文芸・ジャーナリズム論系教員有志5名による文書についての見解

早稲田大学文化構想学部文芸・ジャーナリズム論系の専任教員5名の署名入りの文書(2019年7月17日付)が、文学学術院の教員レターボックスに配られています。

文書にはわたしと市川真人氏の実名が挙げられており、受け取った教員のかたたちからの問い合わせにより、その存在を知りました。

内容をあらためましたが、この文書には著しく偏った情報が記載されています。

文書で触れられている件については、すでに当事者の視点から、3月19日に一連の経緯に関する手記を公開しましたが、

今回の文書は、不特定多数の教員に配られていることにくわえ、文書を受け取った教員から話を聞いた学外のかたからも問い合わせがあり、すでに学外にも流出していることから、実名を挙げられた当事者として、問題と思われる点について見解を表明します。

〈文書書き起こし〉
2019年7月17日
 このたび、わたしたちは「笙野さんを支える会」を立ち上げました。
 すでにご承知の方もいらっしゃると思いますが、笙野頼子さんは『蒼生』2019年号(発行・早稲田大学文化構想学部文芸・ジャーナリズム論系)に、「文学とハラスメント」特集を企画した学生たちの求めに応じて「これ?二〇一九年蒼生の解説です」を執筆されました。この原稿をめぐって、市川真人(早稲田大学准教授)氏と北原美那(「早稲田文学」編集者)氏が「名誉を毀損」されたとして、各330万円、計660万円の「損害賠償」を求めて訴訟を起こしました。
 笙野頼子さんの原稿については、文芸・ジャーナリズム論系の教室会議の折に、長時間をかけて会議の参加者が各自、丹念に原稿に目を通し、その上で、一人ひとりが原稿に問題点があるか、掲載してよいかどうかの判断を表明し、大多数の者が掲載に問題はないと判断し、その理由をそれぞれの言葉で表明し、確認しました。
 しかしながら、残念なことに、『蒼生』に掲載された笙野さんの文章が「名誉毀損」の訴訟の対象にされ、これから長い期間に渡って裁判がつづき、膨大な時間と費用を余儀なくされます。ご病気を抱え、ただでさえ難しい状況のなか、学生たちの求めに原稿料もなしに応じてくれた笙野さんとその裁判を支えるべく、わたしたち文芸・ジャーナリズム論系所属の教員有志は「笙野さんを支える会」を立ち上げ、このたびみなさまに、笙野さんの支援をカンパと署名というかたちでお願いしたいと考え、この手紙を差し上げております。事情をご理解の上、なにとぞ支援のほど、よろしくお願い申し上げます。
 ご賛同いただけた場合、みなさまが信頼する方々にだけ、この呼びかけを拡げていただけますと幸いに存じます。
 なお、振込先は以下の通りです。

早稲田大学文化構想学部文芸・ジャーナリズム論系
(以下署名五名)
(振込先口座情報)


1. 文書には、わたしと市川氏が笙野頼子氏に対し訴訟を起こしたこと、その賠償請求金額まで記載されていますが、肝心の訴訟にいたった記事内容や係争の焦点については書かれていません。

笙野氏は寄稿において、「自分たちの企画が妨害された」という依頼者の学生の発言をもとに主張を展開し、わたしと市川氏を批難しています。
しかし、そのような妨害は事実として存在しません。学生の立案した企画は授業内の正当なプロセスを経て掲載に至っています。
この寄稿はハラスメントの実名告発のかたちをとっていますが、笙野氏は執筆にあたり必要な事実検証を行っていません。

「蒼生」は本来の配布対象である論系学生たち以外に、学外にも多く献本され、話題になったほか、早稲田大学の図書館にも所蔵され、学外からでも期限を問わず閲覧することができる刊行物です。
一度刊行された以上、著者はその記事の及ぼす影響に責任を負います。すでに刊行されてしまった出版物に事実ではないことを書かれたことにより不当に貶められた社会的評価の回復について、わたしは法的手段に訴えるしかありませんでした。

2. 手記にも記したとおり、わたしは原稿の到着時から、教育現場にとって本質的な問題は笙野氏の寄稿にある「ハラスメントを受けた」という学生の主張だと認識し、責任主体である論系、文学学術院教務に問題解決を求めました。
しかし両者ともにこの訴えに対し事実確認も調査も対応もおこなわないまま、論系は笙野氏の寄稿の掲載のみを即日決定し、教務はそれを追認しました。
当時の論系主任であった堀江敏幸氏は、笙野氏の原稿到着以前より、当該学生への指導を放棄し、履修生を含む関係者に対する複数の虚偽や、わたしへの圧迫、名誉毀損行為を主導しました。
こうした堀江氏のパワーハラスメントによる不法行為について、笙野氏への提起と同日、わたしは堀江氏へ民事訴訟を提起しています。
しかし文書では、発起人のひとりである堀江氏が、この件について論系主任として法的責任を問われていることは、まったく書かれていません。
つまり名を連ねた「文ジャ有志」5名は、名誉毀損記事の発行主体として責任をすでに問われ、あるいは今後問われかねないという事実を伏せたまま、笙野氏への金銭的援助を呼びかけています。

3. すでに書いたとおり、論系は「ハラスメントを受けた」という学生の主張を記載した笙野氏の寄稿に対し、事実確認や調査を行わず、即日掲載を決定しました。
文書にある、論系で行われたという「議論」の詳細について、誰が参加し、どのような意見を交換し、資料や過去の事例が参照され、討議がおこなわれたのか、論系から当事者であるわたしには伝えられていません。
より具体的にいえば、この会議には、開始直前に堀江元主任から参加を約束されたものの最後まで呼ばれず、2日後に、笙野氏の寄稿が「作品として完成しているので修正等はできない」という結論に至ったことだけが堀江氏からメールで伝えられました。その内容は手記に載せたものが全文です。以降、いっさい連絡はありません。

4. 
文書にて、わたしの実名とともに(「早稲田文学」編集者)と紹介されています。
まるで発起人たちの所属論系と無関係の学外者のように書かれていますが、笙野氏の寄稿においてわたしは、文芸・ジャーナリズム論系の授業担当の非常勤講師として登場し、その行動について不当に中傷され、名誉を毀損されました。
この事実をあらかじめ知らない状態で文書を読んだとき、そのように認識することは果たして可能でしょうか。(同じく市川氏についても、言うまでもなく発起人たちと同じ文芸・ジャーナリズム論系の専任教員です。)

9月からは、同じくこの文芸・ジャーナリズム論系で、わたしが担当する今年度の授業も始まります。
つまりわたしは、自分の知らないうちに、自分の職場で、不特定多数の教員に対し、訴訟にかかわる個人情報を公表されていたことになります。

もちろん、司法に頼らざるを得なかった以上、こうした情報が原理的には誰にでも公開されていることは承知していますが、
上述のとおり、誤りや著しく偏った情報による印象操作がおこなわれていること、発起人5名が、文学者個人としての立場などではなく、論系の教員の立場でそこに名を連ねていること、
いずれも公平性を欠き、本来果たすべき責任を放棄したもので、とても納得できるものではありません。


すでに然るべき機関に相談し、対応を講じていますが、いずれにせよ時間がかかることでしょう。
冒頭にも記したとおり、この文書は、わたしや特定の教員数名には配られておらず、だれにどのように渡っているのかわかりません。
また、文書は寄付を呼びかけるものであり、第三者の金銭授受にかかわる事柄でもあります。
そのため、誰にでも見られるよう、ここに文書に対する見解を表明します。

末筆になりますが、今回の見解では、民事訴訟の被告である笙野頼子氏、堀江敏幸氏、原告である市川真人氏について実名で表記しました。
堀江氏を含む発起人5名は、いずれも多くの学生を抱え教鞭をとっている現役の教員です。この見解は、学生たちの混乱や、実名が出たことによる炎上を目的としたものではないため、残りの4名については実名を控えて説明しています。
個人的には、いずれも高名かつ責任ある地位にあるかたであり、署名によって文書の内容の正当性が保証されて見えることを危惧していますが、
たとえだれが発起人であっても、内容や経緯、配布の方法について納得できるものでないことは言うまでもありません。


該当の文書を受け取ったうえ、さらなる説明等をお求めの学内の関係者のかたは、コースナビ経由でわたしの学内アドレスが検索できるはずですから、そこから直接お問い合わせください。


北原美那


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