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800年前のジャーナリスト

 宮崎駿監督作品の長編アニメ映画『君たちはどう生きるか』がゴールデン・グローブ賞を受賞された。誠におめでとうございます。
そして、宮崎監督の前作『風立ちぬ』は、大正時代から第二次大戦前夜の、若者たちの夢や苦悩が一如となった青春群像が描かれていた。その中で、筆者の目に焼き付いているのは、何故か屋根瓦が大地を波のようにうねり襲いかかる震災のシーンである。

 今から800年ほど前、たぐい稀な若きジャーナリストがいた。鴨長明という。彼が記した随筆が『方丈記』である。内容の前半は、平安末期の自然災害オンパレードとなる。大火で炎上する街並みや台風で半狂乱となる人たち。首都移転や京都の荒廃。干ばつによる餓死。大洪水や疫病で亡くなる人々。震災下における家屋の倒壊や津波に流される街の様子。
そして、悲惨な運命に流され、生きることの辛さに呆然とする人の姿が克明に記されている。

 日本の歴史書でもある『吾妻鏡』には、多くの大震災の記載があり、鎌倉の世は災害の時代であったと知ることができる。時を重ねるように日本仏教の黎明期が訪れる。それぞれの宗祖は、法然、親鸞、一遍、栄西、道元、日蓮の六祖である。そして、歴史に名を刻まれていないものの、災害に苦しむ人々の間に分け入り励まし続けた大乗仏教ウルトラマンがいたと推察する。今でいうスーパーボランティアだ。
そして、各宗の開祖さまも自らが先頭に立ち、一人ひとりに「大丈夫ですか」と心を寄せ、安らぎを広めた菩薩であったと受けとめている。

 令和の御代は、新型コロナウイルスと人類のしのぎ合いから始まった。令和6年元旦。家族・親せきが集まり「おめでとう」とおせち料理に舌鼓を打ち、会話はずむときに能登半島を中心に震災が襲う。日本や世界の多くの方が被災者の苦悩を感じ「力(ちから)」になりたいと痛感した。筆者もその一人だ。

 鎌倉時代には、将来の天台座主と称される方までが志をいだき市街に立ち入った。その想いは…と心はせるとき、これからも続くであろう混迷の時代に「君たちはどう生きるか」という声がダイレクトに自分へと向けられていると実感する。
                              九拝 龍

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