見出し画像

大坂なおみファンの消沈

極論すれば彼女がテニスやらなくても推せる派なんですよ私。
ただ、当の大坂なおみというひとが「テニスができる、それが私の唯一の存在意義だから」と信じ込んでいるだけに、見て見ぬふりも出来ず、つまり2021年全米オープンは3回戦での敗退以上に、その敗者としての所作に大きな衝撃を受けました。

試合終了を境にものすごい勢いでネットに流れ出る罵詈雑言を薄目で見て思ったのは、ただのファンでしかない私ですらこれだけシンドイのに本人ならいかばかりか。ということで、敗れたゲーム後半の不行跡につきましては本人と共にファンからも深くお詫び申し上げるところではあるのですが、少しは勝者を讃えることを思い出せ、と世間に対しては言いたい。
オリンピックでなおみ姐さんに勝ったマルケタ・ボンドロウソバ(世界ランキング42位、当時。以下同)は銀メダル獲ったし、シンシナティでなおみ姐さんに勝ったジル・タイヒマン(76位)も準優勝したわけで、世界ナンバー3に勝っちゃうとか、それだけで十分な偉業なんですよ。18歳、エクアドル人の父、両親がフィリピン人のフィリピン系カナダ人の母、現在の活動拠点はフロリダのカナダ国籍プレイヤーだ。レイラ・アニー・フェルナンデス(73位)をもっと讃えよ。
あと日本人の父、日本人の母、現住所は日本。でなければ日本人と認めたくない各位、この際フェルナンデスの故国であるカナダに対してなんか感想言ってみやがれください。

話を「敗戦試合におけるラケット投げ&ボール客席打ち込み」に戻します。何の擁護もできないので、せいぜいキレ気味に話をそらすぐらいですけどね、ファンができること。
ジョコビッチを始めとするプレイヤーの50%がワクチン未接種なのはどういうことなんだ、ズベレフは元カノからのDV告発に真っ当な対応しないままだし、チチパスはトイレ休憩行ったら帰ってこないし、そんなことに比べればラケット投げるぐらいはどうってことないけどボールを観客席に打ったらダメです、それは姐さんダメですわ。

I was telling myself to be calm, but I feel like maybe there was a boiling point.
(略) I'm not really sure why it happens the way it happens now. But, yeah, it's basically why. You could kind of see that. I was kind of like a little kid.

でもねえ、試合後インタビューのここ、可哀想でさあ。
何の弁解もできない、子どもじみた行為だった、ってひたすら謝るしかないから謝ってるんですけど「誰かを不愉快にさせたとしたらごめんなさい」話法じゃないですよ。せめてそこ、分かっていただきたいんですけど。

I feel like for me recently, like, when I win I don't feel happy. I feel more like a relief. And then when I lose, I feel very sad. I don't think that's normal.  (略) I honestly don't know when I'm going to play my next tennis match. I think I'm going to take a break from playing for a while.

あとね、なおみ姐さんの当該行動を興味本位で報じた記事に付いたコメントの多くが「休めばいいのに」「もう休めよ」の嵐だったんですけど、本人が「休む」って言ってるのにそんなコメントを呼ぶってどういう種類の報道なんだ。
勝ってもうれしいというよりホッとする、負けたらひたすら悲しい。それってやっぱり普通じゃないと思う、って世界の頂点に立って見えた景色がそんなのってどれだけツラかろう。
それは私が彼女のファンだから想像できること、なんですかね。
ええっ、ヒトってもうちょっとは他の個体を思いやることが可能なイキモノじゃなかったかい?

テニスをプレーすることが、かくも多くのプロ選手を不幸にしてしまうのは何故なんだぜ。って記事をニューヨークタイムズが掲載していて、結論としてはアニメ版「エースをねらえ!」の主題歌ですよ、コートでは誰でもひとりひとりきり。そういうスポーツだから。だって(半分嘘だけど半分は本当)。

USAトゥデイにも似たような記事が。結果の全責任を個が負わなければいけない、プレー中は誰からの助けも得られないのはボクシングもフェンシングも同じだけど、緊張と緩和の両方を試合中ずっと要求されるのはテニスだけでは。ゴルフ? ボール止まってるじゃん。あとキャディーの存在が大きい。みたいなことが書いてありました。

彼女に勝ったフェルナンデスの試合後インタビューQAで「観客はあなたを応援していましたね、どうしてだと思いますか」「わかんない」って応答あったり、大会開始前の会見でなおみ、あなたは人気があるじゃないですか。と話の糸口で問われ「そんなことないわ、人気があるっていうのは私なんかじゃなくて、たとえばココみたいなプレイヤーのことよ」ってやりとりがあったぐらい、アメリカでも大坂なおみに吹く風、実は優しくない昨今。

彼女が幼少期に通っていたクイーンズ地域のテニスコート整備に尽力したニュースは称賛されたし、1回戦勝利後、観客席で応援してくれていたちびっ子にオリンピック・バッジをプレゼントしたときもwow! ってみんな言ったけど、アウェイな空気が漂っていることは彼女がいちばん感じ取っている。
だからこそ、2021年の大坂なおみの足跡を「全豪勝利」「全仏での記者会見拒否からの大会棄権」「全英出場せず」そして「故国開催での聖火点灯の栄誉」とする定型があるのですが、その手のテキストを目にするたび、「故国」での仕打ちのひどさを思って暗澹たる気分になるんですよ私。

2021年全米オープン、好敵手と呼ばれるようになった新鋭ココ・ガウフは2回戦で負け、現世界1位のアシュリー・バーティも3回戦で番狂わせ敗退。でも、彼女たちの負けと大坂なおみの負けは誰が見ても重さが違ってしまっている。
頂点にのぼることだけを考え、すべてを犠牲にして生きてきた23歳が得たものが、負けたらこの世の終わりか、ってぐらいの阿鼻叫喚でした。って物語のオチとしてどう考えてもおかしいと思うんですが? 自分で選んだ世界だろ、だからこそのthe world’s highest-paid female athleteなんだろ、って言う声が大きいのは知ってるけど、私はね、そんなバカな。って言い続けますよ。

彼女が昔のようにテニスを楽しめる日が戻りますように、って気軽に祈りかけ、待って、なおみ姐さんそもそもテニスを「楽しんだ」ことってある? という逡巡がファンとしては生まれてしまうツラみ。
とりあえず言えることは「時間かけて! 好きなだけ!」かなあ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?