【詩】蛭子

蛭子は父と母が編んでいるものを揺り籠だと思っていました

父と母が自分を入れて川にそっと下ろして

船だったのだとわかりました

蛭子は船の中にぴったりと収まって流されて行きました

蛭子はとても心細くなりました

蛭子のあとを 夕暮れにたなびく雲のような

紫色に光る膜のようなものが追って来ました

蛭子には後ろは見えません

だが、膜のようなものが近づいて来るにしたがって

蛭子の中に膿みが溢れて溜まりました

川べりを飛び交うほたるたちが、蛭子を励ましました

「あなたもいつか、寂しくなくなりますよ」

「素晴らしい名前がつき、豪奢な船に乗ります」

「名誉な仕事を任され、慕われ、仲間にもめぐまれます」

ほたるたちは励まし続けてくれました

まだ寂しい、まだ寂しい

今日も寂しい、どうせ明日も、と

蛭子は永い間、苦しみました

ほたるたちは、蛭子の顔にも、紫の膜にも気がつきませんでした

流れが蛇行したところで船が打ち上げられ

小さな中州へ蛭子は投げ出されました

初めて蛭子は こちらに迫ってくるものを見ました

あっという間に紫の膜は

川から鰻のように跳ね上がり 

蛭子の口から膿みへ飛び込むと たちまち辺りが爛々とし出しました




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