「あなたのためを思って」は私のためではない。

今までの人生で、どれだけの時間を費やしてきただろうと思うことに、友人からの「アドバイス」に心悩ませた日々があります。そのアドバイスに必ずついていた枕詞はこうでした。

「あなたのためを思って」

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「あなたのためを思って言うんだけどさ、あの男とはつきあわないほうがいいと思うんだ。彼、なんだかちっともあなたのためを考えているように思えないし、あの人と一緒にいるとあなたの価値まで下がってしまう気がする。あなたにはもっとふさわしい人がいると思うよ」

「言おうかどうしようか悩んだんだけど、あなたのためを思っていうことにする。自撮りの写真アップしたり、会社以外の活動をしている様子をFacebookに書いたり、あんまりしないほうがいいと思う。会社の外で派手に活動しているように見られないほうが身のためだと思うんだよね」

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あなたのため、あなたのため。世の中にはおせっかいな「あなたのため」があふれています。昨日も、今日も、たぶん明日も。

友人が真顔で心配してそれを言うものだから「余計な世話だなあ」という冷静な判断がはたらかないのです。

そして、ぐるぐるぐるぐると考え続けることになります。そうなのかなあ。あの人の言うとおりなのかなあ。私、何か間違っているのかなあ。

上の例でいうと、恋人と会ったり、Facebookに投稿するたびに友人の言葉が頭に浮かぶことになります。この人といると私の価値が下がって見えるのかなあ、こんな投稿をしないほうが身のためなのかなあ、と。

そして、どんどん自分に自信がなくなっていくのです。

思い返してみれば、若い頃からずっと、こうやって悩むことばかりでした。私は何か間違ったことばかりしてきたのだろうか。そうやって生きてきて、とんでもないところに来てしまったのではないか。そして、今でも毎日、間違った判断をしているのではないか。明日も正しい判断が下せないんじゃないか。いつかとんでもない間違いを犯して友人たちにあきれられ、見向きもされなくなるのではないか。

ぶるぶるぶる、と左右に頭を振ってみます。いや冷静になれ、と。

なぜ友人は私に「あなたのためを思って」と忠告をするのでしょう。その正体はおそらく「違和感」なのではないかと今は考えています。

友人が「こうであらねばならない」と信じている世界があるとします。その世界に私のやっている行動が合致せず、引っかかりを感じる。ゆえに、違和感を解消し、スッキリするために私の行動を変えさせようとするのではないかと。

やっかいなのは、友人は心からよかれと思って忠告をしてくることです。だから私は来る日も来る日も悩んできた(けっこう、くよくよするタイプなのです)。

でも「それ、違和感を解消してスッキリしたいだけなんじゃん」と思えるようになってからは、ほとんど気にならなくなりました。だって、その人をスッキリさせるために私が行動を変える必要なんかないもの。

また、同時に、私自身が善き人の顔をして友人に余計な忠告をしていないかについても、つねに考えるようになりました。

確か、村上春樹さんが、「善くないことは善き人の顔をしてやってくる」と書いていた気がします(今は原典を探す時間がないので、うっすらとした記憶でご容赦)。

でも「あなたのためを思って」という、善きアドバイスに、心揺らがないという自信はありません。

そこで、私が導き出したシンプルなセオリーはこうです。

一番大切なことは、決して人に言わない。

そうすれば、善き友人も違和感を感じることがないし、私も忠告をされることはありません。互いの世界観は揺らぎません。

友人と大切なことを共有しないという私に、さびしさや味気なさを感じるでしょうか。そんなの友達どうしじゃないと思うでしょうか。

うん、でも、大人の女性たるもの、自分1人しか知らない秘密を大切に抱えて生きる、その選択にすべて自分で責任を取る、という、きっぱりとしたエロスも必要なんじゃないかな。

エロス Erōs
プラトンによる哲学用語。達成と欠如との中間にあって、真善美を追い求めてゆく衝動力。『日本国語大辞典』

『星の王子さま』で、キツネもこう言っていたじゃないですか。

ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない。『星の王子さま』サン=テグジュペリ、河野万里子訳


今週のBGM
÷ (Deluxe) by Ed Sheeran

Twitterやってます。

https://twitter.com/kisaragi_sarah

イラスト・加藤龍勇
スタジオぶらぶら

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如月サラ

女性、52歳。南国生まれ育ち。故郷の大学を卒業後、地元で3年間OL生活をしたのち25歳の時東京へ。アルバイト生活からいくつかの転職を経て勤続22年ののち50歳で退社。50歳から大学院修士課程に進学し、修了。好きな俳人は久保田万太郎。

R-50 Ladies Only

50歳までの経験で学んできた生き方を、自分の「いま」として正直に書いていこうと思います。喜びも痛みも経験してきたからこその、幸せに生きるヒントになりますように。タイトルに反して50歳以下の女性にぜひ読んでほしいな。きっと今より力を抜いて楽になれると思うから。男性にもぜひ読ん...
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