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【詩】葦船(あしふね)

公立劇場の稽古場に

腐肉のついた白馬の尾を投げ込んで

俳優たちが不快げに喚いたら

大手を振ってここから逃げられる

公立劇場の舞踏公演で

手のひらを裏返して、さよならをしたら

観客たちがヒステリックに怒り狂う

私たちは穢いものとは無縁である、と

保障して欲しかったのだから

通学電車で望む山間の線路沿いに 小川と見間違う用水路が流れる

護岸に両端を打ち付けた短い鉄板の橋が渡り

山へ入る小道から 石造りの鳥居が見えた

聞き覚えのある旋律が微かにして

おそらく わらべ歌、と耳をそばたてても

詞は聞き取れない

欺瞞で成り立つ劇場から飛び出して

わらべ歌の詞を教えてもらいに行くのだ

始発駅から最終列車で二駅目 車掌に切符を切らせて降りた

線路に下りた

いつも窓から見る景色を硝子無しで 自分の歩調で見るのが夢だった

鉄道警察を振り切って 棚田の畦を駆け登る

白鷺が翼を紙のようにぱらりと折り畳み

警官たちを惑わせた

鉄板の橋を渡る途中 葦で編んだ船が流れてきた

鉄板の塗装が剥がれたら 錆の塊が落ちたら

あの船は押し潰されてしまうだろう、と足がすくんだ

どうかどうか海まで出て 宝の船になりますように

そうして 見えなくなるまで見送っていた

振り返り 上流にある閨房へ皮肉を込めて

手のひらを裏返して、さよならをしたら

聞き覚えのある旋律が微かにして

おそらく わらべ歌、と耳をそばたてても

詞は聞き取れない

鳥居が道を開けた

聞き慣れない声色に安心した

聞き飽きた声色に圧し潰される劇場から飛び出して

わらべ歌の詞を尋ねに行くのだ




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