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かみさま の あとおし

 何かに背中を強く押されていたような話。

 多趣味で移り気で飽きっぽくて、これまで書きかけた長篇二本は途中でつまらなく感じて書いたりやめたりを繰り返し、飽きては短篇を数篇書いてみて喜び、ゲームや仕事を言い訳にしては文筆から離れ、また書くんだと思っては戻って来。

 そんな、仕事にする気も、本気でぶつかる気もなく小説を趣味で書いたりやめたりを長年。ハヤカワSFコンテストが復活したと知って、にわかに心がざわめいてから3年。

 仕事柄、年度末って本当に忙しくて、だいたい2月ごろから毎晩終電帰りで、まだ1~2歳の娘の顔は朝起きた後と寝顔だけ見るような生活。秋頃に、今年こそ出すんだ、と書きかけては、3月に入る前に静かに諦める。仕事忙しいし、本業はこっちだし。どうせ出しても受からない。私が小説で金銭をもらえるだなんて、こんな程度の能力でおこがましい。出すだけ無駄だ。

 そう、自分を誤魔化して2年。

 本当は心のどこかで何かに背中を押してもらうのを待ってたのかもしれない。いつも夢に向かう誰かが羨ましかった。

 私は子供が小さいから。私は仕事が忙しいから。でもそんなの言い訳だってどこかで思ってた。単に、見せて厳しい評価をされるのが怖いだけだ。あなたの小説なんて詰まらない。そう言われるのに怯えているだけだ。本当は分かってた。

 そんな去年の夏頃。頑張って今年は書こうかなあ。でもまた諦めて見送るのかなあ。そんな時にたまたま神社でおみくじを引いた。

 これまで願っていたことが成就するとき。信心を怠らずに努力し続けること。

 願っていることなんて、ない。その時にはそう思った。でも心のどこかがチクチクとした。本当にないの? 神様にそう言われている気がした。中吉だったので結びつけて帰った。

 もう書かないと。これまで書きかけの長篇を仕上げようか。それとも新しく書こうか。そんな風に思ってた時にnoteに出会った。最初は読むだけだったけど、勇気を出して11月に登録して、短篇を投稿してみた。誰かに作品を見せるのはとても勇気がいる。これまでは、褒めてくれるたった一人の友人にだけ見せていた。家族には書いていることすら教えていなかった。その子がいなかったら書いてたことすらなかったことにして、そのまま墓まで持って行っていた気がする。だけど、その子以外にようやく見せようと思った。最初は怖かった。

 恐る恐る投稿して、もらえたのはたくさんのスキ。嬉しい感想。

 しみじみと嬉しかった。プライベートでも仕事でも何かを褒められるなんて久しぶりのことだ。出来て当たり前のことだらけの会社では、普通にやれて当たり前で、とりたてて褒められる機会なんてそうそうない。今年は、頑張ってみようかな。ちゃんとプロット書いて準備してたら、仕事が忙しくなってもなんとか隙間に書けるかもしれない。

 少しだけそう思えた。

 12月までの間は、短篇と長篇を行ったり来たりしてた。でも結局、書きかけの長篇はどうしても冗長に感じてそれを投稿するのはやめた。新しい話を作ろう。あと4ヶ月。間に合うかどうかはわからない。でも納得できないものは出したくない。納得できないならやめとくか。だって短篇をnoteで出しているだけで満足だもの。こうやって、サークルみたいに楽しくみんなでスキをつけあって、それでもいいんじゃない? だって、見せられたし。褒めてもらえるし。

 そう、ちょっと思いかけたとき、たまたまよく見る占い師さんのブログでこんな言葉に頭を殴られた。

 昔から「夢を持ちましょう」と世界中で言われ続けてるの、なぜだかご存知ですか?
 はい、自分なりの夢や目標をきちんと持たないと、他人への嫉妬心が芽生えやすくなってしまうからです。「あの人はいいなあ」「うらやましいなあ」「どうせ私なんか」と隣の芝生をうらやんだり自分を卑下する人生って、つまらないですよね。顔つきも暗くよどんでしまいます。
 さ、今からでも決して遅くありませんよ、達成感、充実感をまだ得られていない人はご自分なりの目標を設定して実行計画を立ててみてください。だいじょうぶ、あなたの耕運機もとい幸運期はこの先もまだまだ続きます。夢が叶う確率は高いです。

PINKEE'S EYE|2014年12月の九星別運気と吉方位|五黄土星
http://www.pinkieseye.eek.jp/?p=2511

 嫉妬心。確かに私は嫉妬している。書いて、書くことを仕事にしている人に、嫉妬しているのかも。お金がもらえて羨ましい、というよりは、書くことを仕事にしていると公言できて羨ましい。それがみんなに認められていて羨ましい。

 今からでも遅くないの?

 心揺れながら、世界設定、プロット、書きたいシーンと登場人物をなんとか12月頭に決め終え、書き出したのが12月中旬。その前後から、星座占い、九星占い、生まれ月占い、おみくじ、何故か目にする占い全部から「夢を叶えるのは今だ。頑張れ」「今月思いつくこと、やってみたいと思ったことはとりあえずどんどん実行に移してみてください、それたぶんうまく軌道に乗り、かなり面白い展開になるはずです。」「チャンスが来ています、立ち上がってキャッチしてください」と背中を押しまくられて書き続けました。今、波に乗らないでいつ乗るのだ。

 運命とか知らない。占いなんて気休めか暇つぶしだと思ってる。たまたま今回、私の目に触れたものが全部一致しているけれど、これだって偶然だ。だけど、何だか分からない何かに、私の暮らしている世界の向こう側から、全力で今書け! って言われてる気がした。

 実は、それだけ重なってもまだ懐疑的に思いながらお正月に神社で引いたおみくじがこれ。

 大望をもちて一生の計を立つべし、やがては登龍の門に入りて大成すべし、その備のために一層の力をたくわえよ

 ちょっと背筋が薄ら寒くなった。吉だけど結ばずに持って帰ってきたくらい。その頃はまだ小説の事なんて何も知らなかった家族には、「登龍の門ってなんだろ。転職でもするのw」とか笑われたけど、私は正直笑えなかった。むしろ怖い。これ何だろう。

 だけど、これはもう何かがさだめられちゃってるような気がして、そこからはかなり真剣に書き進めて、2月。

 前も書いたけど占い師さんにたまたま見てもらう機会があって、そこで「前世に作家さんがいる」「魂を癒やすために書いたりするべき」と言われ、あとは、「作品を残す仕事に向いているから、絶対に何か作品を残すことをやりなさい」と言われていた。その後の3月、占いサイトでは「あなたは、その道のトップを目指すべき。今までやってきたことを極める段階に入ってます。そこそこではなく、プロを目指す。あなたの魂を満足させるために。」と書かれ。

 とりつかれたように何もかもをなげうって、睡眠時間を削り、ゲーム時間を削り(前書いたかもしれませんが私はゲーマーで家での余暇時間はほとんどゲームしてる。それをほとんどやめた)、通勤時間を20分早くして駅のベンチで執筆時間を確保し。それでもまだ家族には言えず、迷っていた。
 でも、iPhoneでの5万字を超える執筆にもう限界が訪れて、指と腕がひどい腱鞘炎になり、思うように動かなくなってきてて。

 そんな3月中旬、たまたま仲の良い友達と飲み会の機会があって、その中の一人が「京都にこないだ行ってきたんだよ~。お土産にお守り買ってきた!」って全員に配ってくれたお守りが、なんと京都伏見稲荷の「達成守り」。

 ここまでくると笑うしかなかったです。その友人はもちろん私が小説を書いているなんて知らず、まして3月末にそれを出そうと思っていることも知らなかった。なのに、このタイミングで達成守り。どうしてこのお守り? って聞いたら「なんとなくみんなの願いが達成されるといいなって、なんか……なんでだろう? これ選んじゃった」って。

 赤いお守りを握りしめて、ここまでして背中を押されるなら、やるしかないな、と。

 そう腹をくくって家族にカミングアウト。そこからは家でも書いて、書いて、書きまくって、夜は1時まで、眠くてどうしようもないときは早寝して4時に起きて。ようやく仕上がったのが、29日の25時半。

 30日の午前中に、キンコーズで印刷して、喫茶店で落ち着いてお手紙書いて、郵便局で発送。郵送した後に見た満開の桜はとても綺麗だった。頑張ってる途中に見た、まだ明ける前の空も美しかった。世界はこんなにも綺麗だと、俯いていたらそれも見えないと、神様がおみくじで教えてくれたのかもしれない。

 noteで応援してくれた皆さんにもありがとう。ハヤカワSFコンテストに、岸 優希の名前で「エンド・オブ・アイス」という作品を出しました。

 どうなるかは分からない。どうしようもなく大変だった。

 でもたまらなく楽しかった。

 目にするもの全部に応援されていたような数ヶ月だったけど、それが本当に神様だったのかどうかは知らない。運命なんて信じてない。だけど楽しかった。やらされてるというよりは、たぶんきっとずっとやりたかったんだと思う。勢力を上げて私の背中を押しまくっていた何かは、これを教えたかっただけかもしれない。だけど、やりたいと思って言い訳しながら指をくわえているよりは、結果がどうでもやって良かった。

 たぶんまた、結果を待たずに違うところに何かを出すかもしれない。今は書きたい物語があふれて止まらないから。

 背中を押してくれたのが何だったのかは、たぶん死ぬまで分からない。けど、神様の後押しだった、と、今は密かに信じたい。

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