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札幌でおいしいお酒とごはん #4「新千歳空港のバー」(佐々木禎子)

 空港のバーには、ゆるい、その場限りの出会いがある。
 そもそも酒って、私にとってはマスキングテープみたいなものなのだ。人と人を、ちょうどいい感じに出会わせてくれる。手軽にくっつくけど、すぐに剥がせる。剥がした跡も別に残らない。美味しい酒のつまみに最適な、美味しい他人の人生を、さらっと、そのとき、そのバーで楽しくお酒を飲みながら、ひとつまみずつ。

 というわけで新千歳空港ターミナルビル三階にあるバー『THE EARTH rook & tarry』は私の推しなので、移動のときに時間を作って、よく寄ります。
 昼酒が好きなので。
 北海道のお酒がたくさんある。それ以外のお酒もたくさんある。バーだからな!

 今回は、空腹だったため、とりあえず余市フランボワーズ・マルキでスタート。

「甘いもんが欲しい」
 になったのです。スイーツセットじゃなく酒で甘みを取ろうとした。
 いきなりのリキュールで甘い酒を白ワインで割ったカクテル。見た目がかわいいしこれはスイーツであると言い張る。
 余市にあるリキュールファクトリーさんのお酒です。
 https://www.yoichi-lf.com/

 脳内で「なんでいきなりこれ飲んでるんだ」と思いながら、次にOhoroのジントニック。


 https://niseko-distillery.com/ja/product/ohoro-gin-2


 これがものすごく私のなかでヒットでした。飲みやすくて爽やかでジントニックにするのは最適。自宅お土産用に空港の酒屋さんで買いました。
 北海道のジン、私のなかでいまとても熱い。蒸留所たくさんできてますよね。ぽちぽちあちこちのジンを飲み比べている最中です。
「お土産に買うのに、お酒試してみたくて」
 という話をしながら、ふと「空腹のままなので酔うな」と、そのときになってチーズの盛り合わせをもらう。



 オーダーのタイミングがことごとくずれているというか、頼み方のセンスが悪いのは、仕方ない。空腹と疲労でよれよれなのだ。という言い訳を自分にかまし、白ワインをグラスで追加。
 あとはまあ、ぽちぽちっと、ね。
 他にもいろいろとおすすめのお酒をうかがったりして。

 
 こちらのバー、コロナが流行る前は何杯が飲むうちにカウンターのお客さんと仲良くなって話が弾んで、一杯、二杯と奢ったり、奢られたり、美味しいものやおすすめのお店の情報を教えてもらったりとか、毎回のようになにかしらの誰かと交流がありました。
 というか、店がというより、私が、そういう飲み方をする人間なのだ。けっこう店で、知らない人と話す。
 美味しい酒や食べ物の情報のやりとり本物ですが、実は、私は、仕事の話になると、嘘の職業を名乗る。
 作家ですっていうのがちょと面倒くさくて。なに書いているんですかって言われて作品名を出しても相手は知らないだろうし「へー」みたいになって「すみません。僕、実は本は読まなくて」みたいな流れになることが多いので、別に言わなくてもと思って。
 そのときどきで適当なことを言ってきた。
 しかし、一度だけ「あなたに仕事を頼みたい」と言われ名刺を渡されそうになったことがある。
 嘘の仕事だったんで、焦りました。
 なぜ、こんな昼から酒飲んでぐだぐだしている女に仕事の依頼をしようと!?
「いま、新規案件受けてないんです。ありがたいことに手が足りないくらい仕事をいただいておりまして。名刺頂いてもご連絡できないので。またここで出会うことがあったら」
 と、ひやひやしながら頭を下げた。
 次にあの方にお会いしたら「あれは嘘でした。実は作家です。申し訳ないので、一杯、奢らせてください」と言おうと思ったまま、緊急事態宣言が発令され、バーに足が遠のくようになり、いまだ私はその人と再会できていない。
 
 なぜか網走が本店で、新千歳空港のバーは支店です。
 本店は居酒屋も経営されていて鯨肉が美味しいらしい、まだ網走の店にいったことがないのでいつか行きたい。
 私は、ずっと空港にあってて欲しいんだ。バーがあってて欲しいんだ。移動のはざまにふわふわと酒を飲ませてくれよー。
 がんばってねと、毎回、お酒飲むたびに思っている。
 私にとっては、そういう店です。

THE EARTH
rook & tarry
千歳市美々 新千歳空港ターミナルビル3F/0123-46-3959
http://www.theearth1990.co.jp/rook-tarry

文章・佐々木禎子(お酒の好きな作家) 
https://twitter.com/cheb1988
http://instagram.com/cheb1988/

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