもっと疑われると思う。でも、違うよね?」  二人の間に沈黙が落ちた。なにを天秤にのせ逡巡しているのかは、アデルには手に取るように分かる。ずっと長いあいだ言えなかったことだ。しかしもう限界が来ているに違いない。  やがて、幹がコクリと頷いた。消去法での結論が正解だと判明する。

          アデル 第十六話 物

          アデル 第十五話 痕

           アデルのダメージは軽微なものだった。床に倒れていた男子生徒はすぐさま起き上がったが、夕星は彼の手当てをするようアデルに指示した。  生徒の名は雨宮幹(あめみや みき)。家より学校のほうが勉強に集中できるからと、残っていたらしい。小柄で中性的な雰囲気。優等生で他の生徒と問題を起こすような人物ではないとのことだ。  翔に殴られたのかと問いただす教師にも、幹は言葉を濁していた。報復を恐れてのことだろうと、追求は先送りとされている。  彼の頬は腫れていた。傷が残るような怪我ではな

          アデル 第十五話 痕

          アデル 第十四話 媒

           次にアデルが向けたのは、第二の予測である。先ほどボトルを手渡した時に触れた翔の指伝いに知った感情。そこから組み立てられたものだった。 「ふーん。恋愛をしたことは?」  問いを耳にした翔は吹き出した。面食らったようにも見えたが、それだけではないようだ。 「おまえ。顔に似合わないこと訊くんだな」 「うーん、どういう顔なら似合うのかな」  アンドロイドであるアデルにとって、美醜などどうでもいいことなのだ。管理者である夕星が一緒にいて幸福を感じるのであればいい。  次の翔の

          アデル 第十四話 媒

          アデル 第十三話 反

           運用検証の一環として、アデルが全寮制高校の保健室に派遣されることとなった。夏休みであるが、部活や個人事情で家に帰らない生徒もいるため、保健室は開いているのだ。  主な目的は、軽い怪我をした生徒に対する治療を適切に行えるか否かの確認である。診断や簡単な処置が出来れば、ヒーラー型アンドロイドの需要が増すという寸法だ。  しかし夕星とアデルが学校に出向くと、校長からとある不良生徒を更生できないかという打診があった。その生徒は家族との折り合いが悪く、夏休みも家に帰らないという。学

          アデル 第十三話 反

          アデル 第十二話 途

           今年もまた、うだるような暑い夏が来た。もう何十年も前から一年の半分は夏のようなものだ。夕星は夏が嫌いである。エアコンのきいた室内から出たくないのだ。  とにかく、あらゆることが面倒になる。暑いというだけで体力のみならず気力の大半を持っていかれる。  夕星は若くないが、二十代にはオジサン呼ばわりされ先輩諸氏には若輩者扱いされるという、極めて中途半端な年代である。  アンドロイド開発者としての彼は優秀であるが、いかんせん『自分のために造った』という不純な動機が出発点。野心家で

          アデル 第十二話 途

          アデル 第十一話 魔

           春の終わり、夕星の元に吉澤の訃報が届いた。葬儀からの帰り道、隣を歩く管理者にアデルが難しい問いを向ける。住宅街の道はとても静かで、その声はよく通った。 「ねぇ夕星。人は死んだらどうなるの?」  分からないというのが事実である。夕星は、アデルのデータ量で分からないことが自分に分かるわけがないと息をつく。当然、個人の考えで話すしかない。 「俺は無神論者だからね。死んだら、それで終わりだと思ってるよ」 「価値もなくなるの?」 「遺ることもあるだろうね。でもそれを確かめること

          アデル 第十一話 魔

          アデル 第十話 神

          「隣の病室にギターと楽譜があるから、それを持ってきてくれないかい?」  頷いたアデルが席を立つと、吉澤は枕元に置いていたテディ・ベアを引き寄せた。戻ってきたアデルは、相手が照れ隠しのようにクスリと笑みをこぼすまで、見られたくない場面であったことに気づかなかった。 「まあ、ライナスの安心毛布ってところだね」  それが海外の漫画に出てくるものであることを、アデルは瞬時に割り出した。ブランケット症候群と言われたり、精神安定剤のような役割があるということも。  吉澤に直に触れる

          アデル 第十話 神

          アデル 第九話 器

          「アデルといったね。君はいくつだい?」 「十四歳です。試験運用を始めたばかりなので、失礼があったらごめんなさい」  吉澤に添えられた手のひらは不思議と温かかった。長いあいだ、求めても得られなかったものである。孤独に対する怒りと諦め。それを抱え、自分はそんなに罪深い人間なのかと吉澤は思い続けてきた。訪れた天使に最後の懺悔をするように、彼が言葉をつなぐ。 「十四歳か。私が軍人だったのは聴いてるかい?」  頷いたアデルに、吉澤はかつて参加していたテロ撲滅作戦について語った。彼

          アデル 第九話 器

          ルソー 天然ヘタウマの冴えた色彩

          今回はアンリ・ルソー。 うん。天然ヘタウマ。色々と勘違い甚だしい。でも憎めない日曜画家。 「ルソー本当は絵が上手い説」なんてのもあるけど、そんなの一枚も残ってない。なのに絵画教室の先生になったりしてる。 特筆すべきはその色彩感覚の素晴らしさ。彼の描くジャングルの木々や葉の色のバランスはとても美しい(他に褒めるところはない)ってことで。 概要はAIで。 ◇ アンリ・ルソー(Henri Rousseau)は、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したフランスの素朴派の画家でし

          ルソー 天然ヘタウマの冴えた色彩

          アデル 第八話 孤

           夕星とアデルが向かったのは、終末期ケアを行う療養所(サナトリウム)。その施設に収容されている不治の感染症患者に対してのヒーリングが目的である。  感染率は非常に低い。都民全てが面会したとしても一人以下の確率である。ただ、羅患(りかん)したら確実に死に至る。  患者は余命幾ばくもない元陸軍兵士の老人だという。治療ではない。死出の旅に向かう前の最後の癒しだった。  今回の面談にはもちろん夕星は付き添えない。アデルの視覚を端末に無線リンクさせ、別棟で映像を見ながらの待機である。

          アデル 第八話 孤

          アデル 第七話 我

          「アデル~。これ見て!」  そう言いながら葉月が取り出したのは、フリルとタックがたっぷりついた真っ白なブラウス。それと全体にフリルがあしらわれ、ビスチェのついた黒いスカートである。  革ひもでしっかり結い上げるタイプのビスチェ。総レースのボンネットと、ロングヘアのウィッグに、革のブーツまで用意されていた。端的に言うならば、コテコテのゴシックロリータ服である。過去の流行がまた巡ってきたのかは、夕星の知るところではない。 「姉ちゃ……」 「来週の個展に、これを着て一緒に出てほ

          アデル 第七話 我

          アデル 第六話 与

          「それで?」  居間の縁側から望める桜の大木を眺めながら、夕星は煙草を吸っていた。姉が煩(うるさ)いのでもちろん電子タバコである。それでも葉月の片方の眉は上がるのだが。  隣に座るアデルは葉月のパジャマを着せられている。白無地ではあるが襟にも裾にも愛らしいフリルがついていた。似合っているところが、これまた何とも言えない。  縁側に座った葉月の膝に、アデルが頬を持たせてころんと横になった。甘えていい相手だという認識らしい。すっかり乾いた髪を撫でながら、まるで子猫みたいだと

          アデル 第六話 与