言いたくて10

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 自分の部屋に戻ると、子猫のサミが鳴いた。サミの頭を撫でると心が温まる。
 私はお風呂に入るため、服を引き出しから出した。ドアを開けると、サミが付いてこようとするから、私は頭を横に振って、サミを置いて部屋を出た。階段を降りると、トイレから出てきたママとすれ違った。ママは、私の顔を一度も見ずにリビングに入る。私は寒い洗面所で服を脱ぐと、湯船に入った。
 温かいな。
 昔、私はお風呂で歌をうたっていたことがあった。湯船に入ると、なぜかそのことをいつも思い出す。
 胸に付いた、傷跡を見る。心臓の手術でついた傷。
 私の心臓が悪くなかったら、パパは出ていかなかったのかな?
 この傷跡を、消してしまいたい。
 私は湯船から出ると、必死になって傷を洗った。絆創膏でも隠せない、大きな傷跡。
 胸が赤くなる。でも、傷は消えない。今でも、痛む。何度手術しても、心臓は痛むんだ。もう、手術なんか、したくないのに。


 第7章 北村光輝

 俺の部屋は2階にある。窓辺の水色のカーテンは中2のときに母さんが選んだものだが、俺は結構気に入っている。それ以来俺が部屋に置くものを買うときは、大抵青系統の色になった。ベッドの上の布団カバーも青だし、カレンダーも青を基調とした空や海の風景の写真にした。
 本棚にはアルバムが収めてある。そこには、以前住んでいた高知の海の写真がたくさん貼ってある。しかしそのアルバムの隣に飾ってある、親父の撮った写真は、俺が高知に行く前――写真に凝る前、危なげな手つきでスマホを扱っていた頃の写真だ。とはいっても、その写真を撮ったのは俺の親父だが。その頃、いつも俺と一緒に遊んでいた旭斗と、そして旭斗のいとこであるかすみの、3人がそこには写っている。
 俺は制服のシャツの上に大きめの白いセーターを着込み、ズボンだけジーパンにはきかえただけの軽装で、暖房もかけずにその部屋に一人でいた。羽毛の柔らかいベッドの上にころがって、先週あの娘に渡されたハンカチを見ながら、ぼんやりと考え事をしていた。
 闇に包まれた俺の家で、けたたましく電話が鳴った。俺は驚いてベッドから跳ね起きる。俺は体をシャンとさせ、電話に出た。
「はい、北村」
 電話の向こうからは、耳慣れた声が聞こえた。頭の中で、波紋が広がる。ポチャンと、石を湖水に投げた時みたいに――。
「かすみ? どうして?」
 俺が告白したせいで、友達に戻れないと、言っていたのに。
「会えないかな?」
 返事ができない。
「ごめん、いいの。聞かなかったことにして」
「何かあったのかよ。あいつと」
「何もないわよ」
 嘘だろ?
 お前が俺に電話してくる時は決まって、あいつ、前島先輩と何かあったときなんだ。
「今日は、もう会えねぇよ。こんな時間にお前と会ったら前島に殺されちまう」
 そうだね。かすみは乾いた笑いのあと、聞いてきた。こんな笑い方をするときは、散々泣いた後なんだ。
「明日、何時がいい?」


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来樹杏果

小説を書くのが好きです。 他の活動で忙しいので、すみませんがコメントは控えさせていただきます。 http://bottle-of-coffee.net にて活動。自ページ( http://kyo-kisaragi.bottle-of-coffee.net

言いたくて

小説。 ラブストーリー。
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