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NO.12『鍵』

母の様子も少しずつ変化してくる日々。
分からせたい、なおしたい。という事よりも、どうしたら一緒に生きていけるか、お互い気持ちよく生活できるのか。
そんな事を考えさせられる出来事がありました。
ちょっと聞いて~

へっぽこ娘

母は相変わらず毎日探し物をしている。物がないと盗まれたと言っては主人を疑い、私が時間を費やして見つけてあげてようやく母が落ち着くという繰り返しの毎日だった。私はそれが嫌なので、探さなくても済むように色々工夫をしているが、それにも限界がある。

例えば畳んだ洗濯物を母に渡すと、とんでもないところにしまい込んで、いざそれを着るときに、しまったことを忘れて盗まれたと言い出すので、母には渡さず必ず私がクローゼットの所定の場所に入れるようにしている。ところが、干してある洗濯物を勝手に持って行ってしまうことがあるので、母の動きにはいつも注意を払っていた。

たまに母が「下着が一枚もない。盗まれたわ」と言うので「ちゃんとあるでしょ?」と言いながら母の部屋に行くとクローゼットの中が空っぽなんてこともある。整理しようと思ったのか自分でクローゼットの洋服や肌着を全部出して大きなエコバッグや別の収納ケースの中にメチャクチャにしまい込むのだ。そうすると、そこから1枚の肌着を見つけるために私が洋服全部をひっくり返して探さなくてはならない。そうならないように私が所定の場所に入れているのに…とこれが続くと疲れ果ててしまい、時には「時間がないから自分で探して」と冷たく突き放してしまうこともあった。

最近では自分の部屋だけでは飽き足らず、母は私の部屋にも入ってきて物を探すようになっていた。その度に「ここにはおばあちゃんの物は置いてないからね。きっとおばあちゃんの部屋にあるよ」と説得していたが、先日私が買い物から帰ってくると、その間に母が私の部屋に入ったらしく、泥棒が入ったかのようになっていてビックリした。私の大事なバッグがひっくり返され、取り出したものが散らばっていて、引き出しの中身も引っ張り出し、さらには仕事で使うノートパソコンを開け、無造作にベッドの上に置かれているのを見て、ここまでやるのは初めてだったので、カーッと頭に血が上ってしまい「何やってるの!仕事で使うパソコンなのよ!壊したらどうするの!もういい加減にして!」と怒鳴ってしまった。

母は少しびっくりしてから怒ったような表情になり「私は何もやってないわよ!」と知らん顔で普通に言った。「こんなことする人、他にいないわよ!」そう思いながら何だかすごく悲しい気持ちになり、それ以上の言葉が出なかった。嘘をついているとか、シラを切るとかではなくて、本当にわからなくなってしまったんだなと、母の表情からつくづくそう思ったからだ。

もうこんなやりとりはしたくないのと、母に罪を作らせたくない思いで、仕方なく私の部屋のドアに鍵を取り付けた。

聞いてくれてありがとう。

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