言いたくて11

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 時計は朝の10時を少し回っているが、ぼんやりと暗くなった照明の下では外と喫茶店の中は断絶されていて、今が何時なのか時計の針だけでは判断できない。茶色が混じった薄い窓硝子は、通りをセピアに染めていて、暖房はあまり利いていないのか、足元をかすかに冷たい風が流れていく。そんな中で、耳慣れなくてつまらないクラシックが流れている。
 俺は目の前の冷え切ったコーヒーを飲みながら、かすみの声を聞いている。さっきからポツポツと窓を叩いては落ちていく水滴を見ていた。
「こんなこと、光輝に言ってもしょうがないのにね」
 既に氷で薄まってしまったオレンジジュースをストローでかきまぜながら、かすみは笑う。かすかに氷がぶつかる音がする。
 窓の近くに掛けられている小さな額には、ここの雰囲気に合った写真が飾られている。コップが幾つか並べてあり、種類の違ったいくつもの青い光がきらめく。こういった写真は、絵にするのは難しいだろう。向こう側の壁には、少女の絵。特別有名な画家のものではない。透明水彩のぼやけた絵の中で、その少女はかすみと同じような赤い服を着ている。
「お前赤い色似合うな」
 俺がそう呟くと、かすみは目を少しだけ柔らかくして笑い、自分の赤いセーターを見た。
「私は何色でも似合うのよ」
「自分で言うなよ」
 ――でも、お前の明るいところと合って、本当似合うよ。
「映画でも見にいかねぇか?」
「また、ホラーとか言わないでしょうね? 私ぜぇったいあんなの見ないからね!」
 そういえば、小さい頃俺んちで一緒にビデオを見たとき、ぎゃあぎゃあわめいていたっけ?  別にホラーというほどのもんでもなかった気がするが。
「推理小説とか好きなくせに変な奴」
 俺がそう言うと、かすみは「人間はいいの」と呟く。
 女って、変なもん怖がるよなぁ。まぁ、そこが可愛いのかもな。
「抱きつかれるのが目的なんでしょ」
「男は狼ですから」
「光輝が狼? 光輝が!?」
 かすみが大笑いするので、俺はレシートを持たずに立ち上がった。
「ここお前のおごりだからな」 


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来樹杏果

小説を書くのが好きです。 他の活動で忙しいので、すみませんがコメントは控えさせていただきます。 http://bottle-of-coffee.net にて活動。自ページ( http://kyo-kisaragi.bottle-of-coffee.net

言いたくて

小説。 ラブストーリー。
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