某シャンパンメーカーに足向けて寝られない話
ホテル時代に受けたテレビ取材の話。
ある金曜日の夕方、集中力もそろそろ切れて閉店ガラガラモードに入りかけていた頃、テレビの制作会社から1本の電話が入った。
お!?テレビ!?!?!
そう思って閉店ガラガラしかけたメンタルをこじ開ける。
D:「もしもし、〇〇(関西ローカルの人気番組)という番組を制作しております●●と申します!番組の企画でご協力いただきたく・・・」
久しぶりのテレビキターーーー♪
しかもあまりテレビ見ない族の私でも知ってる人気番組!
テレビの取材依頼というのは本当に突然やってくる。
来てほしい時には全然こないのに、何を思ったか急に週3回とか来たりする。(あの波みたいなやつは、十何年やっても結局掴めんかった。なんやったんやろ)
たぶんその時は久しぶりのテレビ取材だった。
それだけに来るとかなり嬉しい!来たら逃すわけにはいかん。
もう心のシャッターはすでに全開!こちらとしては最初から24時間営業ですけど?のテイである。
早速企画内容を聞いてみるとざっくりとこんな感じ。
「タレントさんが一般人におすすめのお店を聞いて、そこに行ってみる」というもの。しかもそのロケ地は銭湯。
・お店を推薦してくれる人が必要。
・自社のスタッフによる自薦はNG。
・テレビ的に面白いキャラクターだとなお良し。
・銭湯での企画なので、もちろん裸にならないといけない。(←男湯)
・ロケはまさかの電話をかけてきた翌日の土曜日。
すっかり眠気も覚め、久しぶりのテレビ取材に前のめりになっていた私がその依頼内容のハードルの高さを理解するまでにそう時間はかからなかった。
要は、、、
テレビ的に面白く、さらに今(金曜日の夕方)言って明日(土曜日)テレビカメラの前で裸になってくれる人を探すというのが条件。
ディレクターさんとの電話を切った後、こりゃけっこう難航しそうだという予感はあった。
燃えるワ~!!(←この時はまだ呑気)
ひとまず私は手当たり次第に取引業者さん、元スタッフ、さらには自分の個人的な友人にまでロケへの協力をお願いできないか電話しまくった。
私:「あの~、明日なんですけど、テレビのロケに協力してもらえません?」
Aさん:「明日は子供の行事があって無理なんですよーすみません!」
ですよね。
Bさん:「銭湯って脱ぐんですよね?それは勘弁してください(笑)」
ですよね。
Cさん:「もうちょっと早くいってもろたらー。いきなり明日は無理ですわー」
ですよね。
ですよね、ですよねー!!
デスクで私が一人悶々と悩むなか、一人、また一人と事務所から去っていく。
忘れてたけど世の中は金曜日の夜である。
そりゃみんな繰り出すし、明日は週末。
なのに、みんなに平等にやってくるはずの週末は近づいてくるどころかどんどん遠のいていった。
その時、ある人物の顔を思いついたのである。
超メジャーなシャンパンメーカーの営業X氏。
おしゃべりも上手でテレビ映えもする。
私の心の中ではこの人がベストチョイスだった。
もうあなたしかいない!そんな勢いでXさんにTEL。
その時点ではもう先方は終業して、金曜日の夜飲み屋街に繰り出していてもおかしくない時間帯だった。
金曜日の夜に目が血走った女から悲壮なTELを受ける気の毒なX氏。
すぐに状況は察してくれ、
X氏:「えらい急ですねー(笑)岸本さんの頼みなら何とかしたいんですけど、ただ・・・・」
相手は世界的に超有名なシャンパンメーカーの営業さんである。ブランドを背負ってる身に「土曜日に休み返上で裸になれ」というのはあまりにもな無茶ブリ。
X氏:「社名が出るとなるとさすがに僕も本部のマーケチームに確認しないといけなくて、、、しかも今から連絡がとれるかどうか・・・」
コラボイベントをするとなると、テーブル装花の色指定までしてブランドイメージを守り抜くガチのマーケチームに果たして「関西ローカルのテレビに裸で出る」ことが許されるのか。(細部にまでこだわりブランドに合った世界観をチームで作り上げる徹底的な姿勢はこのブランドからかなり学びを得ました。)
時間は20時半過ぎ、いや21時を回っていただろうか。
オフィスにはもう24時間営業を覚悟した私一人しかいなかった。
社内でこの状況をシェアできる人がいない寂しさ。時には人海戦術でゴリゴリやってかないといけない時もあるわけで、こういう時広報がチームだったら、と思う。
人気番組の取材がとれるかどうかの瀬戸際にのたうち回ること数時間。
とうとう、X氏から電話がかかってきた。
X氏:「岸本さん、困ってるんですよね?もう本部と連絡とれないし、直属の上司に相談したらOKになりました!」
どうやらその上司曰く、「もう困ってはるなら協力するしかないやろ。本部に何か言われたら俺が責任取る」ということのよう。
なんたる男気だ。男前すぎる。ブラボー!!!(事務所で一人スタンディングオベーション)
私はもうそのシャンパンメゾンに足を向けて寝られませんよ。
私が万が一結婚式なぞするときはオタクのシャンパン一択ですよ。
自分の誕生日には必ず自分で買って飲みますよ。
すぐに担当のディレクターさんに電話を入れた。向こうももう半ばあきらめ気味だった。(本当はもう次の取材候補を探し始めていたかもしれない。)
なのに、この広報の諦めの悪さったら、、、
私:「見つかりましたよ~!明日のロケ大丈夫です!!」
D:「マジですか!よくOKでましたね!!!ありがとうございます!ほんま良かったです!」
そして撮影の段取り諸々を早口で確認し、やっと終わった。とホッとしかけたところにそのディレクターは続けて私にこんな言葉をかけてくれた。
D:「いや~、岸本さん。僕ね、テレビの仕事してていろんな広報さんとやりとりしてきたんですけど、こんなに本気で動いてくれる人は初めてですよ。びっくりしましたわ。ホテルの評判は良く聞いてたんですけど、お客さんに支持されてる理由が今わかりました。さすがです!」
電話を切った後、安堵と嬉しさで目から汁が出た。
X氏のおかげで無事ロケは終わり、予定通り番組も放送された。
放送終了後にはそのレストランに何十件もの予約の波が押し寄せた。(ありがたい)
その夜、私は家に用意してあったシャンパンで一人祝杯をあげた。
もちろん世界的に超有名で私が足を向けて寝られない某シャンパンメーカーのものである。
ホテルの広報をして一番学んだことは「メディア関係者も取引先もお客様として扱う」ということ。暑苦しいくらいのおもてなし精神で挑む。
おかげで、取材後本当にうちのホテルを気に入って、プライベートで後日訪れてくれる方も少なくない。
その後、そのディレクターさんからは別の番組企画でもたびたび連絡をくださるようになった。もう何年も前の話なのに個人的に年賀状のやり取りも続いている。
この仕事をしていてモチベーションが下がりそうになったらたまに思い出しては自分の原動力にしているちょっと暑苦しいエピソードでした。
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