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【北守谷スピーカー工房】Vol. 1「ジェネリック650」の製作

スピーカー工作の記事は、「北守谷スピーカー工房」というシリーズでお届けしたいと思います。第1作は、前からどこかでまとめなきゃいけないだろうなと考えていた「ビギナー応援企画」としました。要は電動工具なしでスピーカーを作ることはできるのか? という疑問に答える製作記事ですね。結論からいえば、手動工具がいくつか必要になりますが、電動工具一切なしでスピーカーを作ることは可能です。

せっかくのビギナー企画なのだから、作るスピーカーがあまり大きくては入ってきにくくなるし、かといってオモチャみたいなものでは実用性がありません。そういう時、ふと考え付いたのがフォステクスの「かんすぴ」です。6.5cm、8cm、10cmの3種類のユニット用にごく簡素ながらしっかりしたキャビネットを用意してあって、ユニット(※1)と一緒に買ってきて内部配線をつなぎ、キャビネットへユニットを取り付けるだけで完成するという、簡単なキット商品といってよいでしょうね。今回はそのキャビネットを参考にして私が図面を引き、これ以上ないくらい簡単でしかも実用性の高いスピーカーを作ろうと思います。

※1:スピーカーの音が出る部分のパーツをいう。全帯域の再生を意図したものをフルレンジ、低音のみ再生するものをウーファー、中域専用ユニットをスコーカー、高域専用ユニットをトゥイーターと呼ぶ。

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今回使用したのはフォステクス社のフルレンジ・スピーカーユニットP650K。1本1,760円と至って廉価なユニットだが、そこは世界一流の技術を持つ同社だけに、結構ワイドレンジでしっかりハキハキと歌う楽しい音のユニットである。


かんすぴはフォステクスのPシリーズという廉価なフルレンジを用いています。今回はその中で一番小さなP650Kユニットの純正キャビネットP650-Eを参考にします。

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参考にしたキャビネットはフォステクスの「かんすぴ」シリーズP650-E。こちらも1本2,530円と廉価だが、これを買ってしまうのではなく自分で作ることこそを楽しむのが、私自身を含むスピーカー自作派という存在だ。


P650-Eは面白いことにキャビネットの仕様がすべて公開されています。内容積1.00リットル、バスレフ(※2)のチューニング周波数(※3)134Hz、板厚は9mm、材質はパーチクルボード、などなど。これ、明らかに狙いがありますね。きっと「このデータを参考にして、皆さんも新しいスピーカーを設計・製作して下さい」ということなんだろうと思います。このキャビだって売りたいというのがメーカーとして当然だろうに、こういう姿勢を打ち出すフォステクスには敬意を表さなきゃいけませんね。

※2:箱に筒を取り付けて、特定周波数の共鳴を起こさせることで低域を効率良く再生させる仕組み。世のスピーカーの大半がこの方式を採用している。

※3:箱の内容積と筒の断面積、長さを調整することでバスレフの共鳴周波数を任意の値に合わせ込むことができる。

それでは遠慮なく、このデータを基に私も設計させてもらおうと思います。こちらも板厚は9mmで、しかし入手の容易さから材質はMDFにします。ざっと計算して、外寸90W×150H×130Dmmにすると内寸にして72×132×112=1,064ccですから、まぁいいところですね。かんすぴの外形寸法は85W×170H×126Dmmですから、私の作例の方が少しずんぐりしたプロポーションとなります。

バスレフダクトはかんすぴはφ24mmの円筒形ですが、こちらはスリットダクトを採用します。φ24mmの穴をバッフルに手動工具であけようとすると、結構お金がかかってしまうのです。また、そうすれば全部1枚のMDFから切り出すことができますしね。

ダクトの断面積はφ24mmと同等に取るなら高さ6.3mmになります。こんな精度を自作で出すのは大変ですから、ここは7mmと取りましょう。円筒よりもスリットの方が効率は下がるから、断面積はやや大きめにしておいた方がいいものです。この断面積で計算したら、ダクトの長さをバッフル(※4)の厚み込みで6.9cm取ると共鳴周波数は135Hz、かんすぴは134Hzと公表されていますから、ほぼピッタリといってよいでしょう。

※4:スピーカーの表板、一般にユニットが取り付けられる壁面のことをいう。

ここまで「まぁいいところ」とか「ほぼピッタリ」とか書いてきました。スピーカーってそんなにいい加減でいいの? と思われるかもしれませんが、いい加減で構わないんですよ。例えば自動車のエンジンを組み立てている時に「まぁこんなもんでいいだろ」とか「ほぼ間違いないから大丈夫」なんてやってたらいつ停まっちゃうか分かりませんし、何より火が出る可能性があり、危険です。オーディオでもアンプの自作などでは小さなミスが火事の元となったりしかねませんが、その点スピーカーはちょっとくらい内容積が違ってもバスレフのチューニングがズレても、まず事故が起こることはありませんし、後からいかようにもリカバーは可能なのです。

キャビネットを作っている時も、「しまった! すき間が空いちゃったよ」と気づいたら、そのすき間をパテやコーキング剤で埋めればいいだけの話です。何も難しく考える必要はありません。ただし、配線の+と-をショートさせることだけは細心の注意を払って避けて下さい。これをやっちゃうと、アンプの方から火が出る可能性が極めて高くなりますからね。

ここまでの設計で1時間くらいかな、板取り図の作成も2~3時間で終わりました。このキャビネット形式というか作り方は、多分最も作りやすいバスレフ型なのではないかと考えています。亡くなられた長岡鉄男氏の作例でも、フォステクスの8cmフルレンジFE83(現在のFE83NV2)用バスレフBS-8がよく似た形状です。ほとんどどんなユニットにも応用できる便利な設計・組み立てフォーマットとして、特許が切れて多くの会社から安く出ている医薬品の一般名称から、私はこれを「ジェネリック」シリーズと命名しています。今作は採用ユニットがP650Kですから、「ジェネリック650」という名前にします。

今作で一番の眼目は「電動工具なしにスピーカーを作る」ということですから、とにかく作りやすいものにしなくちゃいけません。具体的には、まず穴あけが最小限で済むこと。電動工具なしでユニット穴などをあけるのは、廉価な手挽きの曲線鋸を使えばそう難しくはありませんが、やっぱり時間も労力もかかりますね。

もし地元のホームセンターで丸穴をあけてくれるところがあれば、頼んでしまうのが一番だと思います。ちなみに、わが地元のジョイフル本田・守谷店では丸穴あけを受け付けてくれます。もし丸穴あけを業者に頼めれば、今回のキャビネットは板材と木工ボンドだけあれば完成させられることになります。

次に重要視したのは、前述した通り木工ボンドで張り付けていくだけでキャビネットが完成すること。私自身まだ青少年の頃、自分で設計したスピーカーを、なにぶんまだ電動工具は高くてとても手が出せませんでしたからね、手動工具だけで組み立てようとしたら思ったより厄介で時間のかかる構成だったことに、作りながら気づくなんてことがありましたからね。例えば、バッフルと天板の継ぎ合わせ面は木口が前に見える方でも上に見える方でもキャビネットとしては全然問題ないのですが、今作のように上へ木口が見えるようにした方がバスレフダクトと同時に組み付けられるから、時間もかからず簡単に製作できることになります。ちょっとしたことなんですけどね。

丸穴について先に書いちゃいましたが、基本的に板のカットはホームセンターへお願いすることを前提にしています。直線カットならごく手早く廉価にやってくれますからね、昨今のホームセンターは。有り難いものです。

ただし、店によってはカット精度がイマイチなんてことが起こったりしがちですが、そういう時にもし接合面にすき間ができても天を仰ぐ必要はありません。それこそ木工パテで埋めてやれば何も問題はないのです。スピーカー工作で一番大切なことは、問題が起こっても深刻に捉えず、粛々と対策することですかね。

ph03(木工パテ)

木工パテ。小さなチューブ入りなら500円くらいで買えるのではないか。写真はあくまでサンプルで、地元の店が置いてあるものを購入すれば大丈夫だ。


私も随分長く雑誌へスピーカーの作例を発表していますが、何といっても私が作るのはプロトタイプもいいところで、時に寸法が間違っていたり、楽に組み上がるつもりで設計した工程が実はひどく難しかったり、なんてことがありますが、そのたびに鋸で切り直したりホームセンターへ走って新しい板を切ってもらったり、それはもう大変ですが、おかげで現場度胸はつきました。

今作「ジェネリック650」の製作法について解説していきましょうか。といっても、ここは動画を見てもらえれば概ね分かると思います。構造図に記した組立式に基づき、板番号の順に木口へ木工ボンドを塗って張り合わせていけば、ほぼ失敗なく完成させられることでしょう。木工ボンドが接着強度を発揮させ始める時間は、春・秋のいい季節なら30分、湿気の多い梅雨時や寒くて水分が蒸発しにくい冬場でも、1時間も置けば次の工程へ向かって問題ないでしょう。

ビギナーにとって最大の難関というか、敷居を高く感じさせるポイントは、ひょっとして半田付けなのかな。とはいっても皆さん、中学の技術家庭科で一度は半田ゴテを握ったことのある人が大半なんじゃないかと思います。今は100円ショップでも(確か200円くらいで)売っている半田ゴテですが、あの手は消費電力(≒熱量)があまり高くないので、スピーカー作業用には30Wくらいのコテを薦めます。

ph04(半田ゴテ)

私も愛用している半田ゴテ。消費電力30Wで、スピーカーから基板ものまでそこそこ手早く作業できるので気に入っている。今買っても1,000円前後ではないか。


半田はヤニ入りの巻き半田、電子工作用とかそのへんでいいでしょうね。いわゆるオーディオ用の高音質半田もありますが、あれらの大半は融点が高くて融けにくく、いささか上級者向けといわざるを得ません。半田で音が変わるのは厳然たる事実ですが、それらに凝るのはもう少し後でもいいでしょう。

ph05(半田)

初めての半田付けならこれくらいの半田でよかろう。多分500円もしないと思う。


配線材も高級スピーカーケーブルを使うと明らかに音が変わりますが、そのためにほんの数十cm買ってくるのも大変ですから、今回はホームセンターで買える赤黒の平行ケーブル、いわゆるVFFケーブルの太さ0.75スケアを使っています。¥100/mくらいかな。

ph06(VFF配線材)

私が簡単な作例の配線材に愛用しているVFFコード。さまざまな太さがあるが、今作くらい小さなユニット用なら0.75スケアで十分だ。画像はオヤイデ電気のオンラインショップから拝借した。


動画でも解説していますが、ユニットを取り付ける際、ドライバーの先端から守るために、ユニットは必ず手で覆わなければいけません。私も一度やらかしたことがありますが、安いユニットだったので比較的気楽に買い直すことができました。友人で1人フォステクスの限定ユニットに穴をあけてしまった者がおり、彼は嘆いていましたね。ま、そりゃそうです。限定ユニットはたいていすぐに売り切れて、替えの利かないものですからね。

もっとも、購入してすぐに限定ユニットを破損してしまった場合は、メーカーへ問い合わせるとリコーン(振動系の貼り直し)してもらえる可能性もあります。もちろん有料ですが、もし万が一そんな羽目に陥ってしまったら、一度は問い合わせてみる価値があるでしょうね。

ターミナル側もユニットと注意点はほぼ同じです。振動板を覆う必要がないくらいかな。取り付けるターミナルですが、先端がバラ線になっているごく普通の切り売りスピーカーケーブルをお使いなら、動画で紹介している1個300円くらいのスプリング式端子で全然構いません。あまり芯線の太いケーブルは使えなくなりますけどね。

ある程度以上太いケーブルを使いたい人、またバナナプラグやYラグなどを先端へ取り付けたい人には、スプリング式は薦められません。やはりしっかりしたネジ留め式のものが良いでしょう。自作スピーカー・パーツの聖地コイズミ無線を当たると、2個で600円くらい(取り付けネジ込み)からあるようですね。性能的には十分だと思います。

ph07(ターミナル)

秋葉原コイズミ無線で売っているターミナルLEAD TS155。別売の取り付けネジ込みでも2個で600円と格安だが、これは太いバラ線も入るしバナナ/Yラグにも対応のしっかりしたものである。私も今度秋葉原へ出たら買ってこようと思う。


ユニットを取り付ける前に、キャビネット内へ吸音材を貼らなければいけないと、多くの教科書には書いてあります。実際、市販スピーカーにはほぼ全数吸音材が入っています。しかし、ユニットを取り付けて音を出し、その音が気に入ったら別に吸音材を入れる必要はありません。私も今作には一切の吸音材を入れていませんが、まぁこれでよいかなと思います。

ちなみに、鳴らし始めてすぐの音はガサガサと低品位で歪みっぽく、レンジが狭く感じることが普通ですが、これは吸音材が必要なサインではありません。作ったばかりのスピーカーはユニットの振動系は渋くて動きたがらないし、キャビネットにも応力歪みが残っています。それが、鳴らし始めて1時間、1日、1週間、1カ月とたつうちにどんどんほぐれ、本調子になっていくのです。

これをエージングといいます。オーディオ機器ならプレーヤーでもアンプでもケーブルでも、すべてに起こる現象ですから、何か機器やアクセサリーを買い替えた際に音が自分の思っていたものと違っても、やはり最低1カ月はガマンして使ってみましょう。それで解決しちゃうことも結構ありますよ。

そうやってしばらく鳴らし、なおかつ音に違和感が拭えない時には、吸音材をキャビネットの内壁に貼ってやりましょう。素材は別にオーディオ用のものでなくとも、フワフワした綿のようなものなら大抵使えます。今作のように小さくてあまり量がいらない場合は、ドラッグストアで売っている脱脂綿などちょうどいいんじゃないですか。

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100g入りの脱脂綿なら最寄りドラッグストアですぐ買えるだろう。1,000円くらいだと思う。


吸音材の貼り方はまずユニットの後ろ側リアバッフルへ貼り付け、違和感が収まらなければ底板、天板、側板の片方ずつといった風に少しずつ貼っていきます。バスレフダクトに干渉しないよう、今作ならダクトの開口から2cmくらいは空けておきたいところです。接着剤は木工ボンドで問題ありません。

吸音材については材質や厚み、貼り方でずいぶん音が変わってしまうものですから、そのうち一つのテーマとして取り上げたいと思います。しかしこれ、動画にしにくいなぁ……。何かいい方法はないですかね。

今回の「ジェネリック650」は簡単な作例でもあるし、動画 + note開始記念ということで、図面は無料公開とします。ただし、くれぐれも禁・無断転載、商用ご希望の向きはお問い合わせを、という項目はお守り下さいね。

ph09(板取図)

「ジェネリック650」板取図。禁・無断転載。商用ご希望の向きは別途お問い合わせを。
(c) Akira Sumiyama


何か質問事項がありましたら、こちらでもYouTubeでも構いません。コメント欄へ書き込んでいただければ、私のできる範囲でお答えします。

ph10(構造図)

同 構造図。禁・無断転載。商用ご希望の向きは別途お問い合わせを。
(c) Akira Sumiyama



それではまた。今後とも、長いお付き合いをお願い致します。

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