グレーのスーツの人

【某ミュージシャン様のコンセプトアルバムに出てくるあの人をモチーフに勝手に妄想しまくったお話です。誤字脱字あると思います。日本語変だと思います。m(_ _)m
あと、最後まで読まないと成立しないのでぜぇーったい最後まで読んで下さいね!じゃないとおやしろ様が君を、、、
(・ω・)】

1

 そのタクシーに乗るまでに何度か周りを見渡した。娘の通う保育園で知り合ったママ友や夫の職場の人や夫側の親戚のおばさんだとか、誰か私を知っている人間がいるかもしれない。家族には新宿まで行く事を話していない。もし、誰かに見かけられてそれを家族に話されては面倒な事になる。そう思いながら歩いた。
 万が一、見かけられても人違いで済むように、普段とは系統の違う服を持参して西口の京王デパートの2階女子トイレで着替えた。2年くらい前に西友の衣料品売り場で買った地味なブラウスと5年くらい履いてる黒のジーンズと、かかとがすり減ったパンプスをコインロッカーに入れた。いつも履かないようなハイヒールを履いて、メイクも濃くして雰囲気を変えた。それにここは私の住んでいる所から電車で一時間ほど掛かる場所できっと私を知っている人はそういないはずだ。

 「西新宿までお願いします」タクシーの運転手に行き先を伝え、ハンドバッグから小さな鏡とグロスを取り出して唇に少しだけグロスを塗った。車内は冷房がよく効いていて、汗ばんだ肌から心地良く熱が引いていく。家を出る前に観た情報番組の天気予報では「都心は例年より暑くなるので、こまめな水分補給を」と若い女のキャスターが言っていた。そのキャスターは先週下品な週刊誌に不倫疑惑の記事が取り出されていたのに「そんな事は関係無い」みたいな態度で番組に出てたから、どういう神経してるんだろうと思ったけれど自分も同じ様なことをこれからするのだと考えたら、あのキャスターと一緒だと思って見下すのを止めた。腕時計を見て時間を確認する。待ち合わせの時間には十分間に合う。

 タクシーは西新宿にある高層ビル群の中の1つの建物の前で止まった。その建物は4階までは商業施設、42階までがオフィスで、それ以上の階は外資系シティホテルになっている。一度周りを見渡してエレベーターに乗りこんだ。待ち合わせしたラウンジがある43階のボタンを押してから、壁により掛かり一息ついた。

 「彼」に会うのは1ヶ月ぶりだった。エレベーターのドアが開くとそこは天井が高く、全面ガラス張りで日差しが差し込む明るい雰囲気のラウンジだった。私は「彼」を探す。

2

 時間は午後2時を回っていて、席の6割が埋まっている。その中で「彼」をすぐに見つける事が出来た。窓際のソファー席に座っていて肘掛けに腕を置き、足を組んで窓の外を眺めていた。「彼」はただ座っているだけでも絵になるような男で、背が高く、手足が長い。切れ長で茶色の瞳、高い鼻、丁寧に整えられている眉、全体的に冷たい印象だけれど笑うと目が細くなって顔がくしゃっとなるのを私は知っている。

「こんにちわ、平凡さん」
平凡さんは顔をこちらに向けて、相手が私だと分かると柔らかい笑顔になった。
「今日はなんだか雰囲気が大人っぽいね」
「うん、少しメイク濃くしてみたんだ、変かな?」
「似合ってるよ」
そう言って優しく微笑んでくれた。

私は平凡さんの本名を知らない。いつだかその理由を尋ねた事があった。

「平凡でいる方が楽なんだ」
「どうして名前も「平凡」なんですか?」
「僕は目立つのが好きじゃないし、洋服とか車とかそれほど興味が無くて、勝ち負けとか誰かの上に立つとか下にいるだとか、そんなのもどうでもよくて、たまにいるでしょ?「他人を見下してないと精神保てない人」そんな事をしなくても僕は生きていけるんだ。19ぐらいの時からかな「普通でいる、個性が無い、どこにでもいる奴」そうやって自分を消した生き方をしていく方が楽な事に気がついたんだ。その後付き合った子に「あなたって中身が平凡過ぎて面白味がない。コージョーシンってのが無いのね。ほんと見た目だけね平凡クン」って皮肉言われてさ、でも不思議とそれがしっくり来たんだよね、平凡って」
確かそんなようなことを言っていた。平凡さんが平凡を装う程にそれが非凡になっている気がする。余計な物を削ぎ落とされて洗練された本質が際立っている。そして「落ち着いていて知的」という印象が残り、見る人の視線を引きつける。初めて会った頃、その頃は、夫や職場の男性以外の男と話すのが久々だったのもあるけど、それよりもなによりも「平凡さん」は全然平凡じゃなくて魅力的だと思った。

 2人で会うのは今日で8回目になる。
「なにか飲む?」
平凡さんはウェイターを呼び、メニューを受け取って私に見せてくれた。そしてグラスビールを2つ頼んだ。4つ隣のテーブルに座っているおばさんが大きな声で笑った。その下品な笑い声はこのラウンジには合わない。
「今日はずっと一緒にいられるんだね」平凡さんは恥ずかしそうに視線をテーブルに落として言った。
「この前ね。僕の友達が、大学の時の友達なんだけどね、ここで結婚式を挙げて・・・

3
  私達の出会いはちょっと変わっていた。
去年の12月、信濃町にある大きな病院に入院していた叔母のお見舞いの帰りだった。その日は冷たい風が頬を突き刺すようなとても寒い日で、雲の位置が低く、いつ雪が降り出してもおかしくないような、どんよりとした空だった。駅のホームの自動販売機で買った、温かい缶コーヒーを飲みながら各駅停車の電車を待っていた。
 ふと右の方を見ると、近くにいた白髪のやせ細ったおばさんが少しずつ前に歩き出している。快速電車が通過するアナウンスが流れているのに変だなとぼんやり見ていた。左の方からは、快速電車の音が小さく聞こえてきた。おばさんは身を乗り出すようにして電車を見ていた。異様だと思った。とても寒い日なのにコートやダウンを着てない。足元もサンダルだ。おばさんの目は見開いてる。祈るように胸の前で両手を合わせ、体を上下するように大きく呼吸をしていた。「白線の内側に下がって下さい」駅員がマイクを通しておばさんに言っているけど無視している。

快速電車が進入して来る。それと同時にやせ細ったおばさんは倒れるようにホームへ身を投げた。私はとっさに顔を背けた。

 額からじんわりと嫌な汗が出てきて脇からも汗がにじみ出て来るのが分かって、喉に異物が詰まったような感覚がして呼吸がしづらくなった。すぐに警報音が鳴ってしばらくは止まらず、おばさんの顔と何かがどこかに当たってした金属の甲高い音と鈍い衝撃音と電車のブレーキと女の悲鳴と全ての情報が一気に脳内を駆け巡った。足が震え出して立ってはいられなくなり、その場に座り込んでしまった。おばさんがホームへ落ちる映像が焼き付いてしまってそれが中々消えない。意識を違う事に向けようと手に持っていた缶コーヒーを見続けた。●開缶後はすぐにお飲み下さい。コーヒーや乳成分が固まる場合がありますが、品質には問題ありません。●破裂することがありますので、容器のままで、電子レンジ、湯煎、直火等で温めないで下さい ●お問い合わせはお客様相談室まで。

 黄色い反射材の付いたベストを着た人達や警察官がホームにやって来てブルーシートを広げている。無線を使って誰かと話している駅員。ひでぇなと呟くサラリーマン風の男。辺りは騒然としていた。スマホを向ける野次馬もいた。

 私は見てはいけないものを見てしまったんだ。なんで私が、なんで今日なの、なんで今なの、身内ならまだしも名前も知らない他人の死に際だなんて誰も見たくないのに。怒りなのかショックなのか自分でも訳が分からなくなり泣き出してしまった。その時、1人の男がそばに近寄り「大丈夫ですか?」と声を掛けてくれた。顔の綺麗な男だったので私はもっと複雑な気持ちになった。
「ここだと冷えるから。改札の方に行こう、立てる?」
立てないと顔を左右に振り、下を向いた。男は泣いてる私を背負い、野次馬の間を掻き分けてエレベーターに乗って改札階へ向かった。「もう大丈夫だよ。」そう言ってくれた。男はとても手触りの良いロングコートを着ていたので私は泣きながら今までこういう手触りの良いコートを着るタイプの男と付き合った事は無かったなと思った。セイシンとかフェリスとか出てて小さい頃から親に丁寧に愛されて育ったような女だったら、こういう男と付き合えたのだろうか?そういう女は1袋88円の食パンだなんて食べないだろうし、安いチェーン店の焼き肉屋なんて行かないと思う。きっと私とは正反対の綺麗な女がこの男とキスしたり、抱き合ったりする事が出来るんだろうなと考えた。

 男は私をベンチに座らせてくれた。持っていたタオル地のハンカチで涙を拭ってくれ、温かいお茶を買って飲ませてくれて落ち着くまで何も言わずに隣にいてくれた。涙と鼻水で男のロングコートの肩辺りを少し汚してしまったのでクリーニング代を渡そうとしたけれど断られてしまった。その代わりに、後日お礼を兼ねて食事をする約束をした。
「お名前を伺っても良いですか?」
「平凡です、平凡って呼んで下さい」

 窓から外を見ると雪が降り出していた。復旧するまであとどのくらい掛かるか分からないから、僕はタクシーで移動すると言って平凡と名乗る男は去って行った。あの人にまた会えるかもしれない、その事で頭が一杯になり、電車が復旧しだす頃には飛び降りたおばさんの映像は薄れていた。

4
 
 あの出会いから私は月に一度平凡さんと会うようになった。最初の方は喫茶店で会う程度で済んでいたけれど、会う度に仲が深まっていった。先月、新大久保のタイ料理屋でランチを食べて店を出た後に平凡さんが、私の目をジッとみて「もう少し一緒にいたい」と言った。いつもと違う雰囲気だった。その意味をすぐに理解する事が出来た私は頷いて「1時間だけなら」と答えた。1時間だけなら娘の保育園の迎えに間に合うし、多少遅れても電話しておけば構わない。

 近くにあった古びたラブホテルに入った。受付のおばあさんから受け取った鍵には403と書いてある。「エレベーターは右の奥にありますから」おばあさんは私たちの顔を一度も見る事はなかった。
エレベーターから若い女の子が出てきてその子はすれ違う時に平凡さんを見ていた。エレベーターに乗り「ねえ今の子「フーゾク」の子かな?平凡さんの事見てたよ」
「そう?全然わかんなかった。好きな子以外キョーミ無いね」そう言って私の右頬にかかる髪を長い指を使って耳に掛けてくれた。

 部屋に入って先にシャワーを浴びる。下腹部に薄く残っている妊娠線を指先でなぞってみる。平凡さんがこれを見て気分が下がったら嫌だな。浴室から出ると平凡さんはこちらに近寄り、私の肩に手を置いて頬にキスをしてくれて、浴室に向かって行った。テーブルの上に置いてあったガラスの灰皿には2本の吸い殻があった。平凡さん緊張してたりして、そう考えたらかわいらしく思えた。

クーラーをつけるとカビ臭いような匂いがしてすぐに消し、窓を少し開けた。澄んだ青空の西の方に大きな入道雲があった。浴室の方からシャワーを止める音が聞こえた。私の中で緊張が生まれる。のどが渇く感じもした。

「いい?」平凡さんがそう聞いてきたから「うん」と頷いた。窓から入ってくる蝉の鳴き声を聞きながら、私は平凡さんを受け入れた。平凡さんの肌から漂うボディーソープの香りが鼻の奥の方に入り込んできて、それは私の「日常」を消した。

「ねぇ聞いてる?」
顔を覗き込む平凡さんの顔は子供みたいで可愛いと思った。
「え?なんの話だっけ?」
「チェックインは済ませてあるから、それ飲んだら行こうよ。あとね、最上階にバーがあってジャズの生演奏があるみたいだから夜になったらまた来ようよ、ね?」

5
 誰もいない静かで長い廊下を平凡さんと手を繋ぎながら歩くのは、とてもいい気分だった。ラウンジのウェイターやホテルの従業員、エレベーターで一緒になったアジア系の観光客達からは、僕達きっと恋人同士に見えたんじゃないかな、そう言われたからドキッとしてしまった。周りからはそう見えるかも知れないけど本当は違う。今日みたいに泊まりがけで会う事も、もう無いと思う。品川にある業務用食品メーカーに勤める夫は3日間福井へ出張中だ。娘は午前中に近くに住む夫の実家に預けてきた。「たまには1人でゆっくりしていいのよ。息抜きも大事よ」とお義母さんは言ってくれて、もちろん男に会うだなんて言ってなくて、それは申し訳ないと思っている。
 
夫には昔の職場仲間との飲み会と言ってあってLINEをしたら「了解」返事はそれだけだった。

飲み会は定期的にあるものなので疑わったりしない。そもそも夫は私に関心を持たなくなった。それは娘が生まれてからだ。出産後に夫に肌を触れられるのが嫌になってしまい夜の誘いを全て断っていた。出産したばかりの女性の体は急激なホルモンの変化のせいで、夫にすら嫌悪感を感じてしまうことがある、と本で読んだことがあるし、市でやっているママ教室でその話題をした事があって何人かの人も同じように思っている、と言ってくれたからそれは珍しい事では無かった。私だけが異常というわけではなかったのだ。夫に話しても理解してくれなくて、初めての育児に疲れていた事もあって夫婦の仲がギクシャクしていた時期があった。夫の事は大切だと思っている。けれど仲が良かった新婚当時のように戻ろうという事自体が面倒になってしまった。

 今はそんな事考えない方がいい。気分が下がってしまう。平凡さんといる時は平凡さんの事だけを考えていよう。

6
 部屋に入り、クローゼットを開け、羽織っていたジャケットをハンガーに掛けると平凡さんは私に抱きついてくる。「ずっとこうしたかったんだよ」長くて美しい指が優しく髪を撫でてくれる。平凡さんのシャツからは柔軟剤と汗とタバコが混ざったような匂いがして、それは堪らなく好きな匂いだと思った。重ねた唇を離して、目を見つめると恥ずかしくなって、照れ笑いをした。「笑わないで」そう言って平凡さんも笑顔になった。

良い雰囲気だけど汗をかいたからシャワー浴びたい。
「ちょっと・・。シャワー浴びて来ても良い?」


その時だった。突然目の前が真っ暗になった。

ドアをノックする音が聞こえる。
「失礼します 北。様 お時間になりました。ご延長はいかがなさいますか」
「なんや?もう時間かいな」

私は装着していたVR装置を外した。天井の蛍光灯が眩しく感じて目を細める。

「姉ちゃん延長30分でなんぼや?」
「6000円になります。」

「高いなぁ 高すぎん?あかんで。それ払ったら私な大阪帰られへんやん」

「平凡君は人気のキャストさんになりますので別途指名料が掛かります」
「そんなこと最初に聞いてないで!」指名料だなんて説明が無かったので、ついカッとなって大声を出してしまった。
「決まりですので」
一瞬、店員の顔が曇り、声の質が変わったような気がした。まずい。出入り禁止になんかなってしまったらもうここへは来れない。平凡さんと二度とデート出来なくなる。

「そうかいな。まぁええわ明日また来たるからなあ」
そう言って規定の料金を払い、雑居ビルを後にした。

その日の夜、事前に調べておいた赤羽にある安いカプセルホテルに泊まり、発泡酒を飲んで明日あのVRの中の平凡さんにちゃんと「好きだ」と伝えよう、そう決めた。

翌日、またあの雑居ビルに行くと建物の雰囲気が違う事に気づいた。VRデートクラブの店があった5階に行くと東南アジア系の女が出てきて、「イマカラハ、無理です」と言った。後ろには病院の病室みたいにカーテンが引いてあって、レジが置いてある台の下には台湾式マッサージと書いてある。その隣に、うつ伏せになった人間の背中を猫がマッサージしているイラストが書かれてあった。
「あの、VRデートクラブのお店ってここにありましたね?」
「ここ、ズット、マッサージノミセ」不思議そうに見つめる女。
「でも私、昨日ここに来たんです。女の店員の人とも話したんですよ?」
「店長サンヨブ?」
私はそのマッサージの店を出て雑居ビルを見上げる。やっぱり昨日見た感じとは違う。私が昨日いたあの店はいったいなんだったのでしょうか?

これが私の体験した本当にあった怖い話です。

トゥールールルールー♪
(本当にあった怖い話のテーマ)

嘘ダッ!!!

いかがでしたか?ちゃん。北ワールド
近い将来、女性向けアダルトVR個室が出来る事を願っています。プレオープンの際は呼んでくんろ!

追記
シーマアイシテマス(o^-^)