【コラム】「概念のリバースエンジニアリング」という考え方

Google で行われているマインドフルネスの研修について書かれた『Search Inside Yourself/チャンディー・メン・タン 著』という本の序文で、『EQ こころの知能指数』の著者であるダニエル・ゴールマン氏がこんなことを言っている。

 (ゴールドマン氏がGoogleでEQについて講演を行った際、)会場に着いて驚いた。そこは本社「グーグルプレックス」のその区画では一番広い部屋だったのだが、大勢の人が廊下にまであふれていたのだ。明らかにみな興味津々だった。
グーグルでは、私がこれまで講演したなかでおそらく最もIQが高い聴衆に向かって話をしていたことになる。だが、その日私の話を聞いた頭脳集団のなかで、EQの逆行分析(リバースエンジニアリング)をする頭をもっていたのはメンだけだった。メンは素晴らしい洞察力によってEQを一度分解して再構築した。EQの中核を成すのは己を知ることであり、それを実際に心にやらせるための最善の方法は、「マインドフルネス」と呼ばれる心のトレーニングであることを見て取ったのだ。
(Search Inside Yourself pp.14-15)

ここで出てくる「リバースエンジニアリング」の使い方にあまりにも感動してしまい、本編に入る前なのに、ここで一旦読むのを止めてしまった。

ちなみに、リバースエンジニアリングとは技術用語で、既に出来上がっている製品等に対して何かしらの改造を加えることを言う。例えば、イヤホンジャックのないステレオの基盤をいじってジャックを付けたり、見た目がイケてない勤怠管理サービスの見た目部分を別の物に差し替えたりすることだ。ちなみに、どちらも違法性が極めて高い。

一方、このゴールドマン氏の序文では、リバースエンジニアリングという言葉をEQという「概念」に対して使っている。

まず、メン氏は「瞑想という考えを世に広げたい」と考えていた。しかし同時に、瞑想という概念は簡単には受け入れられない(ちょっと怪しいイメージがある)とも理解していた。また、メン氏は自分自身の経験から「瞑想はトレーニング可能」ということを知っていた。最後に、「瞑想を続けていると自己認識力が高まる(自分自身の情動を細かく、鮮明に認識できるようになる)」ということも、経験や先行者の教えから理解していた。

この状態でEQについての講演で「情動的能力」として「情動の自覚」「正確な自己査定」「自信」の3つがEQの面では必要と説明した。この時、メン氏はこれが「瞑想によって得られる物と同じ」であることに気づき、「EQを高めるトレーニングとして瞑想の研修を作成すれば、(EQに興味のある)Googleの社員はみんな受けてくれるのでは」と考えたのだ。(そしてGoogle屈指の人気研修プログラムになり、本にもなり、この研修は世界中で誰でも受講できる形で行われるようになった)

これは簡単そうに見えて、自分が専門にしている領域への広い理解と、リバースエンジニアリングする対象への深い洞察がないと出来ない。自分の周りに広く受け入れられている概念があったとき、それをリバースエンジニアリングして、自分の畑に持って来れないか、注意深く考える癖を付けようと思う。

なお、この文書はブログに書いた物を転載したものです。