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MCUフェーズ4、『ワンダヴィジョン』と『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』でblipを指パッチンと訳すことに不満がある。という話

これ以上映画のサブスクリプションにカネを使いたくない。という真っ当な理由でディズニー+には入っていなかったのですが、つい魔がさして2年ぶりに加入してしまいました。そう、『ワンダヴィジョン』(2021)と『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』(2021)を見るために。
結論からいうと2作とも見てよかった。のですが、特に驚いたのは『ワンダヴィジョン』。なぜかシットコムとして始まる! その謎がついにあかされる! みたいな、エピソード公開時の情報が半端に耳へ届いていたせいで、あやうく作品の本質、ワンダの物語としての重要性を見逃すところでした。(って私のやつあたりコメントがこちら)

一方の『ファルコン~』については、描かれていなかったMCUの間隙を埋めるもの、という鑑賞前の認識から当たらずといえども遠からずでしたが(後述)、何が気になっているかというと、両作品で何度も言及されるblip

字幕では「指パッチン」とされているんですが(吹替見ないマンなのでそっちはどうなっていますか)不正確な訳出だろう、と言いたい。
サノスが指をパッチンするのはsnap、その結果生じる状況はdecimation(もともとは大量殺戮とかそういう意味だそうですね)、そうして生じた「世界が分断された状況全体」がblip、ではないのか。
作品世界で何度となく言及される際に登場人物が口にするのがそもそもsnapではなくblipで、それを「指パッチン」と訳しているせいで、世界への真摯な違和感が特にここ、日本では希釈されてしまうんですよ。
だって「指パッチン」といえばポール牧か、片岡鶴太郎とびますとびます小太郎ね(坂上二郎リスペクト)。の2択じゃないですか、俺が何を言っているのか分からない若者よ、おじさんはマウントを取りに来ているわけじゃないんだ、指パッチンということばには、どうしたって軽みが付いてしまう、そう言いたい。それなら同意してもらえると思うんだが。

Snap自体、何かにキレているときの勢いとともに使われる語彙なので、そもそもユーモラスな語感は無いと思うのですが、blipに至っては辞書的な説明「不適切な音声を消す際に入るピー音」もさることながら、たとえばバイデン政権が取り戻さなければならない、トランプ時代に起きたあれやこれやをネガティブに指す際に、blipという語が使われる印象が強いんです。
たぶんに私的な感覚ですけど。

たとえばこの英インデペンデント紙の記事見出しは(合衆国外交政策におけるトランプ政権が残した違和感の意味は小さくない)ぐらいのニュアンスに解釈しているわけ。

フェーズ4のドラマ2本に話を戻せば、たとえば『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』はblipの5年によって明白になった、自分と考え方が異なる人との絶望的なまでの埋め難さを真剣に描く作品でした。

キャプテン・アメリカが誕生時に持っていた楽観性(正義が勝つ、とか)(話せば分かる、とか)(みんなで力をあわせれば不可能なんてない、とか)はかけらもなく、ファルコンは「お、ブラック・ファルコンだ」って言われるようなアイデンティティで、彼は自分の立つ場所を探し続ける。
Blipを経た世界で為すべきことは、みたいな内省を彼のみならずウィンター・ソルジゃーも迫られ、もとから思索型のふたりだから当然とはいえ、全体のトーンが暗い-嫌いではない-わけですが、もう一方の『ワンダヴィジョン』は、体裁としてコメディなんですけど、もっとあからさまなセリフが投下されています。

5年を自分が臆病だった言い訳に使うな。
これ、現政権支持層が前政権に追従してきたひとたちに言いそうなことばで(違うかね?)もちろんそれは個が責めを負うべき事ではないのだけれど、最低でも自らに問うべきでは。みたいな、とってもややこしい要素なんですよ。
と、少なくとも私は認識しているんですよ。
……というような、思考の種を台無しにしまいか「指パッチン」というおもしろ語感。

『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018)からもう3年、使ってきている語彙なので、いまさらどうしようもないのかも* ですけど、せっかくなんでね、アメリカの政治の話でしょ。
ってところに留まらず、われわれ日本社会にも存在する分断についても、思いを巡らせたい。その際の邪魔になるような訳語は見直されるべき、という感想なのでした。

*追記
このnoteを公開したあと、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014)、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)と見たらいずれの作品でもsnapは動詞として「指を鳴らす」ぐらいの穏当な字幕が付いていました。
つまり「指パッチン」と言い出したのはフェーズ4の今回から? おまえか、おまえが犯人か、ディズニー+。

追記2
待てよ、フェーズ3もうひとつあるじゃん、そいつが怪しさでいうとナンバー1じゃん。と『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019)を見たら……やっぱり当該作品が発信源でした。
疑って悪かったディズニー+。
ただあれはね、全体が学園コメディですからね、あそこでblipを指パッチンと表現するのは自然だけど(cf. Peter Tingleをピーター・ムズムズ)そのノリをシリアスな物語にまで引っ張ってくるのはよくない、という個人的な主張は変わらないです!

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