絞りを変えると写真のなにが変わるのかを、普通の日本語で説明してみる。

 レンズの中に「絞り」というものがあって、それはレンズをとおる光の量を調節するための機構なんだよ、ということを、ちょっと前に書いたけれども、今度は、「絞りの機能はほかにもあるよ」というのを語ってみたい。

 レンズの絞りによって変わるもののひとつに、「解像力」というものがある。おおざっぱには、描写のシャープさの度合いで、細かいものを、どれぐらい克明に写すことができるか、をあらわしたものだ。レンズの視力といってもいい。「分解能」ともいう。

 解像力が低いと、たとえば、森の写真を撮ったときに、木がたくさん並んでいるなあ、というのは伝わるけれど、細かい部分がもやっとしてしまっていて、それがどういう種類の木なのか、どれぐらいの密度で生えているのか、枝ぶりや葉の茂り具合まで判別するのは難しい。というのが、解像力が低い状態だ。それに対して、1本1本の木の枝ぶりだったり、幹の木肌の様子だったりまでがくっきり見えること、そんなふうにたくさんの情報が読み取れるのが、解像力が高いということだ。

 専門用語で、解像力が高いことを「シャープである」「シャープネスが高い」など、低いことを「アマい」「キレが悪い」などという。

 で、そのシャープさが、絞りによって変わってくる。つまり、絞りの設定次第で、レンズの持つ解像力がよくも悪くもなる、ということだ。

 基本的には、絞り開放よりも絞ったほうがシャープになる。また、画面の中心部よりも周辺部はシャープさが落ちる(これも絞ると改善されるケースが多い)。ただし、ある程度以上絞ると、今度は「回折」と呼ばれる現象のせいで、シャープさはそこなわれてしまう。とまあ、そんな性質を持っていることを覚えておいて欲しい。

 絞り開放でのアマさの度合い、絞ったときのシャープさ、周辺部の落ち具合などはいろいろで、それこそレンズによって違う。

 設計が古めの明るい単焦点レンズに多いのが、絞り開放はほわっとソフトフォーカスっぽいシマリの悪い写りなのが、絞るととたんにきりっとシャープになるタイプ。解像力がもっとも高くなるのは、だいたい絞り開放から3、4段絞ったあたりになる。このタイプのレンズは、1、2段絞った、ソフトさとシャープさの入りまじったあたりでポートレートを撮るのが楽しい。

↑カメラはオリンパスのE-M5 Mark II。レンズはシグマの50mm F1.4 EX DG HSM(「ART」じゃないタイプ)で撮ったもの。これの目玉の部分だけを切り抜いたものを見ていただこう。

↑F1.4

↑F2

↑F2.8

↑F4

↑F5.6

↑F8

↑F11

↑F16

↑とまあ、こんなふうに、絞り開放ではほわっとソフトなのが、絞るにつれて次第にシャープになっていき、それからだんだんシャープさがなくなっていくのがわかる。このレンズの場合、この条件ではF5.6あたりで撮るのがいちばんシャープだ。F11やF16でシャープじゃなくなるのは、あとで説明する「回折」現象の影響だ。


 一方、比較的設計の新しいものは、絞り開放でのほわっと感が少なくて、絞ったときとの描写の差が小さくなる。このタイプは、マニア受けはあまりよくないけれど、絞り開放でもそこそこシャープに写ってくれるので使い勝手がよくて、コストパフォーマンスが高めなケースも多い。

 その逆に、うんとお高い単焦点レンズには、絞り開放から目の覚めるようなシャープな描写をするレンズもある。が、そのタイプは、お値段だけでなく、サイズや重さも尋常ではないので、見ないふりをしてとおりすぎるのが無難だったりする。

 画面の中心部はシャープで、周辺部がアマいタイプは、広角系の単焦点レンズや、ズームレンズの広角側に多い。画面中心部も絞るほどにシャープになるが、それほど大きな変化はないことのほうが多い。周辺部は、絞り開放ではダメダメなタイプと開放でも良好なタイプがあって、絞るとよくなるタイプ、絞ってもたいして変わらないタイプがある。中には、絞り開放で四隅がぐずぐずに崩れたような写りになってしまって、しかも、絞ってもあまり改善されないなんていう不憫なレンズもある。

 スナップやポートレートでは、画面の周辺部はもとからボケてしまっている場合も多いので、周辺部がシャープじゃなくても問題になりにくいといえる。風景などでは隅々までシャープなほうが使いやすいから、周辺部の解像力のいいレンズを選んだほうがいいわけだ。

 あと、最近はめったにお目にかかれないけど、遠距離はシャープなのに、近距離ではアマくなるというレンズもある。

 基本的に、レンズは無限遠(ものすごく遠く)にピントを合わせたときにもっとも性能がよくなるように設計するので、撮影距離(撮る対象物からの長さ)が短いほど、つまり、近くのものを撮るときほど性能は落ちる。シャープじゃなくなってしまう。

 普通は気になるほど落ちることはないし、最近は「フローティング」といって、ピント合わせのときのレンズの動かし方を微妙に変えて近距離でも性能が落ちないような工夫をしたレンズも増えている。が、たまに目立つ落ち方をするレンズもあったりする。そういうのは数字的にはいまいちなレンズになってしまうわけだが、遠距離でシャープなら風景には問題ないし、近距離でほわっとしてくれるならポートレートにもいい。というふうに、うまい使い方を考えて付き合うのも楽しい。

 というのはさておいて、こんな、近距離でシャープじゃなくなるのも、絞ることで改善できるケースが多い。


 ここまでは、絞ったほうがシャープになるよ、というお話。でも、絞り込むことで画質が悪くなることもある。

 回折と呼ばれる現象のせいで(これについても説明しはじめると長くなるのでやらないけど)、ある程度までは絞るごとによくなっていく画質が、途中からだんだん悪くなっていく。開放から3、4段絞ったあたりで撮るのがいちばんいい、といわれるのは、この回折現象のせいだ。

 撮像画面サイズや撮像センサーの画素数などもからんでくるから一概にはいえないが、おおざっぱには、絞りF8ぐらいから少しずつ影響が見えはじめ、F11あたりから「あ、解像力が悪くなってきたな」というのが感じられるようになる。F16以上に絞ると、どんなにシャープなレンズでも、「あ、もったいないなぁ」という写りになってしまう。

 だから、レンズを手に入れたら(今使っているレンズも含めてだが)、絞り開放から最小絞りまで、3分の1段刻みでテスト撮影しておくといい。できれば、遠距離の街並みとかと、近距離の建物の壁とか、それとめいっぱいの至近距離の3パターンを撮っておくと、そのレンズの絞り開放がどれぐらいアマいのか、どれぐらいの絞りでシャープになるか、どれぐらいから絞りすぎになるのかがつかめるはずだ。そうしておくことで、そのレンズを使うときに、どの絞りで撮ればいいかが判断しやすくなると思う。

 当然だが、この手のテスト撮影をやるときは、カメラは三脚に固定するのがおすすめ、というか、ほんとは必須である。手持ちだと、ブレの心配があるし、画面が少しずれただけでも見比べるのが難しくなる。知り合いから借りるとかでもいいから、三脚は用意して欲しい。


 これは知っている人も多いんじゃないかと思うが、絞りを変えることでピントの合い具合というか、背景のボケ具合なんかも変えられる。

 写真の「ピントが合っているように見える範囲」のことを「被写界深度」という。厳密にいうと、ピントが合うのはごく狭い範囲で、たとえば、2mの距離にピントを合わせたら、1m95cmのところにあるものや2m5cmのところにあるものは、微妙にだけれどボケている。ボケているといっても、そのボケ方がごくわずかなので、便宜上ピントが合っていると見なすことにしている。その、ほんとはボケているんだけど、ピントが合っていることにしてもいいんじゃないかな、まあ、いいことにしちゃおうよ、という範囲。それが被写界深度である。

 たとえば、ポートレートで、目にピントが合っていて、前髪や耳はもう微妙にだけどボケている。そんなふうに、ピントが合っているように見える範囲が狭いことを「被写界深度が浅い」とか、短くして「深度が浅い」などという。反対に、風景などで、手前にあるものから遠くにあるものまでくっきりシャープに写っているのは「被写界深度が深い」「深度が深い」などという。

 この被写界深度を浅くしたり、深くしたりするのも絞りの役割だ。

 被写界深度は、カメラの撮像センサーのサイズやレンズの焦点距離、撮影する対象までの距離などの条件によっても左右されるが、それらが同じであれば、絞りを開いて撮ることで浅くでき、絞り込むことで深くできる。

 つまり、背景を大きくぼかしたければ絞りを開き、画面全体をくっきりと見せたいなら絞り込んで撮ればいい。そういうことになる。

↑F1.8

↑F2

↑F2.8

↑F4

↑F5.6

↑F8

↑F11

↑F16

↑F22

↑こちらはオリンパスE-M5 Mark IIとM. 45mm F1.8で撮ったもの。ピントは中央のパンダに合わせているので、手前のビールと枝豆、奥のカエルはボケている。が、絞り込んでいくと、ビールと枝豆もカエルもはっきり写るようになる。F16まで絞ると、どちらにもちゃんとピントが合っているように見える。つまり、「被写界深度に収まった」状態となる。


 ただし、レンズによって設定できる絞りの範囲はかぎられるので、ぼかすにしても、そうじゃないにしても限界はある。

 さっきも書いたように、被写界深度は、いろいろな要素がごちゃごちゃとからみあって決まる。その中で、絞りによって変化させられる量というのはそれほど大きくはない。むしろ、思うほどの自由度はないと考えておいたほうがいいぐらいだ。

 おおざっぱには、被写界深度を浅くするには、よりサイズの大きな撮像センサーのカメラを使う、レンズの焦点距離を長くする(より望遠にする)、撮影距離を短くする(近づいて撮る)、ボケになるもの(背景など)をなるべく遠くにする。それから絞りを開けるというのがある。

 被写界深度を深くするのはその反対。撮像センサーが小さいほど、焦点距離が短いほど(より広角にする)、撮影距離を長くする(離れて撮る)、撮影対象と背景との距離を短くする。そして、絞りを絞って撮る。そうすれば、手前から背景までピントが合った(厳密には「合っているように見える」)写真に仕上がってくれる。

 ただし、絞りすぎると、回折の影響でシャープさをそこなうことになるので、そのへんのかねあいをよく考える必要がある。

 それと、エントリークラスの標準ズームは暗いので、望遠側にしてもそんなにボケてはくれない(それでがっかりする人も多いらしい)。だから、背景を大きくぼかして撮りたいなら、なるべく明るいレンズを手に入れておいたほうがいいだろう。


 もうひとつ。使用するレンズや、ほかの条件にもよるが、画面の周辺部が中心部に比べて暗く写る現象があって、絞りにはそれを改善する効果もある。

 この現象は、そのまんま、「周辺光量低下」と呼ばれていて、画面の端のほうが暗くなるため、写真の見た目、受ける印象を大きく左右する。

 画面の中央部が明るくても、周辺部が暗いと、それだけで全体が暗くて地味な雰囲気になりやすい。印象もよろしくない。そういうときは、開放から2、3段絞るといい。

↑F2.8

↑F5.6

↑これはキヤノンのEOS Kiss X7iとEF-S 60mm F2.8 マクロ USMで撮ったもの。絞り開放のF2.8では画面の周辺部の光量が低下していて暗くなっているが、F5.6まで絞るとあまり目立たなくなった。


 たいていのレンズは、絞り開放では多少の周辺光量低下が発生する。あまり目立たないレンズもあるが、派手に落ちるレンズもある。どれぐらい落ちるかはレンズの設計によって違ってくる。望遠だからとか広角だからというのではなく、どれぐらい余裕を持たせた設計にするか、というのが問題となる。

 基本的には、周辺光量が落ちにくいようにするには、レンズを大型化しないといけない。その分、重くなるし、コストもかさむので、設計者にとっては頭を悩ませるところだったりする。

 ただ、周辺光量低下は、開放から2段ほど絞ればそんなに気にならなくなるのが普通で、3、4段絞れば、ほぼ均一な明るさになってくれる。ということもあるので、よほどひどい落ち方をするとか、絞ったときの改善の度合いが物足りないとかでないかぎりは気にしなくていい(というか、そういうレンズは実用化されないことのほうが多いし)。

 それに、この周辺光量を逆手にとるというテクニックもある。

 人間の目は、明るいところに向いてしまう習性があるので、画面の周辺部が暗いと、自然、視線は中央部に向かうことになる。だから、見てもらいたいものを目立たせる目的で、意図的に周辺光量低下を活用したり、画像処理でわざと暗くすることもある。

 たそがれどきのほの暗さを強調したい、あるいは今にも雨や雪が降りそうな雰囲気をかもしだしたいときは、わざと絞り開放で撮ってみる、という手もあるわけだ。

 ちなみに、最近のカメラの中には、周辺光量を自動的に補正して、均一な明るさに仕上げてくれる機能を持ったものが増えている。絞り開放でも周辺光量低下を抑えられるので、好みなどに合わせて設定するといいだろう。ただし、暗くなった部分を無理やり明るく加工するのだから、部分的にざらついたりして画質が落ちる場合もある。また、補正するのに、そのレンズの周辺光量の落ち具合のデータが必要なので、純正のレンズじゃないと正しく補正できない点には注意して欲しい。サードパーティー製のレンズをつけたときに、補正せずに無視されるならまだしも、違うレンズのデータを流用して補正した結果、かえって不自然な仕上がりになってしまうこともあるからだ。


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北村智史

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