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運命の赤い口紅

赤いルージュを塗っていると、時々言われる。「私も赤い口紅に憧れるけれど、勇気がなくて」と。その言葉を聞く度に私はいつもこう答える。

「大丈夫、運命の赤い口紅に出会えたならば、その不安もきっと杞憂に終わるよ」

今昔問わず映画に出てくる麗しい女優たちは皆はっとするほど美しく赤いルージュを塗りこなしている。雑誌のインタビューを読めば、スタイリッシュなモデルが普段のメイクについてアイライナーと赤いルージュをさっと塗るだけだと答える。恐らく、いい女の象徴は今までもこれからも、きっとずっと赤いルージュなのだろう。

私も赤いルージュに憧れたり、何となく買ったりしたものの、長らくそれを塗って外出することを躊躇っていた。どうも唇だけが主張し過ぎている気がしてならなかったのだ。だけど、ある時に気付いたことがある。それは、誰しもにとって運命の人が異なるように、運命の赤いルージュだって色や質感が一人一人全く異なるということ。

周りの赤いルージュを塗りこなしている歳上の女性やコケティッシュな若い女の子を見ても赤は赤でも面白いくらい違う。皆「赤いルージュ」を塗っているには違いないのに、燃えさかる炎のようであったり、色づいたばかりの果実のようであったり、はたまた少し熟れたアメリカンチェリーや舌の上で潰したブラックベリーのようであったりと、それらは実に多様なのだ。

私自身も運命を求めて何年も奔走したところ、私にとってのそれは、少しも黄身がかっていない少し冷たいような赤だった。そしてそれ以来、少しクラシックな雰囲気の赤いルージュばかりを買い集めている。

鏡の前で色々な赤を塗り比べてピンと来る瞬間って、小指の赤い糸を感じるのと似たときめきがあるように感じます。だからこそ未だその運命を感じたことが無いという人こそ、コスメカウンターを訪れてみてほしい。私はいつもそう思っています。

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